※ヒロインがとっても病んでいて、ひたすらに暗いです。グロ描写もあるので、閲覧にはご注意ください。
私は雨の日が嫌い。
…ほら、また三成が吼えている。
三成が吼える雨の日が嫌い。
どんよりと重苦しく雨を降らす空が嫌い。
三成の大事なものを壊した家康が嫌い。
三成の心を持っていってしまった秀吉様が嫌い。
こうなることは、きっと予測できていたはずなのに、三成の妄信を放っておいた半兵衛様が嫌い。
私のことを見向きもしない、三成が嫌い。
――何よりも。
三成の大切なものにも、支えにも、救いにもなれない。
そんな自分自身が大嫌い。
苦々しく空を見上げていると、どこからかふよふよと刑部がやってきた。
「ヒヒ、われとは違い、美しき相形をしていようとも、所詮そなたも我と同じ穴のムジナよな、ムジナ」
「…あ、そ」
刑部の言葉を適当に受け流す。
…全然違うと思うけど。
刑部も嫌い。
達観して、人を見透かしたようなことを言いながら、的外れなことばっかり言うから。
私の抱える闇は刑部とは違うし…そんなに浅くない。
――怨嗟の言葉を吐きながら人を呪い、屍の山を築き上げていく私たちに未来なんてきっとない。
奪われたことによって空いた穴を、奪うことで満たそうとする私たちの行く先なんて、地獄だけだ。
別に、それは構わないのだけど…
堕ちるなら、三成と同じ地獄がいい。
嗚呼、まだ三成が咆えている。
空はすっかり暗くなったけれど、まだ雨は止まない。
私が死んでも、きっと三成はなんとも思ってくれない。
……私が秀吉様を殺していたら、私だけをあんな風に追いかけてくれただろうか。
私だって、三成の唯一の人間になりたい。
どんな形だっていい。
ただ一人、三成にとっての、ただ一人になりたいの。
何か、ナニカ、ないだろうか――
――そして、私の導き出した答え。それは。
「…なまえ…?」
「なまえっ!?」
…あは。やったあ。
天下分け目の大戦(おおいくさ)だか、なんだか知らないけれど。
家康と三成が対峙したところで…………私は三成を貫いた。
思ってた通り、家康ばっかり見てたから、簡単にやれた。
目の前には驚いた顔で倒れていく三成と、少し離れた場所で驚いた顔をして立ちすくむ家康。
「これで三成の唯一の人になれた!あはは!!!やった!!!!!」
私は喜びで空を仰いだ。
真っ青な空に掲げる私の手は、三成の血で真っ赤だ。
とっても綺麗な赤が、青い空に映える。
「な、に、を…」
状況が分からないらしい三成が、口から血を吐きだしながら私に問うたので、私は素直に、三成に答えた。
「私は、三成の唯一の人間になりたかったの。秀吉様とも半兵衛様とも、家康とも違う形で。何もしなくても、少なくとも三成の一番近くにいる女…ではあったかもしれないけど…そんな生ぬるいものじゃ嫌」
嬉しさで頬が緩む。
久しぶりに笑った気がする…きっと私は今、人生で一番の笑顔だ。
「三成は愛してくれないし、流されて抱いてはくれても、子は孕めなかった。だからね、私は、三成のことを殺す人間になろうって、決めたの」
「なまえ、お前は…」
家康が顔を歪めてこちらを見た。
まあ、家康なんてどうでもいいんだけど…邪魔だけはされないように、バサラの力で家康をその場に縫いとめておく。
私は、赤く染まる三成をそっと抱え起こした。
「ごめんね、なるべく痛くないようにしたつもりなんだけど。刃に毒も仕込んだから、確実に死ねるよ」
「…き、さま…!」
三成の震える手が、自らの刀に向かう。
ああ、そうだった。
「これも借りたかったの。ちょっと借りるね」
私は三成より先に、その刀をすらりと抜き放った。
「私の刀だと無理だろうし、こっちの方が理想的だから。ね」
そしてそのまま、私は三成に抱きついて…
バサラの力を使って、自分と三成を、三成の刀でまとめて貫いた。
ドスリという、鈍い音が、私たちをひとつにしてくれた。
…ふふ、うれしい。
「うぐっ…!?」
「なまえっ!?」
「…っ…ふ、ふふ、二回も刺して…ごめんね?でも、これで…ひとつになれた」
血で濡れた手で三成の頬を撫でる。
三成は、焦点の合わない目で私を睨みつけて、首を絞めてきた。
「…なまえ…っ!!」
「いい…よ、みつ…な、り。好きに…して?」
そうは言ったものの、三成の手からは力が抜けていってしまった。
毒がまわってきたんだろうな。
三成に殺されるのもいいなと思ってたんだけど…三成が殺した人間はいくらでもいるから、それじゃ意味がないし。
ぽたぽたと滴る私と三成の血が混ざって、広がっていく血だまり。
それが、大地に浸み込んでいく。
ふふふ、しあわせ。
「一緒の地獄に…行きた、いなぁ…そうじゃ、なくても…見つけ出し、て…みせるから、ね」
そこに、邪魔な人たちがいないといいのだけれど。
私はそっと、三成の髪を撫でた。
…反応がない。
「…三成?…ああ、先に逝っちゃった、のね…すぐに、追いつく…から、待ってて…ね」
私は、冷たくなっていく三成に口づけを落とした。
「これで、私は…ふ、ふふふ……だぁいすきよ、三成…」
誰かが遠くで何か叫んでたけれど、私はそれを切り捨てて、三成も向かったであろう闇へと沈んだ――