新年の恒例行事、親戚への挨拶巡り。
父親と親戚たちの会話を、つまらないと抜けだすような子供ではないが…
何度か聞いた話をまた聞かされたり、自分の子供の頃の話をされたりと、居心地の悪さに曖昧な笑みを浮かべていると、救いの手が差し伸べられた。
…他の予定を入れずに、ここに来た意味でもある、その声。
「お父さんってば、また同じ話してるし!旬くんごめんね!」
声をかけてくれたのは、6つ年上の従姉のなまえ。
母親の手伝いを終えたらしいなまえは、旬の手をとると、旬の父親に「おじさま!旬くん借りていきますね!大人はごゆっくり〜〜」と声をかけた。
そして本人の許可は得ないまま、旬の手を引いて、その場から連れ出した。
なまえは自分の部屋に旬を連れ込むと、ふう、と息をついた。
「改めて!旬くんあけましておめでとう!そんでもって、久しぶり!元気だった?」
「はい、おかげさまで…あけましておめでとうございます」
にっこりと笑うなまえに、旬も先ほどまでの作り笑顔ではない、自然な笑みで返した。
――なまえは、親戚の中でも珍しいタイプの人間だ。
良くも悪くも自由奔放で、小さい頃は強引に連れ回されて泣いたこともあったりしたが…それでも、旬はなまえのことが嫌いではなく、よく構ってもらっていた。
「ごめんね、毎回毎回、うちのお父さんがおんなじ話ばっかりして」
「いえ…」
「きっとあっちは長くかかるだろうから、ここでゆっくりしていって!こたつもテレビもあるから、引きこもり放題だよー!」
ふふふ、となまえは楽しそうに笑いながら、旬にこたつに入るよう勧めると、自分もこたつに滑りこんだ。
「ゲームもあるよ!なんか気になるのあったら言ってねー」
「あ、それ…」
「ん?これ?」
旬が反応したソフトを手に取るなまえ。
それは、年末に出たばかりの、対戦型のパーティーゲームだった。
「事務所でよくやってるんですが…全然勝てなくて」
「そうなの?じゃ、一緒に練習しよ!」
なまえは「旬くんたちの事務所って男の子が多いもんね。上手い子も多そう」と話しながら、ゲーム機を準備していく。
繋ぎ方がわからない旬は、渡されたコントローラーを握って大人しく待っていた。
――なまえにアドバイスされながらプレイしていると、旬も少しずつコツを掴んできた。
「うん、最初より上手くなったんじゃない?」となまえも言う。
そしてしばらくすると、なまえは伸びをして立ち上がった。
「んー…ちょっと休憩しようか。お茶淹れてくるね。コーヒーと紅茶と、緑茶と…あとオレンジジュースもあるけど。どれがいい?」
「えっと…紅茶でお願いします」
「おっけー!ちょっと待っててね。そのままゲームしててもいいし、その辺にあるマンガとかも好きに読んでていいよー」
そう言うと、なまえは部屋を出ていった。
残された旬は、1人でゲームをプレイするほどでもないので、コントローラーを置いてなまえの部屋を見渡しかけ…女性の部屋をこんな風に見るのはよくないかもしれない、と思い至り、まじまじと見るのをやめた。
マンガを勧められたので、本棚は見てもいいだろう、と本棚を見ると、棚の1つが、自分たちのユニット“High×Joker”のもので埋められているのに気付いた。
CDや雑誌が、丁寧にしまってあり、ライブグッズも綺麗に飾られている。
そしてテレビ台の下にも、自分たちの出演番組を録画しているらしいディスクが並べてあることに気づき、嬉しさと気恥ずかしさを感じて、旬は何もしないまま、こたつでそわそわとなまえを待った。
「お待たせ〜〜」
しばらくすると、大きな箱と紅茶のセットを持ってなまえが戻ってきた。
「はい、紅茶」
「ありがとうございます」
「あとね、これもどうぞー」
よいしょ、となまえが箱を開けると、中から出てきたのは「じゅんくんおたんじょうびおめでとう」というプレートが載った、ケーキだった。
「ふふー、お誕生日おめでとう、旬くん!アイスケーキ買っておいたの、一緒に食べよ?」
「…ありがとう、ございます。毎年、祝ってもらって…」
今年も祝ってもらえたことに、旬は心がふわりと浮きたつのを感じた。
昔、お正月祝いと誕生日祝いがまとめられがちだったのを、抗議してくれたのはなまえだった。
ケーキ屋さんが開いてないから…と大人が言えば「じゃあ私がつくる!!」と、不格好ながらも一生懸命にケーキを作ってくれたのもなまえだった。
そしてそれから、誕生日当日に会える年には、こうしてなまえはケーキを用意してくれるようになった。
今年は、なまえが社会人になり、忙しくて会えないかも…と少し不安に思っていたが、変わらずに祝ってくれることを、旬は心の底から嬉しく思った。
しかしそれを上手く言葉に表せなくて、もどかしさを感じていると、なまえは察したように「ふふ、喜んでもらえてよかったー!」と笑った。
「じゃあ早速準備を…って、ロウソクもらってきたけど、これ刺さるのかな…アイスだもん、硬いよね…」
「ロウソクはなくても大丈夫ですけど…」
「えー誕生日ケーキに大事だよー!…んーっしょっと…!…うん、かったいけど、なんとかなりそう!はい、半分旬くんが立てて!」
そう言いながら楽しげに準備するなまえに、旬は心が温かくなるのを感じる。
High×Jokerや、事務所のメンバーといる時とは違う、くすぐったい気持ちに、旬は落ち着かなさを感じたが、なまえに子供っぽいと思われたくない一心で、精一杯平静を装うのだった。
ロウソクもなんとかさし終わり、火をつけて、吹き消して…とテンプレートのことをやるのでも、なまえとやるのは楽しいし、2人っきりでも満たされる。
この気持ちがなんであるか、旬は前々から気付きかけていたが…素直に、認めざるを得ないな、と苦笑した。
そうして切り分けたケーキを2人で食べていると、なまえが「こたつで食べるアイスって贅沢だよねー」と楽しげに笑った。
「…そうですね。美味しいです」と旬と返すと、今度は満足げに笑うなまえ。
その笑顔を見て、旬は、一歩踏み出すことを決意して、口を開いた。
「…あの、1つ、お願いがあるんですけど」
「んー?なあに?」
「今年のなまえ姉さんの誕生日、僕に祝わせてもらえませんか。いつも、祝ってもらってばかりなので…」
「えー、気にしなくていいのに!私がしたくてやってるんだし…でも、そうだね。祝ってくれるのは嬉しいな」
早速…と、スマホでカレンダーを確認しながら、なまえが言う。
「あーでも今年の私の誕生日って平日なんだよねー…仕事終わりだと遅くなっちゃうから、その前後の土日とかでお願いしてもいいー?」
「はい。もう少し近くなったら、調整させてください。絶対、喜んでもらえるように頑張るので」
旬は、断られなかったことに安堵して返事を返す。
6歳の差は簡単に埋められるものではないけれど…この気持ちは、諦められるものではないから。
「ふふ、楽しみだなー」
「…期待しててください」
気合十分な旬を見て、なまえはまた嬉しそうに笑うのだった――