無自覚デート



ぶるる、とスマホがポケットの中で震える。
立ち止まってスマホを取り出すと、メッセージが届いていた。

「あれ…大吾くんも来れなくなっちゃったのか」

みんな忙しいもんね、しょうがないかぁ。
残念な気持ちはあるけど、次の機会もあるだろうし。
私は簡単にメッセージを返して、再び歩き出した。

今日は、ゲーセンで知り合ったメンバーと遊ぶ約束をしていたのだ。
なんとそのメンバーである4人は、みんなバラバラのユニットだけど、同じ事務所のアイドルで…
申し訳ないことに、私はあんまり芸能人とかに興味ないから、言われるまで知らなかったんだけど。
打ち明けられてから気にするようになると、テレビでもよく見るような人たちだった。

そんな人たちと仲良くしてていいのかな、って時々思うけど…彼らはアイドルであると同時に、ゲーム好きな同年代の男の子たちなので、アイドルだって知った後も、一緒に遊ばせてもらってる。
メッセージアプリのグループにも入れてもらっていて、大吾くんも、そのグループ宛に連絡をくれたのだった。

まあ、今日は約束と言っても、新作の音ゲーが入荷されるから、もし集まれたら…って感じの緩いものだったし。
恭二さんは最初から仕事で来れないって言ってたし、隼人くんも曲作りが難航してて来れなくなって…それで、大吾くんもダメになっちゃって…
………あれ。と、言うことは…

――タケルくんと、ふたりっきり…!?


そのことに気づいたタイミングで、大吾くんからグループじゃなく、個人宛に再び連絡が来た。
『応援しとるぞ!』
…だって。なんてタイミング。
もしかして、気を遣わせてしまったのだろうか。

はぁ…もうすっかり、大吾くんにはバレてるよなー…私が、タケルくんのことを、好きだってこと。
……恭二さんと隼人くんは、気付いてないっぽいけど。

うう…意識したら緊張してきた。
悶々としながら歩いても、目的地のゲーセンはあっという間だった。

いやいや、今日は普通にゲームしに来たんだし!
別にタケルくんに告白するとか、そういうんじゃないんだし!!
そう自分に言い聞かせて、私はゲーセンに足を踏み入れた。



「なまえさん」
「タ、タケルくん!こんにちは」
「うっす」

声をかけられて振り向くと、帽子を被ったタケルくんが居た。
一応の変装らしい。似合っててカッコイイ。
…じゃなくて!

「今日、俺たちだけになっちまったな」
「う、うん。残念だね」
「また今度、みんなでプレイできるといいな。とりあえず整理券配ってるらしいから、貰いに行こうぜ」
「そう、だね!」

タケルくんの後について受付に整理番号をもらいに行くと、私たちの番は2時間後だった。
んー、思ったよりは混んでない…かな。

「2時間か〜…いつも通りゲームしてれば、あっという間だよね」
「そうだな。なまえさん、やりたいゲームあるか?」
「とりあえず、いつもの格ゲーで勝負しよ!」
「ああ、わかった」

私が得意な格ゲーをやって…得意と言っても、タケルくんも上手くなってきてるので、ギリギリ勝てた感じだった。
むーー、絶対私の方が長時間やってるはずなのに悔しい…!
タケルくんの動体視力と運動神経のよさには、勝てるはずもないんだけどさーー…
ちなみに、私と大吾くんの対戦成績は全くの互角。
だから時々、時間をわすれて熱くなっちゃい過ぎたりもする…

次は、タケルくんの得意なシューティングゲームをプレイすることになった。
私は格ゲーに比べると、そんなに得意じゃないから、1人じゃなかなかクリアできないんだけど、タケルくんのサポートのおかげで無事クリアすることができた。

「やったー!!タケルくんさすが!!」
「…クリアできて、よかった」

テンション上がって、勢いでハイタッチしちゃったけど、タケルくんも応えてくれた…んだけど、なんか変な顔をされた。
もしかしてうざかった…!?

