Breaktime



「おっはよーございまーす!!!」

とある日の夕方。
徹夜明けの私にはついていけないテンションで、四季が事務所にやってきた。
テンションは合わせられないが、とりあえず挨拶を返す。

「おはよー…珍しいねぇ。四季一人だ」
「ハヤトっちたちは、ガイダンス?があるとかで遅くなるから、先に来ちゃったっす!…ってプロデューサーちゃん、すごい顔!!」
「はぁー?」

失礼な、と思い四季を見ると、大げさにビビられた。

「そんなにらまないで!怖いっす!…もしかして、寝てないんすか?」
「……ノーコメント」

…別に睨んでないし。
ここ数日間で何時間寝たかなんて、私も覚えてない。
でもちゃんとお風呂は入ってるんだから。途中意識何度か飛んでヤバかったけど。

「プロデューサーちゃんが逃げたっすー!いやでもマジヤバいって!」
「…そんなに?」

ぺた、と自分の顔を触る。
うわー肌荒れてるわ…

「うん、もう帰った方がいいっすよー!」
「…夜に打ち合わせがあるのだよ…」

それのための徹夜だったのですよー…
帰れるなら帰りたいよー…

「じゃあ、ちょっとだけでも仮眠したら?」
「今寝たら、明日の朝まで起きない自信があるー…」
「オレが責任持って起こすから、任せて!」
「マジで?」
「マジっす!」
「……んー…じゃあ…お言葉に甘えようかなぁ…」

時計を見上げると…これなら30分は余裕がある、かな。
自分でも、今の状態はヤバイと思うし。

ふらふらとソファに向かい、倒れるように沈みこむ。
あぁ、気が緩んだら、これだけで寝そう。

「仮眠室行かないっすか?」
「いやー…ソファーで…ベッドはガチで寝る…」
「それじゃ、ひざまくらするっすよ☆」
「いやだよ、寝辛いだけじゃん」
「そこでマジレスっすか!」

そう言いながらも、四季は私の隣に座ってくる。
その手にはブランケット…

「それなら肩を貸すっすよ!あと冷えないように、これも!」
「んー…ありがとう」

遠慮なく、肩に寄りかかると、四季は私にブランケットをかけてくれた。
…あったかい。
見た目とノリのチャラさに反して、四季は気の遣える子だ。知ってるよー…

「30分ね。30分で起こしてよ。…おやすみ」
「オッケー!おやすみなさい、プロデューサーちゃん」

目を閉じると、小さい子をあやすように、ぽんぽんとリズムをとりながら、四季は子守唄まで歌ってくれた。
あぁ、私はこの声に惚れて、High×Jokerをスカウトしたんだよなー…
最初にこの声を聴いたときの衝撃は忘れられない…
四季の声も、歌も…好きなんだよなぁ…

優しいメロディに包まれて、私は意識を手放した。


×××


…あ。寝息。
思いつくままにテキトーな歌詞の子守りを歌いだすと、すぐにプロデューサーちゃんは眠りについたようだった。

…ちょっと強引だったかな?
でも、プロデューサーちゃん、激ヤバな顔色してたから。
少しだけど、プロデューサーちゃんが休んでくれてよかった。

「いつもプロデューサーちゃんが、オレたちのために頑張ってくれてることは知ってるっす」

歌うのをやめて、小声でささやく。
調子に乗って、頭を撫でてみたりして。
それでもプロデューサーちゃんは起きない。よっぽどお疲れだったんすね…

そんなプロデューサーちゃんに、オレがお返しにできることは少ないけど。

「いつか絶対、プロデューサーちゃんを、トップアイドルのプロデューサーにしてみせるからね…」


×××


時計を見ると、約束の30分間はあっと言う間だった。
やることのない30分なんて、いつもならすごく長く感じて、退屈でたまらなくて、スマホをいじったりして暇つぶしをするのに。
今はそんなことしてたらもったいない気がして、静かにプロデューサーちゃんのぬくもりを感じていた。

もっと寝かせてあげたいし、なんだか惜しい気もするけど…
約束だし、お仕事があるから仕方ない。
あ、でも写真撮っちゃおうかな。プロデューサーちゃんも、これくらい許してくれるっすよね。

パシャ!!

わ、音デカい!
プロデューサーちゃんは……起きてない、セーフセーフ。
撮れた写真は……オッケー、撮影成功っす!
やば、この体勢だとよく見えなかったけど、プロデューサーちゃんの寝顔かわいい…!
…これはオレだけの宝物ってことで☆

……おっと、ヤバいヤバい、起こさなきゃ。

「プロデューサーちゃん、起きて。30分経ったっすよ」
「んぅ…」
「本当は、もっと休んでて欲しいっすけど…」
「んーー…んん…ありがと…肩も」

ゆっくりと目を開いて、プロデューサーちゃんは首をグルグル、腕をグルグル。
そして立ち上がって思いっきり伸びをした。
その様子は、なんだかネコっちっぽいかも。

「んー!よし!ちょっとすっきりした!ありがと、四季」
「このくらいお安い御用っすよ!」

と笑えば、プロデューサーちゃんも笑い返してくれた。
その顔色はさっきよりよくなっていて、ホッとした。
少しは役に立てたかな?そうだったらうれしいっす!

「さー準備準備…」

自分のデスクに戻って行ったプロデューサーちゃんは、テキパキと準備を進めた。
手伝えることはなさそうなので、邪魔にならないところで、プロデューサーちゃんを見ていた。
あ、終わったっぽい。

「よし、準備できたっと。そろそろ行きますかぁ…あ、四季」
「なんすか?」
「手だして」
「はいっす!」

言われた通りにオレが手を出すと、プロデューサーちゃんは大きめのアメ玉をくれた。
「これ、肩貸してくれたのと、子守唄付目覚まし時計になってくれたお礼。あとブランケットもありがとね」
「ううん、大したことないっす!アメちゃん、サンキューっす!」

出入り口に向かいながら、プロデューサーちゃんは続けた。

「私今日は事務所に戻ってくるの遅くなるから。四季も遅くならないうちに帰ってね」
「リョーカイっす!」
「それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい、プロデューサーちゃん!頑張ってね!!」
「おー!頑張って仕事とってくるよー!」

オレが事務所に来た時とは違う、すっきりした笑顔で、プロデューサーちゃんは出ていった。

「オレも、もっともーっと頑張るっす!プロデューサーちゃんに負けないからね!」




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