はじめてのおうちデート



「お、お邪魔します…!」

ゴクリ、と俺は喉を鳴らして一歩を踏み出した。
……俺は今日初めて、彼女であるなまえさんの家へやってきたのだ…!!

「ふふ、ようこそ〜」

案内されて部屋に入ると、なんだかいい匂いがした。
オートロックのマンションの一室であるなまえさんの部屋は、シンプルだけど、可愛いもので揃えてあって。
なんていったらいいのかわからないけど…『女の人の部屋』って感じだ…!!
…別に、他の女の人の部屋を知ってるわけじゃないけどっ…!

「あ、え、えっと!これ、お土産、です!」

ハッと我に返って手に持っていた紙袋を差し出すと、なまえさんはほわっと顔を綻ばせた。

「わ〜、ありがとう〜!ケーキ?一旦冷蔵庫にしまっておくから、あとで一緒に食べようね」
「う、うん!その、マキオに教えてもらったケーキ屋さんだから、絶対美味しいと思う!」
「そうなんだ、わざわざありがとう!」

ニコニコとするなまえさんの笑顔に、心臓がまたバクバクと早鐘を打つ。
ていうか俺、さっきからキョドりすぎだろ、落ち着け…!

「ふふ、私1人しか居ないんだから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ〜」
「ううっ」

…完全にバレてる。
もっとカッコよく余裕のある感じにしたかったのに…全然うまくいかないや。

「ほら、リラックスリラックス〜。そうだ、飲み物持ってくるね。隼人くんは何がいい?えっとね〜オレンジジュースと、牛乳でしょ、あとコーヒー、紅茶、緑茶があるよ」
「オレンジジュースお願いします!」
「はぁい。適当に座って待っててね〜」
「あ、う、うん」

てきとう…そう言われて、俺はなまえさんの部屋を見回した。

えっとえっと…
ベッド…は、よくないよな。
パソコンデスクの椅子…も違うよな。
このふわふわのラグの上に座っていい…んだよな?

周り中からなまえさんを感じて、なんだかとても落ち着かない。
当たり前のことなのに、全然この状況に慣れなくて、座ることさえままならない自分が情けない…



「お待たせ〜…って、どうしたの?立ってないで座りなよ〜ほら、ここにどうぞ。このクッションも使って大丈夫だよ」

なまえさんは小さなテーブルに飲み物を置くと、ラグの上にクッションを移動させてぽんぽんと促してくれた。

「あ、うん、えっと、し、失礼します」
「ふっ、失礼します、って…ふふっ、敬語になっちゃってるよ。気楽にしていいってば〜」

何故かツボに入ったらしく、くすくすと笑うなまえさん。
ああもう、ひたすらに恥ずかしい…
男らしい余裕って、どうやったら身につくんだろ…

「きっと、ゲームしてたら緊張も解けるよね。ということで、何しようか〜?」
「あ、俺ソフト持ってきたよ!2人で出来るやつ!あと、なまえさんがやってみたいって言ってたやつも!」
「わぁ、ありがとう。じゃあ用意するね〜」




そして、なまえさんとゲームをし始めると、緊張も次第に解けて――

「ふ〜。面白いね〜、このゲーム。私も買おうかなぁ」
「俺もうクリアしたから貸すよ!」
「いいの?2周目はしないの〜?」
「他のゲーム始めちゃったから、大丈夫!」
「そっか、ありがと〜。じゃあお言葉に甘えてお借りするね…あれ、もうこんな時間だ。お腹空いてる?」

…そういえば、緊張で朝食があまり喉を通らなかったんだよな。
自覚すると、途端に空腹感が襲ってきた。

「うん!」
「それじゃ、お昼ご飯用意してくるから、ちょっと待っててね。ゲームしてていいし、そこにある漫画とか雑誌もお好きにどうぞ〜」

なまえさんはそう言うと、立ち上がってキッチンに向かっていった。


…お昼ご飯…用意してくれるんだ…!!
お昼前から誘ってもらったから、どっちだろう、外に食べに行くのもありだよな、近所のおすすめのお店に連れて行ってくれたり…その時は俺がカッコ良く奢るぞ!とか考えてたけど、作ってくれるんだ…!
どうしよう、嬉しすぎる…!

なまえさんが作ってくれたお菓子は、何度か食べたことある。
俺が好きなジャムパンを作ってくれたこともあった。
どれもすごく美味しかったから、お昼ご飯もすっごく楽しみだ。

はぁ…彼女の家で、彼女の手料理を振舞ってもらうなんて…
俺、今日だけですごく大人の階段上ってる気がする…!
『彼氏』『彼女』って、すごいや…!

…そうだ、待っててって言われたけど、ただ待ってるのも申し訳ないし、何か手伝おう!



キッチンに行くと、エプロン姿のなまえさんがパタパタと作業していた。
か、可愛い…!

「あれ、どうかした〜?」
「あ、ああっ!えっと…」

見とれてる場合じゃなかった!

「その、何か手伝えること、ある?」
「ありがとう〜でも、お客さんなんだから、気を遣わなくて大丈夫だよ。ゆっくりしてて」
「でも、任せっきりじゃ申し訳ないよ」
「そう?私は気にしないけど…じゃあえーっと…ボールに卵を割って、よ〜く溶きほぐしてくれる?」
「わかった!」

手を洗って、なまえさんから道具と卵を受け取ってかき混ぜていると、炊飯器から美味しそうな匂いがしてきた。

「…もしかして、オムライス?」
「せいかーい!なんと、サラダとスープもセットでついてきま〜す♪」
「ええっ!なまえさん、すごい…!」
「ふふ、そんなことないよ〜」

しゃべりながらも、なまえさんはテキパキと作業を進めていく。
俺も手を動かさなきゃ!
シャカシャカと混ぜて、手元の卵の状態を確認する…『よ〜く』って、こんな感じでいいんだろうか…?

