お見合い狂想曲〜木村龍編〜



とある日。
小さなアクシデントはいくつかあったものの、龍のソロでの仕事もなんとか無事に終わり、さあ帰るか、というところで、付添いで来ていたプロデューサーのスマホが震えた。

「ごめん、ちょっと…」
「うん、大丈夫だよ!どうぞどうぞ!」

プロデューサーは、龍に断りを入れてスマホを確認し…あからさまに顔をゆがめた。

「…もしかして、何かよくない知らせだった?」
「いやー…叔母さんからの電話なんだけど…」
「え、出なくていいの?」
「んー…出たくないんだよね…出たら長くなるし、どうせまたあの話だし…」

プロデューサーは言葉を濁して、震えるスマホをバッグへ放り込んだ。
電話に出ることも切ることもせず、相手が諦めて切るまで放置しておくつもりのようだ。
龍は、プロデューサーがそんなことをするのは珍しい、と訝しげに言葉を返した。

「あの話って?」
「………お見合い」
「お、お見合いっ!?」
「ちょっ、声が大きい!しないよ!?しないからこそ、こうして逃げてるわけで!!」

狼狽えながらも否定した後、はあ、とプロデューサーは肩を落とした。

「私はしない、って言ってるのに、叔母さんがしつこくて…」
「そうなんだ…確かに、プロデューサーさんも、結婚適齢期ってやつだもんな」
「うぐ。相変わらずズバっと言うね…それはそうなんだけどー…」
「叔母さんもきっとプロデューサーさんのこと、心配してるんだよ。そっかー…プロデューサーさんがもし結婚しちゃったら…か…」

うーん、と唸って、龍は想像をめぐらせた。
そんな龍を見て、何を考えているやら、とプロデューサーは隣でため息をついた。

「…プロデューサーさんが結婚しちゃったら、寂しいけど…プロデューサーさんが幸せになるなら、俺応援するよ!もちろん、俺たちのプロデュースは続けて欲しいけどさ!」
「……ふーん。龍くんは、私のお見合いを止めてはくれないんだ」
「えっ」
「なーんて…」

寂しそうに眉を下げて言う龍に、プロデューサーが少し拗ねたように返すと、龍は驚いた。
その様子を、ふはっと笑って、からかっただけと軽く返すつもりが…一転して真顔になっている龍に、プロデューサーは一瞬言葉に詰まった。

「俺が、止めていいの?」
「…え?」
「いいなら…俺が立候補しても、いいの?」
「はい?」
「…そういう意味じゃなくて?」
「え、いや、そのー…何が言いたいのか、よくわからないんだけど…」

誰が何を?どうするって?
龍にしては要領を得ない、回りくどい言葉に、プロデューサーは首をかしげた。

「だから!…俺が、プロデューサーさんの彼氏に立候補してもいいのか、ってこと!!」
「…は??」

言いたいことの意味はわかったが、意図が理解できず、まだ疑問符を浮かべ続けるプロデューサー。
その様子に痺れを切らせたかのように、龍はプロデューサーを抱きしめた。

「わっ!?」
「…俺のこと、きっと弟みたいにしか思ってないだろうし、今の俺じゃプロデューサーさんの横に並べないだろうって思って、ずっと言わないできたけど…」

ぎゅうっと痛いくらいに抱きしめられて、切羽詰まったような声で紡がれるセリフに、プロデューサーは固まった。

「俺、プロデューサーさんには、お見合いしないでほしい。俺にチャンスがもらえるなら…俺が、プロデューサーさんのこと、幸せにしたい。それに彼氏に立候補するだけじゃなくて…未来の旦那さんにも、立候補させてもらいたい、です」

あまりの急展開、そして耳元で囁かれる想いの詰まった言葉に、プロデューサーはゆでダコのように真っ赤になりながらも、龍の言葉を理解すべく、必死に脳みそをフル回転させるのだった。


そしてしばらく経って、ようやく出てきた言葉は…2人の関係性を、大きく変えるのだった――




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