状況はどちらも雨彦とのものと同じという前提。
◆蒼井享介の場合
「「うわぁ…」」
ホームに入ってくる、人がみっしりと詰まった電車を見て、なまえと享介は声を揃えて絶句した。
しかし、既に1本見送った結果がこれなので、この電車に乗るしか選択肢はなかった。
「ごめんね、これに乗らないと…」
「監督が悪いんじゃないんだから、謝らなくていいよ!俺は大丈夫。監督こそ、平気?」
「私は慣れて…いや、ここまでの混雑はなかなかないけど。でも大丈夫」
2人して、意を決して乗り込むと、予想通りの密集具合だ。
人の波に飲まれながらも、なまえは享介と離れないようにと必死にくっついていった。
その結果――
(やばいやばいやばい!!監督とこんなにくっついちゃうなんて…!)
享介となまえは、向かい合ったまま身動きが取れない状態になってしまった。
身長もそう変わらないので、当然顔の距離も近く…吐息がかかりそうな距離に、享介は大パニックだ。
(監督柔らかいし、なんだかいい匂いが…って!そんな場合じゃないだろ!!)
意識しないようにすればするほど、なまえと触れているところが気になってしまい、口を開くと変なことを口走ってしまいそうで、享介は黙りこくってしまった。
そんな享介の胸中に気付かないなまえは、顔を赤くしながら黙り込んで俯く享介に、心配そうに声をかけた。
「大丈夫?もしかして、具合悪い?」
「えっ!?ち、違うよ。大丈夫、そういうんじゃないから!」
そう返すも、享介は再びなまえから視線を逸らして口を閉じた。
心配してくれるなまえに、罪悪感を感じながらも、この距離でなまえとくっついている状況に、享介はただただ黙って耐えるしかなかったのだった。
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◆岡村直央の場合
ホームに入ってくる、人がみっしりと詰まった電車を見て、なまえは覚悟を改めた。
(直央くんは私が守らねば…!)
「直央くん、はぐれないように手を繋いでおこう」
「は、はい」
そっと繋いだ手は、女の自分よりずっと小さくて、柔らかい。
そんなことを改めて実感したなまえは、さらに気を引き締めた。
自身もそう大きい方ではないが、人の波に飲み込まれてしまいそうな小さな直央をかばう様に、その柔らかな手を引いて、なまえは電車に乗り込んだ。
はみ出した乗客が駅員に押し込まれてようやく電車が発車する。
2人は、人に流されるままに、車内の奥へと詰め込まれた。
「こんな電車に乗せてごめんね…大丈夫?」
「だ、大丈夫です!それに、今日は仕方ないと思います。プロデューサーさんのせいじゃないです!」
「ありがと」
健気な言葉に、思わず頭を撫でたくなるが、思うように手が動かせない状況なので、なまえは精一杯の笑顔を返すのだった。
しばらくすると、カーブで電車が大きく揺れた。
「わっ!」
「おっとっと、大丈夫?」
揺れで人が動いた瞬間に、なまえは直央を抱き留めて、自分の方へ引き寄せた。
結果、直央はなまえに抱きしめられたままの体勢で固定されてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫だよーそのまま寄りかかってていいからね」
吊革に捕まる手が悲鳴を上げるが、直央にそんなことは気付かれることのないように、なまえは笑ってみせた。
(…プロデューサーさん、優しい匂いがする)
人が多くて、少し苦しいけど、プロデューサーさんとだったら、安心できるな…と直央は遠慮がちにそっと、頭もなまえに預けた。
一方なまえは、そんな直央の愛くるしさに心の中で悶絶していたのであった――