Unawareness



「4人とも、お疲れ様!」
「お疲れ様ッス!」
「お疲れ」
「お疲れ様でしたぁ〜〜〜…」

今日は315プロダクション所属のTHE 虎牙道となまえの4人で、早朝から1日中、CMの撮影だった。
ハードな撮影だったにも関わらず、THE 虎牙道の3人はけろっとしているが、人並み程度の体力の持ち主のなまえはへろへろである。

「なまえさん、大丈夫か?」
「今日の撮影は大変だったからなあ。それでも、最後まで笑顔だったのは偉いと思うぞ!」
「うんうん、なまえちゃんはよく頑張ってたよ」
「ハッ、弱っちーヤツ」

漣の憎まれ口もいつものことなので特に気にすることもなく…それに気力もなかったのでスルーして、なまえは3人からの労いに、へにゃっと笑った。



「それじゃ、みんな車で送って行くから…疲れてるだろうし、寝ていいからね」

そう言うと、プロデューサーは車を発進させた。

今日の現場は、事務所からも、さらには最寄駅からも遠いところだったため、移動は車だった。
助手席には道流、後部座席にはタケル、なまえ、漣が並んで座っている。

行きはあれこれと元気に話していたなまえだったが、帰りは早起きと仕事の疲れからか、あっという間にうつらうつらと舟をこぎ始めた。

「なまえさん、俺に寄りかかっても大丈夫だから」
「んー…」

なまえの様子を見かねたタケルが肩を貸そうと提案すると、夢見うつつのなまえはそのままタケルの肩に寄りかかった。
そしてそのまま、本格的に眠ってしまった。
その微笑ましい姿を、バックミラーで見た道流とプロデューサーは、そっと笑いあった。

「お疲れだねえ…」
「今日の撮影のMVPは、間違いなくなまえッスからね」

今日撮影したCMは、なまえは衣装もメイクも全て変えて多くのパターンを撮るというものだったため、着替えてメイクをして撮影をして…というのを一日中繰り返していて、息つく暇がなかったほどだった。
それでも、なまえは最後まで泣き言を言わず、笑顔で仕事を終え、現場の人間にも褒められていた。

「タケルも、今日の撮影、かっこよかったよ!」
「そうッスよね!いつもと違う面が引き出されてた感じがしたッス!」
「そうか…?自分じゃよくわからないが…」
「なまえちゃんとのバランスがすっごくよかったんだよ、あの…」
「ああ、あれッスね!2人が見つめあってて…」
「そうそう!初々しい感じを出しながらも…」

そんな風にプロデューサーと道流が今度はタケルをベタ褒めすると、タケルは少し頬を染めて「サンキュ」と呟いた。
そんな空気が気に食わなかったのか、漣は「フン!」と鼻を鳴らした。
ふと横を見ると、なまえはタケルにすっかりもたれかかって、幸せそうに眠っている。
それにもなんだかイライラして、漣はなまえを引き寄せて、自分の肩に寄りかからせた。

「うー…?」
「おい、せっかくなまえさんが寝てるのに」
「うるせー!」
「んぅう…漣くん、うるさいー…」
「!オマエ…!」

気持ちよく眠っていたのを邪魔されたなまえは、不機嫌そうに漣に頭をぐりぐりと擦り付けてそれだけ言うと、またあっという間にすぅ…と寝息を立てはじめた。
それに毒気を抜かれた漣は、声のボリュームを落としながらも「オレ様が一番スゲーし」と言い放ってそっぽを向いた。

その様子を見ていたプロデューサーと道流は、ニヤニヤするのを抑えながら会話を続けた。

「もちろん漣もよかったぞ、なまえちゃんとの仲の良さが伝わってくる感じで!」
「特にあのお姫様抱っこ!漣はかっこいいし、なまえちゃんは可愛いし、さすがうちのアイドル!!」
「ああ…あの時のなまえさんは、よかった」

漣は今度は満足げにフン、と言うと、会話には飽きて、頬杖をついて窓の外に流れる景色を眺めた。


外はすっかり暗くなり、気付けばタケルも寝ていて、時折プロデューサーと道流が経路の確認で会話をするものの、車には静寂が流れていた。

交差点で曲がったところで、自分にもたれかかっているなまえがバランスを崩しそうになったので、さりげなく体勢を変える漣。
するとその勢いで、なまえは無意識ながら漣にすり寄った。
そのなまえの柔らかい髪が、少しくすぐったくて、漣はそっとなまえの髪をよけた。

(…マヌケなツラして寝てやがんなァ)

見てて飽きねーけど、と手を下ろすと、なまえがまた無意識に、漣の指を柔らかく握った。
それに少し驚きながらも、特に抵抗することもなく、漣はそのままになまえの好きにさせることにした。

半身に感じるなまえのぬくもりから眠気も伝わったのか、漣はくあ〜っと欠伸をすると、そのままそっと目を閉じ、眠りについた。



「…道流、私のスマホで後ろの3人の寝顔撮っておいてくれない!?」
「はは、了解ッス」

そうして5人の乗った車は、いつもと違う空気を纏って、静かに夜の街を進んでいくのだったーー




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