目覚めのパンケーキ



俺は作業がひと段落したところで、よし、と呟いて息をついた。
これであとは、なまえを起こすだけだ。

なまえの部屋に向かうと、そこには布団に包まってすやすやと眠っているなまえの姿があった。
なまえの家に泊まりに来るといつも、先に俺が布団を抜け出してもなまえは気付くことなく、そのまま眠り続けてるのだ。

「なまえ、起きろ、朝だぞ」
「うー…」

なまえは普段はキリッとしているのに、寝起きがとても悪いから、慣れるまで起こすのに苦労していた。
1人の時は、どうしているんだろうか…
…まあ、このことを知っているのは俺だけだって思うと、悪い気はしないけど、な。

なまえが毎日遅くまで頑張っていることは知っているし、もっと休ませてやりたいところだけど…
それで遅刻して、今までの努力が無駄になったりしたら大変だ。
だから、俺は心を鬼にして、なまえを叩き起こすのだった。

「ほら、起ーきーろー!」
「やーだー…」

なまえの方も、布団にしがみついて必死の抵抗だ。
でも、こういう時の対処法も、俺はもうよくわかっている。
なまえとの付き合いが長くなってきた証拠、だな。

「朝食にパンケーキ焼いたんだけどなー?」

ピクリ、となまえが反応する。
そして、一呼吸置くと…

「英雄の…パンケーキ…食べる…」

そう呟いて、ゆらゆらとなまえは起き上がるのだった。
いつものパターン通りすぎて、少し笑えてしまう。

「おう、起きられて偉いぞ。おはよう、なまえ」
「おはよー…」


なまえが顔を洗っている間に、なまえ用の濃いめのブラックコーヒーとオレンジジュースとパンケーキ、自分用のコーヒーとパンケーキも用意する。
なまえは、まだ完全に目が覚めていないせいか、テーブルに座っても口数は少ない。
けれど、パンケーキを見るとふにゃりと笑って「いただきます」と呟いた。

なまえはまず、1枚目のパンケーキにバターを滑らせ、メープルシロップをたっぷり回しかける。
そのがつんとした甘さに頬を緩ませたかと思うと、ブラックコーヒーを流し込んで「にが」と呟いて、しかめっ面をする。
その表情の変化が可愛らしくて、笑ってしまうが…なまえ曰く、こうすると目が覚めるらしい。

2枚目は、甘さ控えめに作っておいたパンケーキにサラダを乗せて、噛み締めるようにもぐもぐと食べ進めていく。

「英雄のパンケーキ好きー…これがあれば、頑張って起きれるー…」
「はは、ありがとな。おかわりいるか?」
「うん〜もう1枚、甘いの欲しーなー」
「りょーかい。ほら」
「ありがとー」

子供のようにおかわりに目を輝かせるなまえの皿に追加の1枚を乗せると、なまえは思い出したように、冷蔵庫から戴き物だという苺のジャムを取り出した。

「英雄もジャムいる?」
「そうだな、貰えるか?」
「おっけー。私がかけたげるから、お皿ごとちょうだい」
「ああ、よろしく」

俺が皿を渡すと、なまえは楽しげにジャムを塗っている。
…何してるんだ?

「はい、どーぞ」
「おーサンキュ…ってこれ」

手渡されたパンケーキの上にジャムで書かれていたのは、ハートマーク。
それとなまえの顔を見比べると、なまえは悪戯っぽく笑った。

「ふふふ、オムライスにケチャップでハートマーク書くじゃん?なら、パンケーキにもハート書くのもありかなーって。美味しくなる魔法…って、作ったの英雄だし、そんなことしなくても美味しいけどさー」

なまえの言葉に笑ってしまう。
なまえにこういう子供っぽいところがあるのも、付き合ったからこそ、知り得たことだ。

「お前の気持ち、有難く受け取っておくよ」
「へへ、返品不可だよー」
「もちろん、返さねーって」

そう笑いかけると、なまえもふにゃりと笑った。
…朝から可愛いヤツだ。


食べ終わる頃には、さすがになまえも完全に目を覚まし「ごちそうさまでした!」と言ってシンクに食器を運ぶと、そのまま洗い物をし出した。

「いいって、俺がやっとくから。なまえの方が出る時間早いだろ?」
「そうだけど、それじゃ英雄に頼りすぎだし…」
「俺がしたいんだって。なまえは別のところで頑張ってくれればいいんだからさ」
「んー…それじゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう」
「おう」

なまえは手を洗い流すと、ぎゅっと俺に抱きついてきた。

「英雄は叩き起こす、なんていうけど、結局私に甘いよねえ…」
「…うるせー」
「ふふ、いつもありがとね。おかげさまで、今日も頑張れます!」

そう言って顔をあげたなまえは、すっかり『プロデューサー』の顔になっていた。

「おう、よろしく頼むぜ」
「任せて!」

毎日忙しいけれど、俺が頑張れるのはなまえのおかげだ。
確かに、朝は俺の方が色々やることが多いけれど…パンケーキ以外の料理はなまえには敵わないし、その他の家事も、なまえの方が上手い。
それになにより、アイドルとしての俺を輝かせてくれるのは…なまえ以外には絶対いないって思うから。
俺が少しでも、なまえの力になれてるなら…こんなに嬉しいことはない。

色々な感情が溢れてきて、そっと額にキスを落とすと、くすぐったそうになまえは目を細めた。

「今日のお仕事も、そんな笑顔で頑張ってね」
「…そうしたいところだけど、これはなまえ専用だからダメだ」
「…そっかぁ……ふふ、嬉しいなぁ」

慌ただしいけど、幸せな朝のひととき。
これからも、こんな風になまえと過ごしていけるように…俺は、そっとなまえを抱きしめながら願うのだった。




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