お見合い狂想曲〜鷹城恭二編〜



ダンスレッスン前の準備体操の、ストレッチ中。
Beitの3人はぐぐーっと体を伸ばしながら雑談をしていた。

その中で、そういえば、と思い出したように、みのりが話を変えた。

「プロデューサーが、今度お見合いをするんだって」
「おみ、まい?」
「『お・み・あ・い』だよ、ピエール」
「…マジっすか」

眉をひそめる恭二と、意味が分からず、きょとんとするピエール。
みのりがピエールに意味を説明すると、ピエールは「プロデューサーさん…けっこん、しちゃう?」としゅんとしてしまった。
それを見た恭二の胸の内に、もやもやとしたものがさらに広がっていく。
慌ててみのりがフォローをしていると、ダンスの先生が入ってきて、レッスンがはじまってしまったため、3人はそれ以上話をしないまま、その話は終わってしまったのだった。


そして、その次の日。
恭二はソロの仕事だったため、プロデューサーと2人、撮影スタジオの控室にいた。
前日からもやもやとしたものを引きずっていたため、暗い様子の恭二。
それを心配したプロデューサーが、恭二に声をかけた。

「恭二〜…恭二…聞こえてる?大丈夫?」
「えっ、あっ…悪い。ちょっと、ぼーっとしてた」
「体調悪かったりする…?今日の仕事、1人だから大変だと思うけど…平気?」
「ああ…体調は、悪くないから。大丈夫だ」

「体調は」と言う恭二に、プロデューサーは心配そうな顔をした。

「何か、悩みごと?私で力になれることだったら、相談に乗るから、話してみてね」
「…それ、は…」
「ん?」

ストレートに「アンタのお見合いのことが気になって」とは言えず、言葉を詰まらせる恭二。
その恭二の様子に、首をかしげながらもプロデューサーは恭二の言葉を待った。

「……なんでもないんだ。ちょっと、気になってることがあるだけで…」
「そう?…それなら、この話は終わりにするね。あ、そういえば…」

しつこく聞くのも、逆に負担だろうと判断したプロデューサーは、話題を変えた。
そのことに少しほっとして、恭二もその話題に乗っかっていたのだが…
待ち時間が長く、色々と話しているうちにぽろりと、恭二の口からあの話が漏れた。

「ところで、さ」
「んー?なぁに?」
「プロデューサー、お見合い…するんだって?」
「えっ!?………恭二の耳にまで、入っちゃったかー……」

深いため息をついて、プロデューサーは話を続けた。
珍しくはっきりと暗い表情をするプロデューサーに、今度は恭二が心配そうな顔をする。

「お見合いしたくてするわけじゃないんだけど…どうしても、家の関係で、断りきれなくて…」
「それって…お見合いだけじゃ、済まなくなるんじゃ…」

『家の関係』という言葉に反応した恭二は、知らずに拳を握りしめていた。

「うちのお祖父ちゃんが…家柄とかを、とっても気にする人でね」
「家柄…」
「そんなことだけで決めるなんて、相手にも失礼だと思うんだけど。相手方の家に嫁げるなんて、名誉なことだ!とかなんとか言ってて……まあ、どうなるかはわかんないけどね!先方が私を気に入らなければ、そこでおしまいだし!」

プロデューサーは、険しい表情を浮かべた恭二に気付き、それ以上心配をさせないように明るく言った。
しかし、恭二の表情は変わらなかった。

「プロデューサーは、お見合い、したくないんだよな?」
「それは…まあ…出来ることなら…」
「それなら…」

ぐ、と改めて拳を握り、恭二はプロデューサーを見つめた。

「『鷹城』の名前を使えば、プロデューサーはお見合いしなくて済むか?」
「えっ!?」

家柄なんてものくだらない、と思うが、それが全てだと考える人間がいることを、恭二は痛いほど知っていた。
そして、そんな人間に対して『鷹城』の名の力は、伊達じゃない。
たとえそれを好ましく思っていないとしても…恭二は、それを十分過ぎるほど理解していた。

「例えば『鷹城』の人間と、付き合ってるってことにしたら…断れるんじゃないか?」
「それは…」

その可能性は、なくはないかもしれないけど、でも…と言いよどむプロデューサー。
恭二が『鷹城』を嫌っていることを、プロデューサーも理解していた。
だからこそ、その申し出にプロデューサーは驚き、そして、そこまで言わせてしまったことを後悔した。

「プロデューサーのためなら、大丈夫だから。俺ができることなら、なんだってする」
「そんな、どうして…」

――どうして?

恭二自身、そう問われてもすぐに答えは出なかった。
あれほど離れたいと思っていた『鷹城』を、自ら引き合いに出すなんて。
それは、どうして…
いや。
そもそも、どうして自分はプロデューサーのお見合いが、こんなにも気になるのか。
プロデューサーは、俺にとって…


黙り込んでしまった2人。
しかしそこで、重く流れる空気をを壊すように、控室のドアが勢いよくノックされた。

「すみません!そろそろスタンバイお願いします!」
「あ、は、はい!」
「…うす」

そこで一旦、なんとか思考を仕事モードに切り替えたものの。
恭二は、帰宅後一晩中自問自答を繰り返し、考えに考え抜いて、そして…


ついに辿り着いた答えをプロデューサーに伝えるべく、恭二は事務所へと向かうのだった――




Main TOPへ

サイトTOPへ