甘やかし注意報



今日は久しぶりの一希くんとのお買いものデート。
帽子とメガネで変装している一希くんと一緒に、ショッピングモールにやってきました!

私が前から行きたかった話題のお店でランチを済ませて、ショッピングモールをふらふらと歩いて…
雑貨屋さんの前を通りかかると、可愛いマグカップがたくさん並んでいた。
そうだ、家で使ってたのが割れちゃったから、新しいの買わなきゃいけないんだった。

「マグカップ欲しいんだけど、お店に入ってもいい?」
「……ああ」

一希くんの了承を得て、お店に入ると、マグカップ以外にも可愛い雑貨がいっぱい置いてあった。
あのタオル可愛い…あっ、あっちに置いてあるクッションも……って!
うう〜…誘惑が多すぎるよ…!
…今日は、マグカップだけを買うんだから!!

そう心に固く誓って、私はマグカップだけに集中した。
でも、マグカップだけでも、迷っちゃうなぁ…



……はっ!
一希くんを付き合わせていることをすっかり忘れてた!!

慌てて振り返ると、一希くんはすぐ後ろにいた。
うう、申し訳ない。

「……どうかしたのか?」
「ごめんね、選ぶのに時間かかっちゃって…」
「……気にしなくていい。急ぐ予定もないしな」
「うう、ありがとう…」

一希くんは優しく言ってくれるけど、早く決めなくっちゃ!


……そう思って、なんとか2つまでは絞ったけれど…

「うーん、どっちにしよう。どっちも可愛い…!」
「……両方買えばいいだろう」
「私は一希くんほどの財力を持ってないんですぅー!それにマグカップばっかり増やしても、しまう場所に困っちゃうし…」

一希くんは、迷ったら全部買っちゃうタイプだけど、それは自分でそれを叶えられる財力と、物を置いておけるおうちがあるからで許されるのであって。
私はしがないただの大学生。
そして実家暮らしで、あんまり広い家でもないから、私のものばかり増やすわけにもいかないのだ。

うーーーん…………
…………よし!こっちにしよう!!

ようやくそう決めて、私が悩んでいた片方を棚に戻すと…ひょい、と一希くんがそのマグカップを手に取った。

「え?」
「……そんなに悩むほど気に入っているなら、なまえがうちに来た時用のマグカップとして、おれが買っておこう。それなら、構わないか?」
「なるほど、その手が…!って、いいの?」
「……ああ」

こくり、と一希くんは頷いた。

2人で会計を済ませると、当然のように一希くんは荷物を持ってくれた。
そしてこれまた当然のように、手を繋いで歩き出す一希くん。
…前に、アイドルなんだから…って遠慮したら、ものすごく悲しそうな顔をされたので、気にしないことにしてる。


「…ありがとう、一希くん。でもね、私のこと、甘やかしすぎないでね…」

きゅっと手を握り返してそう言うと、一希くんは首をかしげた。

……一希くんは、私がふと口にしたことを全部覚えてくれていて、叶えてくれる。
ご飯どこ行こうか、ってなった時には、ほぼ私の意見が採用されるし。
その場の発言じゃなくても、過去にここに行ってみたいとか、何か食べてみたい、とふと言ったものも、全部覚えてくれているらしい…一希くんの記憶力、恐るべし。
あとは、あれがしたい、あそこに行ってみたい、口に出したちょっとした我儘すらも、だいたい叶えてくれてしまう。
…一希くんの隣に居たら、私、ダメダメ人間になっちゃいそう。

「……?かわいいなまえを甘やかしたいと思うのが、いけないことなのか?」
「ああもう!そういうとこだよぉ!!」


かっこいい顔して、かっこいいことを、さらっと言っちゃう。
ドキドキしてるのは私だけなのかな。
うう、なんだか悔しい。

「そんなに甘やかしてたら私、一希くんから離れて生きていけなくなっちゃうじゃん…!」
「……それでいい」

ふっと笑って、これまたさらりと言ってのける一希くん。
もーー!!顔が熱い!
私は耳まで赤くなってるだろう。
でも一希くんは顔色一つ変えず、飄々としたままだった。
そう思ってくれてるのは、嬉しいけど…嬉しいけどー…!

「私が増長して、我儘放題言ったらどうするの…!」
「……なまえはそんな風にはならないと思うが…その時は、それを叶えられる男になれるよう、努力しよう」
「…そうじゃないでしょー…!」

そう言って、またかっこよく笑う一希くん…
ああ、なんかもう、一希くんに勝てる気がしないよ…!



――そして後日。

一希くんのおうちに遊びに行くと、そこには、私が雑貨屋で悩んでいた第2候補だけではなく、第3、第4…第5候補までのマグカップが、一希くんの机の上に鎮座していた。
あの時は、私の自宅用含め、2個しか買わなかったのに…
後日買いに行った、ってことだろう…

「……好きなのを使ってくれ。それ以外のものをおれが使うから」

ふわりと微笑む一希くんに、私は何も言えず…

私は自分の力で、ちゃんと我慢をしていかないとダメだ…!!
そう、改めて心に誓うのでした――




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