Jealousy〜case05:石川P



※石川Pの捏造設定あり注意。


「すみませーん!」

とある休日。
315プロの事務所に、若い女性の声が響いた。

「はーい!」

賢が声を張って返事を返し、作業の手を止めて、応対に向かう。
会議室で次の仕事の打ち合わせをしていたBeitとWの面々は、ドアの向こうの来客に意識を向けた。

「あれ、お客さんだ」
「しかも女の子みたいだね、珍しい」

所属アイドルも社員も男性ばかりの事務所のため、事務所内で女性の声を聞くこと自体が珍しいのだ。
その場にいたBeitとWのメンバーはみな、打ち合わせを中断して、賢と来客の会話に耳を澄ませた。

「あの、お兄ちゃ…じゃなくて、石川の忘れ物を届けに来たんですけど…」

聞こえた言葉に、ばっ!と顔をあわせるWの2人。

「「お兄ちゃん!?」」
「…てことは、プロデューサーの妹か」
「へえ、プロデューサーって妹がいたんだね」
「プロデューサーさんの、いもうと?ボク、会いたい!」

石川のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ少女に、Wの2人とピエールは興味津々で会議室の扉の近くで様子を伺った。

「プロデューサーさんはもう少しで戻られる予定なので、よろしければこちらにどうぞ」
「ありがとうございます」

ーー賢がソファに案内したようだ。
そわそわとする3人に、みのりが「確認したいことは確認できたし、打ち合わせはここまでにしようか」と苦笑して言うと3人は勢いよく扉を開けて、飛び出していった。

「君が監督の妹さん?」
「え、あ…はい」
「ほんとだ、監督にそっくり」
「はじめまして、ボク、ピエール!よろしくね!」
「あ、オレは蒼井悠介!で、こっちが…」
「蒼井享介です、よろしく」
「ほらほら、みんなそんなに一斉に話したら困っちゃうよ」

3人に遅れてやってきたみのりがフォローに入り、恭二もそっと様子を伺う。

「ふふ、ごめんね、驚かせて。プロデューサーの妹さんって聞いて、みんな気になっちゃって」
「あ、いえ、大丈夫です!私は、石川なまえと言います。みなさんのことは、兄からよく伺ってます」

そう言ってぺこりと頭を下げるなまえ。

「知ってくれてるみたいだけど…一応挨拶しておこうかな。俺は渡辺みのりです。よろしくね、なまえちゃん」
「…鷹城恭二。よろしく」
「よろしくお願いします。みなさん、いつも兄がお世話になってます」


そう挨拶を交わし、賢がお茶を淹れて一息ついたところで、事務所の入り口が開いた。

「ただいま戻りま…なまえ!?」
「あ、お兄ちゃん!」
「どうして事務所に…」
「お兄ちゃんスマホ忘れていったでしょ。今日大事な打ち合わせがあるって言ってたから、ないと困るかと思って届けに来たの」

そう言って、バッグからスマホを取り出すなまえ。
指摘された石川が、ポケットを確認すると、確かにスマホが入っていなかった。

「え?…ああ、本当だ。ありがとう、なまえ」
「どういたしまして」

そのやりとりを少し遠巻きに見ていたアイドルは、再びなまえたちに話しかけた。

「監督、妹さんが居たんだね」
「はい、僕の妹のなまえと言います。可愛いでしょう?」
「ばっ…!!何言ってんの!!やめてよ!!」

一言でシスコンだとわかる紹介の仕方に、アイドルたちは目を丸くした。
なまえは真っ赤になって抗議しているが、プロデューサー本人はどこ吹く風だ。

「事実だからね」
「そういうのいいから…!」
「プロデューサーってシスコンだったんだな…」
「あはは、監督の面白い一面知れちゃったな!そうだ、せっかくだから、連絡先交換しない?」

そう悠介がスマホを取り出して言うと、ずいっとプロデューサーがなまえと悠介の間に割り込んだ。

「そういうのは、僕を通していただかないと」
「怖っ…!!」
「やめてよもー!!」
「僕はなまえが可愛いから心配で…」
「何もないから!」
「……筋金入りだね、これは」
「意外だな…」

そんな風に賑やかに過ごしていると、再び事務所の入口が開き、明るい声が響いた。

「I'm back!!なんだか賑やかだね!What happened?」
「っ!」

その声になまえが反応したことに気付いたみのりは「おや」となまえを見た。
そんな類のあとに、道夫と次郎も事務所に入ってきた。

「プロデューサーさんの妹、来てる!」
「へえ、プロデューサーちゃんに妹いたんだ?」

物珍しげになまえを見るS.E.Mの3人。
するとすぐに、類が笑顔でなまえに話しかけた。

「はじめまして!Nice to meet you!俺は舞田類だよ、よろしくね☆」
「あ、な、Nice to meet you too…あの…兄がお世話になっています。私は、石川なまえと言います、よろしくお願いします」
「Oh!すごいね、良い発音だ♪」
「あ、ありがとうございます…」

さっきのプロデューサーへの勢いを潜め、赤くなるなまえに、みのり以外のメンバーもその態度の違いに気付いた。

「もしかして、るいせんせーのファン?」

享介が尋ねると、なまえは恥ずかしそうにこくりと頷いた。

「Oh my god!You are the best!プロデューサーちゃんのSisterにそう言ってもらえるなんて、光栄だな!」

類がなまえの手を取り握手をすると、さらに赤くなるなまえ。

「こ、この間のドラマ、すごくかっこよかったです!」
「I'm so happy!!Thank you so much!!」

そんなやりとりを、みな微笑ましく見守った。
――ただ1人を除いて。

「いくら我が社のアイドルのみなさんでも、なまえのことであれば話は別です…!僕を倒してからにしてください!!」

と、背後からゴゴゴと音がしそうな迫力のあるプロデューサーが、握手していた2人の手をちぎり、類の前に立ちはだかった。

「な、なにするの、お兄ちゃん!!」

何かから守るように、プロデューサーはなまえを抱きしめる。
その様子は、狼の群れからか弱い羊を守るかのようだ。
…ちなみに、抗議するなまえの言葉は、プロデューサーには届いていなかった。

「プロデューサー、キャラ変わってないか?」
「ふむ…多少大げさにも聞こえるが…プロデューサーの気持ちは理解できる」
「ミスターはざまにも、Sisterがいるもんね☆」
「ああ」
「なるほど、同志ですね、硲さん!でも妹は渡せません!」
「…なまえさん、大変そう」
「だな」
「プロデューサーちゃん、なまえちゃんのこと大好きなんだねえ」
「もちろんです!!目に入れても痛くないですよ!!」
「目に入れる…!?どうして!?」
「大丈夫、そのくらい可愛い、っていうたとえだから本当には入れないよ、ピエール」


プロデューサーの新たな一面を見せつけられたことにより、315プロではしばらくの間、なまえの話題で持ちきりとなった。
その場にいなかったアイドルたちはたいそう悔しがり、プロデューサーに会わせてくれるよう頼んだが、笑顔でばっさり断られたとか。




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