やっと…辿り、着いた…
地獄のような1週間を終え、私は職場から直行で、恋人である荘一郎くんの家にやってきた。
力なくピンポー…ン…、とインターホンを鳴らすと、すぐに荘一郎くんが出てきてくれたので、私はなだれ込むように荘一郎くんの家にあがり、荘一郎くんに抱き着いた。
「うああああああ疲れたよぉぉぉ」
「お疲れ様です。言ってもらえれば、迎えに行ったんですが…」
「スマホの充電忘れてたのぉぉ…」
「なるほど」
ぐりぐりと押しつけている私の頭を撫でながら「それで既読すらつかないわけですね」と荘一郎くんが苦笑した。
ううー…ごめんなさい。
仕事が忙しすぎて、色々と抜けて落ちてて…頭がうまく働かない…
荘一郎くんがコートを脱がせてくれてバッグも受け取って、手を引いてくれるので、私は手を引かれるままによろよろと歩く。
そして手を洗う様に促され、コップの水も手渡された。
…お母さんと幼稚園児のようで、なんだか笑えてくる。
そしてテーブルに座ると、私はへにゃへにゃと突っ伏した。
あー…もー…疲れた…もう動けない〜〜〜……
「もーしばらくケーキ見たくないよぉぉぉ〜〜……」
――地獄の1週間。
それはケーキ屋で働く私の、クリスマス当日の今日までの1週間のことである。
細かい記憶は曖昧だけれど、ロクに家に帰ってないし、寝てない。
いくつのクリスマスケーキを作ったのかなんて、わからない。
とにかく自分に与えられた仕事を、ロボットのようにバリバリとこなしていく…そんな1週間だった。
ケーキを作ることが好きで、今の仕事をしているわけだけど…今回のは、完全にキャパオーバーだ。
身体がかつてなく重いー…
「おや、それは困りましたね。なまえさん用にケーキを作っておいたのですが…」
「っ!!荘一郎くんのは別!!食べたいです!!」
前言撤回。
ガバッと音がしたんじゃないかなって思うほどの勢いで身を起こして私がそう言うと、荘一郎くんは笑った。
だって!いくら作っても食べられないケーキを見てるのと!
荘一郎くんが私のために作ってくれたケーキは!
同じケーキだけど、全くの別物だもん!!
「ふふ、そう言っていただけてよかったです。用意しますね」
「お願いします!」
私はわくわくと期待に胸を膨らませた。
身体は相変わらずへろへろだけど…荘一郎くんのケーキは楽しみすぎる。
…正直、期待してきたし。
1週間の辛い仕事も、荘一郎くんのケーキ目当てで頑張ったと言っても、過言ではない!
ケーキを用意してくれている荘一郎くんの背に、私はぐだぐだと話しかけた。
「今年は壮絶だった…テレビで紹介してもらった効果なんだろうけど…ほんと、途中ね、何回か生クリームにダイブしそうになったよ…」
お店にあるボールなら、顔なんか余裕で入っちゃうし。
あと、卵の白身と黄身分ける前に混ぜちゃったのとか、他にも色々…やらかしてしまった…
…去年も忙しかったけど、今年はその比じゃなかった。
大変だったのは、もちろん私だけじゃなくて。
誰よりもふらふらになっていた店長が「来年は、予約数をもっと絞る…」と光を失った目で言っていたのが、不幸中の幸いというか、なんというか…
「それはそれは…本当に、お疲れ様でした」
「ありがとう〜〜〜…でも荘一郎くんも、アイドルのお仕事だったんだよね…それなのに、わざわざありがとう。時間作ってくれて、ケーキも作ってくれて…」
「いえ、私が好きでやっていることですから…なまえさんに会えるのも、なまえさんに私のケーキを食べてもらうのも、ね」
そう言いながら、荘一郎くんは私の目の前にケーキを出してくれた。
そのケーキは、繊細な細工の載った、可愛らしくて、綺麗で、とっても美味しそうなケーキだった。
同じパティシエだからこそ、これがどのくらい時間と手間のかかるケーキであるかがわかる。
私は、クリスマスを乗り越えれば、あとは年内は落ち着いているけれど…荘一郎くんはアイドルだから、年明けまでずっと忙しいのに…
「少し張り切りすぎてしまいました」
言葉を失っていると、荘一郎くんが茶目っ気たっぷりに言った。
…荘一郎くんには、敵わないなー…ちょっと泣きそう。
「…ほんと、ありがと…!!」
「ふふ、では切り分けますね」
「せっかくこんな綺麗なのに…もったいないー…」
「一気にワンホール行きます?」
「う、それは無理…」
胃袋が本調子じゃないし…なにより、カロリーも、想像できちゃうし、ねー…
無理せず、美味しくいただける範囲で、味わわせていただきます!
荘一郎くんはケーキを綺麗に切り分けると、神谷さんに分けてもらったという、疲労回復に効くらしい紅茶も添えてくれた。
「はい、どうぞ」
「いただきます!」
切り分けてもらったケーキをそっと口に運ぶと、優しい甘さが口の中に広がる。
…いつも作ってくれるケーキよりも、少し甘さが強めなのは、きっと私が、今日へとへとで帰ってくることを見越してのことだろう。
はー…ほんと、美味しいなー…
「…やっぱり荘一郎くんのケーキが、世界でいっちばん美味しい…同じパティシエとしては、ちょっと悔しいけど…」
「ふふ、それは、なまえさんへの愛情の差ではないかと。私も、なまえさんのケーキが一番美味しいと思いますから」
「ほんと?…へへ、そっか。それならしょうがないね」
へへへ、と私が笑うと、荘一郎くんも表情を緩めた。
…ずっとそう思ってもらえるように、私ももっと頑張らなきゃ…!
うー……ケーキを食べたら、一気に眠気が襲ってきた…
…荘一郎くんと一緒に居て、気が抜けたのも、あるかもー…
「なまえさん、大丈夫ですか?」
「だ、め…かも…」
眠たい…
このまま…寝たい…
「こんなところで寝たら風邪を引いてしまいますよ」
「…ぅ…ん…」
そう…なんだ、けどー…
瞼が、重く…て…
「…せめて、ベッドに――…」
うん…ごめ…ん…おやすみ……
――そして私の瞼は限界を迎えたのだった。
ふわふわと甘い夢が、私を呼ぶ。
ああ、でも伝え忘れちゃった、なー…
「メリー…クリスマス、そーいちろー…くん…次は…私が…つくる、から…ねー…」
夢うつつで絞り出すと…ふわりと、空気が揺れた気がした。
Merry Christmas with 315Production!! 