「卵って、このくらい混ぜればいいのかな?」
「うん、バッチリだよ。それじゃ、そこの棚から大きいお皿出してもらって…そうそう、それ。それで、炊飯器の中身かき混ぜて、好きなだけお皿に盛りつけて〜。あ、熱いから気を付けてね!」

言われた通りにお皿を出して、パカッと炊飯器を開けるといい匂いと共に、ツヤツヤとしたチキンライスが現れた。
チキンライスって炊飯器でも出来るんだなあ…これだけでも美味しそう…!

好きなだけ、って言われたけど…なまえさんの分もあるんだし、半分は残すとして…
これくらい…かな?

「これでお願いします!」
「は〜い。ちょっと成形するね……よし、こんなものかな〜」

なまえさんに渡すと、チキンライスの丸い山が出来上がる。
そっか、オムライスだもんな、山作った方がいいのか…!
なまえさんの手際がよくて、見とれてしまう。

「オムライスの卵は、ふわとろと、しっかりめ、どっちがいい?」
「ふわとろ!」
「ふふ、了解〜それじゃ、あとはそのカップにスープをよそって…テーブルは片付けておいたから、持って行ってもらえる?オムライスはもう出来るから、座ってていいよ〜」
「わかった!」

指示通りにスープを入れて、テーブルに持っていくと、既にセッティングがされていた。
すごいなあ、俺もたまに料理作るけど(なまえさんの作るものに比べたら、料理と言えるほどのものじゃない気もする)こんなに手際よくできないよ!


…チキンライスと言い、スープも、サラダも、準備しておいてくれたんだよな。
俺のために…あっ…なんかこれ、新婚さんっぽくないか…!?
……って、考え飛躍しすぎだろ俺…!

また1人でアワアワとしていると「お待たせ〜」と言うなまえさんの声と、美味しそうな匂いがやってきた。

「はい、どうぞ〜」
「すごっ…!卵がとろとろだ…!」
「ふふ、上手くいってよかったよ〜ケチャップどうぞ」

俺はなまえさんからケチャップを受け取ろうとして…
オムライス…ケチャップ…
…あ。

俺は、とあることを思いついた。

「…あの、1つ、お願いして…いいかな?」
「ん?なあに?」
「ケチャップで絵を描いてほしいなー…って思って」
「絵?いいよ〜何描く?」
「その…ハ………」
「“は”?隼人、って書くの?」
「ちっ、違うよ!…ハ、ハートを描いて欲しいです…!!」

い、言っちゃった…!
すると、なまえさんは、目を丸くして。

「えっ……ふっ…ふふふっ!!いいよ、いいよ、任せて、愛情込めて描くね!!」

せ、盛大に笑われてしまった…!
やっぱ変なこと言っちゃったかな!?

「なんだっけ、ええと〜…ハートを描いて〜…あと魔法をかける、んだっけ…?萌え萌えきゅーん、みたいな…?ごめんね、よくわからないけど、こんな感じでいい?」

笑いながらも、なまえさんが描いてくれたハートには「LOVE」という文字まであった。
す、すごい…!!
それだけでニヤつきそうになる。

「それじゃ、私のにも隼人くんがハート描いて〜」
「えっ、俺きっと上手く描けないよ!?」
「いいからいいから。あ、でも愛情はたっぷりよろしくね」
「ええっ!?」
「ふふ、ほら早く〜」

ううう、元はと言えば、俺が言い出したことだけど…これすっごく恥ずかしくないか…!?
いや、なまえさんはやってくれたんだし…
あ、愛情…愛情…!

「わっ!!」

失敗した、出し過ぎた!!
これじゃ全然ハートに見えないよ…

「ご、ごめん!!」
「ふふ、大丈夫だよ。隼人くんの愛情は爆発しちゃうくらいおっきい、てことで」
「っ!?」

うう、フォローされてるのか、からかわれてるのか、どっちなんだろう…
もっとカッコよくきめたいのになぁ…

…でも、こうやって笑うなまえさんとご飯食べられるのは、すっごく幸せだ。
なまえさんもそうだといいんだけど…




――なまえさんの作ったご飯は、全部美味しかった!!
そう伝えると、なまえさんは「何かほかに食べたいものがあったら教えてね」と言ってくれた。
なまえさんが作ってくれるならなんでもいいけど…なんでも、って言われても困るよな…なんて悩んでいると、なまえさんは「思いついた時に遠慮なく言って、ね」と笑った。


ご飯を食べてからも、ゲームしたり、おやつにケーキ食べたり、たくさん話したりして…
あっという間に、日が暮れていった。

「本当に送っていかなくていいの?」
「暗くなっちゃったし、なまえさんの帰りが心配になっちゃうから大丈夫!そんなに複雑な道のりじゃなかったし、スマホもあるし!」
「そう?それじゃ、また遊びにきてね〜」
「いいの!?」
「もちろんだよ〜」

よかった…緊張しすぎて全然カッコよくなかったと思うけど、愛想尽かされなくて…!
今度は、今日より落ち着いて行動できるようにならないとな!

そう思ってなまえさんを見ると、なまえさんはふふっと笑って、俺に近づいて。

「…今度はお泊りでもいいよ〜?」

と、そっと囁いたのだった――





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