Immature Cupid



『もうすぐ着く!』と連絡が来てから、10分くらい。
待ち合わせていたカフェの扉が開いた。

そっと手を振ると、あたしに気づいたプロデューサーが、小走りでこっちにやってきた。

「咲ちゃん、ごめんね、お待たせ…!」
「ううん、全然!プロ…じゃなかった、なまえこそ、お仕事お疲れさま!」

なまえはふう、と息をつくと「ありがとう」と笑って椅子に腰を座った。
これで、あたしとプロデューサー、2人だけのお茶会のはじまりだ。

――あたしとなまえの2人っきりのお茶会の時は『プロデューサー』じゃなくて、なまえって呼ぶって決めてる。
そうすれば、なまえはいつものプロデューサーじゃなくて、1人の女の子として話しやすいかなと思って、あたしが勝手に始めたんだけどね。

「なまえは、なに頼む?はい、メニュー」
「ありがと。そうだなー…外寒かったから、あったかい紅茶にしようかな…」

そう言って、なまえは店員さんを呼ぶと、ホットの紅茶を頼んだ。

しばらくすると、ポットに入った紅茶がやってきた。
カップに注ぐとふわりと香るその紅茶に、ほうっと小さく息をついて目を細めるなまえ。

…それだけで、何を想っているのかわかってしまう。

「それで、かみやとはどうなの?」
「どっ…どうって…何もないよ」
「えーっ!なんで!?」

久しぶりのお茶会だから、単刀直入に切り込んでみたものの…
困ったように視線を落とすなまえに、あたしは前のめりになって唇を尖らせた。

「この間の金魚祭りの時とか、すっごくイイ雰囲気だったのに!」
「いい雰囲気って…神谷さんにそんな気はないでしょ…」
「そんなことないと思うけどなー…」

(絶対かみやだって、なまえのこと好きなのに)

そう思ってはいるけど、かみやから直接聞いたわけじゃないし、あたしが勝手に言っていいことじゃないと思うから…
あたしは、喉まで出かかった言葉を、ぬるくなったミルクティーで流し込んだ。

なまえがかみやを好きになったのは、ずっと前のライブの時だったらしい。
その前から、意識はしていたみたいだけど。

あたしが気付いたのは、半年くらい前だったかな。
それから、2人でお茶をした時に、それとなく聞き出して確信して…
色々話を聞いたり、励ましたりしているんだけど。

なまえってば、仕事の時は、自信たっぷりにあたしたちのことをプロデュースしてくれるのに、自分自身のことになると、どうにも弱気になっちゃうみたい。
かみやの優しさは、みんなへのものだと思ってるらしくて…そんなことないのに。
確かにかみやはみんなに優しいけど…なまえには特別優しいんだよ。
そう言っても、なまえは曖昧に笑うだけだった。

どう見たって、両想いの2人なのになぁ。
ロールとそういちろうだって、そう思ってるみたいだし…アスランは、気付いてないみたいだけど。

あたしにとって、なまえもかみやも、あたしに居場所をくれた、大切で、大好きな2人だ。
その2人が幸せになってくれたら、こんなにうれしいことはないと思う。
だから、こうやってなまえと2人きりで話しては、はっぱをかけてるんだけど…


でも、あまりしつこくして、なまえを困らせたくはないから、あたしは話題を変えた。

「そういえばなまえ、最近原宿新しくできたコスメショップって、知ってる?」
「ううん…原宿は久しく行ってないなぁ」
「そっかぁ…最近忙しそうだもんね」
「ふふ、おかげさまでね。ちょっと先にはなるけど、咲ちゃん達も忙しくなるから、覚悟しててね」
「任せて!パピッと頑張っちゃうよ!」

お仕事の話だと、こんなに頼もしいのに。
どうしたら、なまえは自分自身に、自信を持ってくれるのかな…うーん。
アイドルとプロデューサーっていう立場が、何よりのハードルなんだろうとは思うけど…
なまえは真面目だもんね。

ぷぅ〜!もう、じれったーい!

やっぱり、なまえから動くのは難しそうだから…
かみやにはっきりと自覚してもらって、動いてもらわないとダメかな?
だって、なまえの周りには、あたしたちだけじゃなく、魅力的な人たちがいっぱいいる。
何より、なまえは頼りがいのあるプロデューサーで、とっても魅力的な女の子だもん。
もたもたしてたら、その人たちになまえをとられちゃうかもしれない。
そんなの…あたしの勝手な思いだけど…嫌だって思うから。

「咲ちゃん?何か考え事?頼りないかもしれないけど…悩みとかあったら、なんでも相談してね」
「えっ、あっ、ごめんね!」

なまえとかみやのことで悩んでるんだよ!
…とは言えなくて、あたしは適当に誤魔化してしまった。

「なまえのこと、頼りないなんて思ってないからね!」
「そう?…ありがとう」
「そうそう、あのね、この前――…」



……でも、そう想いながらも、いつまでもなまえと2人きりのお茶会が続けばいいのに…なんて思ってしまっている自分がいるのも、事実だった。

「こんな話を出来るのは咲ちゃんだけだよ」っていう、なまえの言葉が、嬉しくて。

恋をするってステキなことだなぁって思わせてくれる、なまえの表情が、大好きで。

(ダメだなーあたしってば…)

ごめんね、かみや。
もう少しだけ、なまえを独り占めさせてね――




Main TOPへ

サイトTOPへ