とある日の午後。
珍しく元気のなさそうな山村に、事務所にやってきたWの2人が心配そうに声をかけた。
「ケン、なんだか元気ないね」
「何かあったの?」
2人に聞かれると、山村は「実は…」とその理由を語った。
「「ええーーー!!?監督が、お見合いーーー!!?」」
「わ、ダメですよ、そんな大声出しちゃ!!」
双子らしく見事にハモったリアクションに、「ぼくも小耳に挟んだだけですから」と山村がしーっ!と人差し指を立てる。
2人が詳細をせがもうとしたところで事務所の電話が鳴り、山村が対応に追われてしまい、そこで話は終わってしまったのだった。
そして1日の仕事を終え、家に帰った2人は、どちらともなく作戦会議を開いた。
「どうしよう、享介、オレ監督がお見合いするなんて嫌だ!」
「俺だって嫌だよ!でも、俺たちにお見合いを止める権利なんてないし…」
「それはそうかもしれないけどさ!オレは絶対して欲しくない!」
「だから、それはわかってるけど…」
駄々っ子のように嫌だ嫌だと繰り返す兄に、享介はため息をつく。
「オレ、監督が監督じゃなくなるなんて嫌だし…」
「まだそうと決まったわけじゃないんだろ。お見合いしたらすぐ結婚ってわけじゃ…」
「けどさ!今回は、お見合いだけで済むかもしれないけど…監督が、誰かのものになっちゃうのも、嫌だ」
「悠介…それは…俺も、そうだけど…」
確認しあったことはなかったが、監督への好意が、単なる『自分たちのプロデューサーへの好意』でないことは、お互いに気付いていた。
双子で同じ人を好きになるなんて…とも思うが、今はそれどころではない。
お互いにとられるのも嫌だが、第三者に、ましてや「お見合い相手」なんてぽっと出の奴にとられるなんて、言語道断なのだ。
「だからさ!監督に、告白しよう!!」
「ええっ!?」
驚く弟に、悠介は威勢よく立ち上がって宣言した。
「オレたちの気持ち、伝えようぜ!」
「『オレたち』って…俺もなの?監督を困らせるのは、よくないだろ」
「じゃあオレだけ告白してもいいのかよ」
「そ、そうは言ってないだろ!!」
慌てて立ち上がった享介の肩に両手を置いて、悠介は強い視線で目を合わせた。
「いいか享介、シュートは躊躇っちゃダメなんだ!シュートは打たなきゃゴールに入るわけないんだから!」
「なに、そのたとえ…」
「とにかく!オレ、監督に告白するから!享介は、するの、しないの!?」
「うわっ!?」
掴んだ肩を、がくがくと揺さぶる悠介。
自分だけが告白したのでは意味がない。正々堂々と勝負しなきゃ、意味がない!と享介に詰め寄ると「わかった、わかったから!!」と享介は悠介を制した。
「…するよ、俺も告白するから!!」
「よし!!じゃあ、どっちが選ばれても恨みっこなしだからな!」
びし!!と指を突きつけてくる悠介に、享介は苦笑した。
「わかってるよ。まあ、負ける気なんて全然ないけどな!」
「オレだって!」
――そして、その翌日。
突然担当アイドル2人に同時に告白され、固まったプロデューサーは、状況を理解するのに、しばらくの時間を要した。
ようやく事情を説明されると「お見合いはあくまで話が出ただけで、実際にはしないよ」と、お見合いの噂を否定し、事態の収拾を図った。
しかし。
一度走り出した若者2人の想いは止まらず。
「「それはそれ!告白の返事は!?」」と左右から詰め寄られ、プロデューサーは再び真っ赤になって固まるしかできなかった…