折り鶴



「あれ、なまえさん。なにしてるの?」

ルードくんに頼まれた仕事を終えて食堂にきたら、なまえさんがテエブルの上にいろんな色の紙をいっぱい広げていた。
手紙…にしては紙が小さい気がする。何かを作るのかな?

「あ…コハク。千羽鶴を作ろうと思って…」
「センバヅル?」

聞きなれない言葉をそのまま聞き返すと、なまえさんは優しく教えてくれた。

「そっか、この時代にはない習慣なんだ。えーと…名前の通り、折り紙でできた千羽の鶴なんだけどね。千羽鶴を病気の人に贈ると、病気がよくなるっていう言い伝えがあるの。千代は病気とは違うけど…体がよくなればいいなって思って、作ってるんだ」
「へー!そんなお話があるんだね!」
「うん。千羽はちょっと無理そうだし、気休めかもしれないけど…少しでも千代の力になれたら、と思って」

そう話すなまえさんは今、帝都に陰の気を撒いて回ってる。
帝都のために、なまえさんは一生懸命走り回っているけど…陰の気を撒くことで、帝都の人たちから疑いの目が向けられて、とても大変な思いをしている。
そんな状況でも、倒れた千代さんのことを気遣っているなまえさん。
…本当に、おれの女神様は、強くて優しい、素敵な人だ。

「なまえさんが折った鶴なら、千羽いなくても、きっと効果はばっちりだよ!」
「そうかな?ありがとう」

そう微笑む顔には、やっぱり少し疲れが見える。
頑張り屋さんななまえさんが大好きだけど…頑張りすぎて、なまえさんまで倒れてしまわないかが心配だ。

「…ねえ、それっておれも手伝っていいのかな?」

『憑闇のおれでも』と言いかけて、言葉をぐっと飲み込む。
そんなことを言ったら、きっとなまえさんは、悲しむだろうから。

「いいの?」
「うん、なまえさんがよければ、だけど」
「もちろん!ありがとうコハク!」
「ううん、こちらこそ!」

一緒に何かできることがうれしくて、おれはなまえさんの隣に座った。

「鶴は折れる?」
「ううん」
「それじゃ、教えるね。まずは正方形の紙を用意して…」

なまえさんは丁寧に折り方を教えてくれた。
途中何度か、折り方よりも、なまえさんの綺麗な手に目が行ってしまったけれど…
…うん、なんとかおれにもできそうだ。


――そして、なまえさんの教えてくれた通りに、いくつか鶴を折ってみたら。

「コハクすごい!私より上手だよ!」
「えぇっ、そんなことないよ!」
「やっぱり器用なんだねー」
「あは!そんなに褒められると照れちゃうよー」

なまえさんに褒められちゃった。
今日はいい日だなぁ、なんて思いながら、二人で黙々と鶴を折り続けた。
もちろん、千代さんが一日でも早く目覚めますように、と祈りながら…


「…これで百羽目!今日はこれで終わり!」
「百羽でもたくさんあるんだね!」
「うん!手伝ってくれてありがとう、コハク。」
「どういたしまして!おれも楽しかったから、また続きを作るときは声かけてね」

折り終わった鶴は糸で繋げられていった。
これがあと十個分なのかぁ。
…これだけの想いが詰まったものなら、病気がよくなる、っていうのもわかる気がするな。
ましてや、おれの女神様の想いがたっぷり詰まっているんだもの。
きっと千代さんはよくなるよ!

おれにできることは少ないけど…なまえさんに頼られたい。力になりたい。
なまえさんのためだったら、なんでもしたい。
だから。

「何か困ったときは、一番におれに声をかけてくれるとうれしいな。約束だよ、おれの女神様」




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