同じ想いで



「プロデューサーさん」
「わっ!?夏来か…って、んっ…!」

――半年くらい前。
私は、担当アイドルである夏来に告白をされた。
プロデューサーである私が、自分の担当アイドルとお付き合いなんて!…と思ったけれど。
それまで見たことがないくらいの真剣さと、不安げに揺れる綺麗な瞳に絆されて…私は、夏来の告白を受け入れた。
担当アイドルとして、ずっと見てきた夏来の想いの強さは、痛いほどにわかったから。


告白を受け入れるにあたり、2つの約束をした。
まず、お付き合いよりも学業、そしてアイドル業を優先させて、疎かにしないこと。
そして、付き合っていることを誰にも言わないこと。
私たちはもちろん、私たち以外の人たちの仕事に支障が出たら困るから。

この2つの条件に、夏来は納得して、頷いてくれた。
そして、とても綺麗な顔を赤く染めて「俺の気持ち…受け入れてくれて……ありがとう」と静かに微笑んだ。

しかし、最近気づいたのだ。
夏来は、無害そうな顔に見えて、実のところとんでもなくスキンシップを好む、キス魔であることを――!!


「〜〜!!夏来!!ここ事務所!!」

私を拘束する夏来の胸を叩いて、小声で抗議をする。
夏来は気配を消すのがうまいせいか、こうして事務所にいる時も隙をついてキスをしてくるようになったのだ…!

「誰かに見られたらどうするのっ…!!」
「大丈夫…いま、誰もいないから」

満足気に微笑んで、夏来は言い放った。

夏来は、今みたいに物陰に隠れては私を抱き締めたり、キスを落とす。
口下手ゆえに、夏来はスキンシップで気持ちを示すタイプなんだろうか。
最初の頃は、隠れて手を繋いだり、ハグをする程度だったのだけれど、最近では事務所の中でキスまでしてくる始末。

…なにより、夏来はキスがうまいのだ…!
私の反応を見て、私の弱いところを見つけると、次からそこばかり攻めてきて…現役高校生の学習能力怖い!!

「口紅うつっちゃうでしょっ…!」
「大丈夫…ちゃんと拭くから…」

そういう問題じゃないからね…!?

「約束したでしょ!」

そう私が怒ると、しょぼんと夏来顔を曇らせた。

「さびしいのは…俺、だけ?」

…確かに、夏来の事務所内でのスキンシップが増えるのは、お互いの仕事や、夏来の学校行事なんかで忙しくて、外で会えない日が続く時だ。
そりゃあ私だって、寂しくないわけじゃない…けど。
それとこれとは、話が別だ。

「あのねぇ…バレたら私はクビだよ。そしたら、会うのだってできなくなるかもしれないんだよ!?」
「…ごめんなさい…」

夏来から迫られてるとは言え、私の方が年上で成人、しかも担当プロデューサーなわけで。
年下の担当アイドルに手を出したなんてことがバレた日には…社会的に生きていけなくなるだろう。

そうしたら、今よりずっと距離ができて…会うことなんて、きっとできなくなる。
……私だって、夏来に会えなくなるのは、嫌なんだから。


「…じゃあ…これで、我慢する…」

そう言うと、夏来はぎゅうっと私を抱きしめた。
そして首筋に顔埋めて、すんすんと鼻を鳴らした。

「…プロデューサーさんの、いいにおい…」

いやこれも充分にアウトですから…!

……とは思うけれど…
さすがに、この手を解くのは忍びなくて。
夏来の背に手を回して、ぽんぽんと背を叩くと、夏来の手が少し緩んだ。

「仕事、きつい?」
「…ううん。ちょっと、忙しいけど…プロデューサーさんの持ってきてくれた仕事、楽しいよ」
「そっか。ならよかった」
「でも…プロデューサーさんとも、もっと一緒に居たい…プロデューサーさんのこと…大好き、だから」
「…うん」

…私が素直じゃないせいで、夏来は余計に寂しく思っているのかもしれない。
……少しだけ、踏み出してみようか。
こんな私を想ってくれる、夏来のために。

「夏来」
「ん…なぁに?」

名前を呼ぶと、夏来は顔を上げて視線を合わせてくれた。
き、緊張する…どうやったらいいのかな…

呼んだはいいものの、次のアクションを起こさない私に、夏来はきょとんとしている。
……よ、よし、やるぞ!

覚悟を決めた私は、背伸びをして、夏来の唇をかすめる様に素早くキスをした。
そしてそのまま、夏来の胸に顔を埋めた。

ううう、恥ずかしい…!
…私からキスをしたのは、初めてだ。
顔が熱いし、心臓がバクバク言ってる。

「…プロデューサー、さん…えと…」
「な、夏来だけじゃないからね!ちゃんと、私も夏来のこと好きだし、会えないと寂しいと思ってるから!!バレて会えなくなるのは嫌だから、怒ってるんだからね!!」

恥ずかしさから、一気に捲し立てると、私は顔を夏来の胸にぎゅうぎゅうと押しつけた。
頭上から、ふ、と息がこぼれるのを感じる。
そしてまた、私をぎゅっと抱きしめる夏来の腕の力が強くなった。

「…ありがとう…嬉しい」
「な、夏来、ちょっと苦しい…」
「ご、ごめん…大丈夫?」
「う、うん…」

ぱっと手を離されて、私たちの間に距離が出来た。
そして視線が合うと、なんだか面白くなって、笑い出してしまった。

「あはは…ごめんね、私も、あんまり気持ちを伝えるの、上手じゃないけど」
「ふふ、俺たち…似た者同士、なのかな?」
「そうかも。だけど、事務所ではほんと、ダメだからね!」

改めて注意すると、夏来はまたしょんぼりと肩を落とした。
…そんな憂いを帯びた顔で見られても!ダメなものはダメです!

「その代わり…今のお仕事が落ち着いたら、うちに遊びにおいでよ」
「…いい、の?」
「うん。大したおもてなしはできないけど、簡単なご飯作るくらいならするから」
「…楽しみ。俺、仕事頑張る、ね」
「応援してるよ」

応援する気持ちを込めて、私が夏来の背中をぽん叩くと、内緒話をするように夏来が耳に顔を寄せてきた。

「なまえさんのおうちなら…いっぱいくっついても…いい、よね」

そう言って、夏来は艶めいた綺麗な顔で笑った。
……色々と、覚悟を決めておいた方がよさそうだ。




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