しあわせごはん



※龍の自分の母親の呼び方がわからなかったため「母さん」にしています。公式での呼び方がわかりましたら、教えていただけると有難いです…!




昨日の仕事はしんどかったなー…
深夜にへろへろになって帰ってきて、起きたらもうお昼近くだった。
これを見越して、プロデューサーさんは今日をオフにしておいてくれたんだろうな…ありがたいや…
今日はゆっくりしよう…弟は学校だから、少なくともしばらくは大丈夫だ。

そう思って、いつもより遅くて軽めな朝食を済ませて、ジョンと遊んでいると、母さんに声をかけられた。

「龍ー、回覧板回してきてくれないー?」
「んー…いーけど…うちの次って、どこだっけ?」
「なまえちゃんの家よ」
「っ!!OK、任せて!!」

ちょっとめんどくさいな、なんて思いながら返事をしたけど、そういうことなら話は別だ。
我ながら現金だとは思うし、母さんにもニヤっとされたけど。

「ジョンは留守番な」

そう言うと、ジョンはちょっと不満そうだ。

「帰ってきたら、また遊んでやるから」

俺はジョンを撫でて、サンダルをひっかけて、なまえちゃんの家に向かった…
…と言っても、すぐ近くだから、あっという間に着いた。

ふー…と深呼吸をしてから、チャイムを鳴らす。
少しドキドキする。

少し間をおき、ガチャリと音を立てて、玄関から出てきたのは――

「はーい…あれ、龍くん!お久しぶり〜〜」

――俺の憧れの人だった。



なまえちゃんは、俺の幼馴染で姉貴の同級生。
大人になって、会える機会は減ってしまったけれど、大切で…大好きな幼馴染だ。
…本人に、その気持ちを伝えられては…いないけど。


とにかく、なまえちゃんが居るなんて、今日の俺、めちゃくちゃついてるかも…!

「ひ、久しぶり!」

うわっ、声が上ずった。
恥ずかしい…!

そんな俺を気にすることなく、なまえちゃんは優しく話しかけてきてくれた。

「今日は、どうしたの?」
「あ、えっと、回覧板を持ってきたんだ!はい、これ!」
「ああ!ありがとね〜」

持っていた回覧板をなまえちゃんに手渡したら、あっという間に用事が終わってしまった。
もっとなまえちゃんと話したいのに…!
えぇと…何かないかな…!?

そうやって焦っていると、なまえちゃんがふわりと笑って言った。

「せっかく来てくれたんだし、時間があるなら少しあがっていかない?」
「う、うん!ぜひ!!」

その魅力的な提案に食い気味に答えると、なまえちゃんに少し笑われてしまった。
そんなの全然問題ないけど!やったー!!



なまえちゃんはリビングに案内してくれた。
おばさんたちは、いないみたいだ。

「アイドルのお仕事、大変〜?」
「うーん、大変だけど…」

ソファに座ると、すぐになまえちゃんがお茶を淹れてくれて、そこからしばらく他愛ない会話を続けた。
なまえちゃんのおばさんとうちの母さんは仲がいいから、又聞きでなまえちゃんのことはよく聞くけど、やっぱり直接なまえちゃんと話ができるのは嬉しい。

「そういうなまえちゃんは?」
「んー…相変わらず、“給食のおばさん”してるよ〜。あ、そうだ。どうせなら、お昼ご飯も食べて行かない?ちょうどしぐれ煮を作ってたの」
「えっ、いいの?」

さっきからしていた甘辛い匂いはそれだったのか。
まだそんなにお腹は空いていないはずなのに、胃袋が刺激されるんだよな。

「うん、もちろん!1人で食べるより楽しいし、何より龍くん、とっても美味しそうに食べてくれるから作り甲斐もあるし…龍くんの食べっぷり、大好きなんだ〜」

大好き…大好き…
…大好きだって!!!!!

なまえちゃんの「大好き」がリフレインして、頬が熱い。
やば…俺今、すっごい変な顔してるかも…!

…小さい頃は「なまえちゃんがお姉ちゃんだったらよかったのに」と何度も思ったけれど、今は心底、実の姉じゃなくてよかったと思う。

「お、俺も、なまえちゃんの料理、だ、大好きだよ!!」
「ほんと〜?ふふ、嬉しいな」
「できれば、毎日食べたいくらい!」

給食とは言え、なまえちゃんの作ったご飯を毎日食べられる小学校の子たちが羨ましい。
ホントに!

