寄り添う魂



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「――本日はお時間をいただき、誠に有難う御座いました」
「いえ、こちらこそ、ありがたいお話をいただきまして…前向きに検討させていただきますので」
「…はい、よろしくお願い致します」

その日、315プロダクションには珍しい来客が訪れていた。
プロデューサーとその来客との打ち合わせはつつがなく終わり、持ち込まれた企画は社長の最終確認待ち、ということになった。

その来客――なまえが深々とお辞儀をして会議室を出ると、何故かアスランが緊張した面持ちで待ち構えていた。
その顔を見ると、なまえはふっと気が緩みそうになるが、ここはまだ他所様の会社だ、ということを思い出し、ビシッとメガネを直し、改めて背筋を伸ばした。

そして後から出てきたプロデューサーに改めて頭を下げると、なまえは事務所を出ていき…そのあとを、アスランが追いかけていったのだった。


事務所では、そんな一連の流れを珍しそうに眺めていたHigh×Jokerのメンバーが、プロデューサーに声をかけた。

「あのおねーさん、誰っすか?」
「すげーキリッとした人だったな」

興味津々といった四季と春名に、プロデューサーはもらった書類をまとめながら答えた。

「526商事の食品開発部の部長さんだそうです。うちの事務所とのコラボ商品のオファーを直々に持ってきてくださったんですよ」
「えっ、コラボ商品!?」
「……すごい、ね」
「526商事って、食品だけじゃなくて、色々な事業を展開している大きな会社ですよね」

思わず身を乗り出す隼人、嬉しそうに言う夏来。
そしてその2人とは違う点に反応する旬。
そんな3人に、はいはーい!と四季が再び言葉を続けた。

「オレも聞いたことあるっすー!確か、アパレルもやってるとこっすよね!?」
「そんなすごい会社で、あんなに若くてしかも女の人で部長だなんて、すっげー人なんじゃ…」
「ええ、そうですね。アスランさんの彼女さんという事で、アスランさんが取り次いでくれまして」
「ええええーーー!?」

さらりと言うプロデューサーに、5人は驚いた。

「とは言え、今回のお仕事は、あくまで526商事の部長さんとして、315プロダクションに魅力を感じていただいたそうですが」
「すごいなぁ、アスランさん…」
「…アスランっちとあのおねーさん、どんな会話するっすかねー?」
「…さあ…?」
「想像つかないなー」
「…失礼ですよ」

正反対の2人に見えたけど…と、アスランに尊敬の念を抱いて感心している高校生一同を、プロデューサーは微笑ましく見つめるのだった。



――一方、話題の2人はと言うと。

「ナマエ!」
「…アスラン君」

先に出ていったなまえを、アスランが呼び止める。
その声になまえが振り返って立ち止まり、アスランが追いつくと、2人はそのまま並んで歩き出した。
なまえはこの後、会社に戻らなければならないのだ。

「此度の試練、御苦労であった!」
「有難う御座います。プロデューサーさん…アスラン君の主さんに繋いでいただいたおかげです」
「我が主は、いつでも新たな子羊たちへの供物を求めているからな。当然のことをしたまで」
「アスラン君の主さんは、とてもいい方でした。いつもアスラン君に聞いてる通りの、優しい方ですね」
「うむ!主は我のよき理解者、そして我らの慈悲深き導き手よ!」
「…私は、変じゃなかったでしょうか…数字で通せるプレゼンは得意ですが、アイドル…エンタメと絡ませるとなると、必ずしも数字で見えてくるものだけではないでしょうから、あまり自信がなくて…アスラン君の主さんに、失礼がなかったなら、いいのですが…」
「アーッハッハッハ!ナマエの願いは、必ずや、主の手によって結実の日を迎えるであろう!」
「…有難う御座います」

アスランの言葉にふっと気を緩めるなまえ。

「それにしても…やはり。アスラン君と私が付き合っていると言うと、驚かれますね」

ふう、と息をついて、なまえは肩から下げたバッグを持ち直した。
律義ななまえは、アスラン君の主さんに隠し事はいけないから…と、名刺交換の直後に、自分がアスランの恋人であることを伝えた。
315プロダクションは、恋愛禁止ではないらしいことをアスランから聞いてはいたが、顔を合わせる機会があるなら、挨拶をしなければ、とずっと思っていたのだ。

その告白を聞いたプロデューサーは、目を丸くしたあと、ふっと笑って「そうだったんですね。これからも、アスランさんをよろしくお願いします」と言った。
プロデューサーの驚きは、この律義な挨拶自体にあり、そもそもアスランから相談を受けた時点で察してはいたのだが…それに気づかず、なまえが「こちらこそ」と頭を下げあったところで、本題の仕事の話へと会話は移って行ったのだった。


言動共に独創的なシェフ、そしてアイドルであるアスランと、堅い言動でいつもスーツにメガネ姿で黒髪をひっつめ、仕事一筋で生きてきたなまえ。
両極端と言えば、そうかもしれない。
…そもそもなまえは、あまりの堅物ぶりに「誰かと付き合っている」と言うこと自体、信じてもらえないことが多いくらいなのだが。

「むむ…我らの魂の輝きは、限りなく似た調べを奏でているのだが…」
「ええ、そうですね」

なまえとアスランの一番の共通点。
それは、本来は弱気である自分たちを隠し、日常を過ごしていることだ。

アスランは、Cafe Paradeで働き出し、さらにアイドルになって315プロダクションで活動するようになってきてから、その心の鎧が必要なくなってきてはいるが、なまえが分厚い鎧を外し、本来のなまえで居られるのは、アスランの前だけだ。

「ククク…それも、暗黒神より多くの試練を与えられし者のサダメ。しかし悲観することはない…我の魂はナマエと共にあるのだから!……その…ナマエはもっと、我に甘えてもよい、のだぞ…」

途中から少し照れて、ふいっと視線を外しながらアスランは言った。

「…ふふ、有難う御座います。じゃあ…早速お願いしてもいいでしょうか」
「なんなりと求めるがいい!」
「アスランさん、これからの時間はオフでしたよね…?うちに来ていただけるのであれば、今日の夕飯は、アスランさんのご飯が食べたいです。なるべく早く帰りますから」
「ククク…造作もない。我が精製せし糧、震えて待つがいい!…他には?」
「他には…ええと…デザートもつけてほしいです」
「ふむ、ならばソーイチローに然るべき精製術を請うとしよう。無論、術者は我だ!」
「有難う御座います。それと…」

キョロキョロと周りを見回したあと、少し背伸びをして、なまえはアスランの耳元でそっと囁いた。

「……!!」
「ダメ、でしょうか?」
「ダメではない!…が、その…」

なまえから囁かれた言葉にガチリと身を硬くし、真っ赤な顔をしたアスランが言いよどむ。

「…なら、私からしてもいいですか?」
「えっ」

アスランが躊躇っていると、なまえは返事を待たずにかすめるようにキスをした。

「なっ、ナマエ!」
「ふふ、これで残りの仕事も頑張れそうです」

あわあわとしているアスランに「それじゃあ、私はここで」と言うと、なまえは駅に向かって早足で去って行った。

残されたアスランは立ち尽くしていたが、しばらくしてぶるぶると頭を振ると「か、糧の準備をしなければ」と呟き、赤い顔のまま食材の買い出しへと向かって行ったのだった――




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