「ど、どうかした?」
「あ、いや…改めて、なまえさんの手、小さいなと思って。今の、強すぎなかったか?」
「へっ!?いや別に!このくらい全然ヘーキだよ!?まぁうん、タケルくんに比べたら身長も低いしね!?」

タケルくんの言葉にどきまぎしてしまって、妙に慌ててしまう。
普通にしなきゃ、普通に…!

「あっ!そろそろ時間じゃない!?」
「…ああ、本当だ」
「行こ行こっ!」

時計を見たら、新作ゲームの順番が回ってくる時間だったから、強引に話を切り上げてしまった。
うう、普通って難しい…!



――楽しみにしていた新作ゲームのプレイは、あっという間に終わってしまった。
元々知ってる曲もあんまり入ってなかったし、1人1プレイだけだったから、本当にお試しして終わりというか…
しょうがないけど、色んな曲とかモードとかやってみたかったなぁ。
あと、整理番号的に一緒の時間になっちゃったから、タケルくんのプレイが見れなくて、ちょっと残念。

「あっという間だったな」
「ね!あと3回くらいやったら、感触掴めそうなんだけどなー」
「またやろうぜ。俺も対戦とか、してみたい」
「うん!」

反射的にそう返したけど「また」かぁ…
えへへ、嬉しいな。
2人でも、みんなででも、次の約束が出来るってこと自体が嬉しいんだもん。
あ、でもゲームは負けないんだからね!



そして、そろそろ帰ろうか…という時に、クレーンゲームの景品に、私の大好きなキャラクターを見つけてしまった…!

「ごめんタケルくん!あれやっていい!?」
「ああ…なまえさんの好きなキャラ、だよな」
「そう!」

ゲーセンで見つける度に、財布に痛手を受けつつも、揃えてしまう可愛いあのキャラ…!
家にぬいぐるみはいっぱいあるけど、それでも新しい子は手元に欲しいのです!
今回のは小さめだし、大丈夫大丈夫!

「なまえさん、どれ狙うんだ?」
「えっとね、あの帽子の子!あ、今から私とれるまで頑張るから、タケルくん暇だったら他見てきて大丈夫だからね!!」

全部揃えたいところではあるけど…1つは確実にゲットしたいから、狙いは絞るよ!
…もしかしたらこういう場合、世の中の女子は、男子にとってもらうものなのかもしれないけど…
私は自力でとりたいタイプなので!頑張ります!!

そして大量の100円玉を握りしめて、しばらく夢中になっていると…
店員さんの助力もあって、なんとか欲しい子はゲットできた。

「やったー!」
「おめでとう」
「えへへ、ありがとう!」

ぬいぐるみを取り出して、上機嫌で撫でていると、タケルくんが「これ」と私がゲットしたのとは違う子を差し出してきた。

「え?」
「なまえさん、帽子のやつ狙うって言ってたから…違うやつ、とってきたんだ。やるよ」
「いっ、いいの!?」
「ああ。なまえさんに貰って欲しい」
「あ…ありがとう!!」

うわああ、わあああ…!
前言撤回。
好きな人にとってもらったら、自分でとるよりずっと嬉しいです…!!

「…可愛いな」
「でしょ!このキャラクター、ほんと可愛くて好きなんだ!!」
「可愛いのは……いや」

何故かタケルくんは一瞬黙ったけれど。
思い直したように、言葉を続けた。

「……可愛いよな、そのキャラ」
「うん!本当にありがとう!大切にするね!!」
「そうしてもらえたら、嬉しい」



――その日から、私の部屋には、タケルくんのとってくれたぬいぐるみが並ぶようになった。
同じキャラクターのものはたくさんあるのに、1つだけが特別に見えてしまうのだから、我ながら単純なものだ。

みんなで遊ぶのももちろん楽しいけど、でも…

「またタケルくんと2人で遊べたら、いいな…」

そう呟いて、私はぬいぐるみを抱きしめたのだった――




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