「えーなぁにそれ、プロポーズ〜?」
「えぇっ!?違っ…いや違わないけど、お、俺…!!」

なまえちゃんはくすくすと笑っていたけれど、この勢いでなら…!と思ったところで『ピンポーン』と鳴るチャイムに阻まれた。
なまえちゃんの意識は、あっという間にそっちに向いてしまう。

「あれ、またお客さんだ。ごめんね、ちょっと待っててね。はーい、今行きます」

うぅっ…せっかくのチャンスだったのに…
いやでも、こんな勢いだけで伝えるのもよくないのかもしれない…


しばらくして、ぱたぱたと戻ってきたなまえちゃんは「宅急便だったよ〜親戚から果物届いたから、あとで龍くんの家にもおすそ分けするね」と上機嫌で言った。

そしてそのまま、なまえちゃんはお昼ご飯の支度を始めたので、慌てて手伝いを申し出ると「龍くんはお客さんなんだから、ゆっくりしてて」と言われてしまった。
確かに、よその家で不運が発動したら、かえって迷惑になっちゃうかも。
そう思って、俺はリビングで大人しくしていることにした。

…とは言え、なんだか落ち着かなくてそわそわとしていると、FRAMEのグッズが飾られているのを見つけた。
…応援、してくれてるんだ…!

「龍くん、そろそろ…あ、それ気付いた〜?我が家みんな、FRAMEのファンなんだ〜」

呼びに来てくれたなまえちゃんがにこにこと教えてくれる。

「お父さんなんか、この間出てたドラマ見て『龍くん、立派になったなぁ…!』なんて言って泣いてたんだから」
「えぇっ、そんなに!?」
「ふふ、お母さんは雑誌とテレビのチェックがすっごいよ。よく見つけたなぁ…って小さい記事も見つけてくるし。みーんなFRAMAの、龍くんの大ファンなんだよ…あ、ごめんね、ご飯の準備出来たから呼びに来たんだった」
「あ、うん、ありがとう!」


せめて配膳くらいは手伝おうとキッチンに行くと、エプロンをつけたなまえちゃんがご飯をよそっているところだった。
…なんだろう、すごく…この瞬間を切り取りたい、って思う。

「おーい、龍くん?」
「わわっ!?」
「ぼーっとしちゃって、どうしたの?」
「えっ、ううん!ごめん、何でもない!これを運べばいいんだよね!?」
「うん。お願いします。あ、ご飯はたくさんあるから、足りなかったらおかわりしてね」

…なまえちゃんのこの笑顔だけで、ご飯何杯でもいけそう。



そうして、ご飯とお味噌汁、おかずがテーブルに並んだ。
どれも美味しそうで、じわりとよだれが出てきそうだ。

「これでよしっとー。それじゃあ、どうぞ」
「いただきます!!」

…うん、やっぱり美味い…!
うちの母さんの料理も、誠司さんの作ってくれた料理も美味しいけど、やっぱり俺はなまえちゃんの作ってくれたご飯が一番好きだ。
美味しいご飯はそれだけでも幸せだけど、なまえちゃんの作ってくれたご飯は格別!
今日の俺、つきまくってるかも…!

本当に、どれもこれも美味しくて、夢中になって頬張っていると…なまえちゃんの視線に気づいた。

「あ、ご、ごめん、俺ばっかり!」
「え?ううん、違うよ〜おかずもまだあるし、龍くんはもっと食べて食べて!ほんと、美味しそうに食べてくれるなぁって、嬉しくなってただけだよ〜」

そう言って微笑まれたら、また頬が熱くなってしまう。

「ふふ、龍くんってば、ご飯粒ついてるよ」
「えっ、ど、どこ!?」
「左側のほっぺの…うん、とれたよ」

…子供っぽいって思われたかもしれないけど、なまえちゃんと居られるなら、なんだっていいか!




そんなやりとりをしながら、ご飯のおかわりもたくさんして…
幸せなご飯の時間も終わってしまった。

母さんに何も言ってないし、さすがにそろそろ帰らないと…と、帰ろうとすると、なまえちゃんはさっき届いた果物をおすそ分けしてくれて、玄関まで送ってくれた。

「またご飯食べに来てね〜」
「ほんと!?来る!絶対来るよ!」
「ふふ、待ってるね。あと…」

そこまで言うと、なまえちゃんはちょいちょい、と手招きをした。
なんだろう?と思って近づくと、なまえちゃんは耳元でこう囁いた。

「『違わないけど』の続き…今度、聞かせてね〜?」




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