ふ〜…このゴミを出してきたら、その後に拭き掃除して、掃除機かけて…あとは〜…
そんなことを考えながら教授棟を出ると、冬らしい冷たい空気が出迎えてくれた。
…全然嬉しくない。さ〜む〜い〜よ〜〜。
早く部屋に戻りたくて小走りでゴミを捨てて戻ってくると、私を囲む冷たい空気とは別の、ほわっとした声が聞こえてきた。
「あれーこんな日に会うなんて、奇遇だねー」
「ん〜?あ、北村くんだ」
声をかけてきたのは、同じ学部の北村想楽くんだった。
足を止めると、北村くんも教授棟に用事だったみたいで、一緒に向かうことにした。
授業もテストも終わってるから、こうして会うのは珍しいのだ。
「私は、教授の部屋の大掃除に駆り出されたんだ〜」
お駄賃代わりに、焼き肉奢ってくれるって言うからさ〜、と続けると「なるほどねー」と笑われた。
「そう言う北村くんは?」
「僕ー?僕は、課題を提出しにきたんだよー」
出席できない分の穴埋めってところだよー、と言う北村くん。
なるほど、北村くんはアイドル活動が忙しくなってきて、出席できない日が増えてきたみたいだもんね〜。
私もたまにノート貸したりしてるし…追加の課題を提出することで、欠席分を補っているらしい。
「そうなんだ、お疲れさま〜。今日も仕事?」
「うん、夜からねー」
「わ、大変だ…」
クリスマスだっていうのに、焼き肉に釣られて教授の大掃除を手伝ってる私とは大違いだ。
…だって、自分のお金では行けないようなところに、連れて行ってくれるって言うんだもん。
「…みょうじさん、焼き肉は今日の夜に行くのー?」
「え?あ、うん」
「お昼ご飯はー?」
「んーまだ決めてないけど、掃除終わってないし、教授がコンビニのおにぎりくらいは奢ってくれるのかも?」
昼夜両方奢ってもらうのは、ちょっと気がひけるけど、掃除頑張ってるし、いいよね〜なんて笑うと、北村くんは「提案があるんだけどー」と足を止めた。
「お昼ご飯に抜けて大丈夫なら、一緒にご飯食べないー?」
「お昼休憩取るのは、大丈夫だと思うけど」
お昼ご飯1人で食べたくないのかな?
なんて考えてると、北村くんは笑って言った。
「ファミレスくらいなら奢るよー?」
「えっ、北村くんと行くなら、ちゃんと自分で払うし!私のことなんだと思ってるの」
「…胃袋で動くタイプ、って感じかなー」
「ちょっと!さすがにそんなに単純じゃないよ!?」
「ほんとにー?」
そう言ってくすくすと北村くんは笑う。
………そりゃあ…事実ではあるけど。
「もう!…まあいいや。戻って教授に聞いて、連絡するね〜」
「うん、ありがとー。僕は用事が済んだら、図書館に居るからー」
そう言って別れて、戻って教授に聞いてみると、抜けて大丈夫って言われたので、北村くんに連絡した。
すぐに返事が返ってきたので、お昼の時間まで掃除を続けて、それから北村くんと合流した。
「お待たせ〜〜」
「それじゃ、行こうかー」
北村くんについて歩いていくと、大学から一番近いファミレスに行くのかと思いきや、来たことのない、小さなレストランにたどり着いた。
近くにこんなお店あったんだ。
…でも。
「ファミレスじゃなかったの?」
「せっかくのクリスマスだからねー」
「あー。なるほど?」
北村くんってそういうイベントを気にする人だったのか。意外かも。
…なんてちょっと失礼かな?
席について、メニューを手渡されると、クリスマス限定のケーキの写真が目に飛び込んできた。
わー…可愛いし、美味しそう…!
「ふふ、ケーキもつけたらー?」
「…そんなに顔に出てた?」
「自覚ないのー?」
…また北村くんに笑われた。
北村くんの中では、私が食いしん坊キャラになってるに違いない。
別に間違いじゃないけどさ〜〜。
悩みながらもご飯とケーキを決めて、運ばれてきた料理の美味しさに幸せを感じていると、目の前の北村くんはそっと呟いた。
「…喜んでくれたみたいでよかったよー」
「え?」
「なんでもないよー」
ご飯に夢中でちゃんと聞こえなかったんだけど…北村くんは澄ました顔で紅茶で飲んでいて、それ以上続けなかった。
イマイチすっきりしないけど…まあ、目の前の料理が美味しいから、いっか!
そう思って、次のひとくちを頬張ると、北村くんはまたふっと笑った。
そして、料理もケーキも食べ終わって、お手洗いに行っているうちに…お会計は済んでいた。
自分でちゃんと払うって言ったけど、北村くんは「いつものノートのお礼ってことでー」と、頑なに受け取ってくれなかった。
「…それじゃあ、次は私が奢るからね!…あんまり高いところは、無理だけど…」
「ふふ、次の約束をしてくれるんだねー。みょうじさんと一緒なら、学食でもファーストフードでも、なんでもいいよー」
そう言って笑う北村くんの気持ちを、私はこの時はまだ、知る由もなかったのだった――
Merry Christmas with 315Production!! 