※あまねちゃんにオリジナル要素強めです、ご注意ください。
とある日。
誠司のソロでの仕事も無事終わり、さあ帰るか、というところで、付添いで来ていたプロデューサーのスマホが震えた。
「すみません、ちょっと…」
「ああ、自分のことは気にしないでくれ」
プロデューサーは、誠司に断りを入れてスマホを確認し…あからさまに顔をゆがめた。
「…どうしたんだ？間違い電話でもかかってきたのか？」
「いえ…叔母さんからの電話なんですけど…」
「…ん？出ないのか？席を外した方がよければ、自分は外で待っているが」
「いえ、大丈夫です！どうせ、またあの話だし…」
プロデューサーはきっぱりと誠司の提案を断って、震えるスマホをバッグへ放り込んだ。
電話に出ることも切ることもせず、相手が諦めて切るまで放置しておくつもりのようだ。
誠司は、プロデューサーがそんなことをするのは珍しい、と訝しげに言葉を返した。
「あの話？」
「……あー…その。お見合い、の話です」
「…お見…合い…？」
「お恥ずかしながら、年齢的に色々プレッシャーかけられてて…誠司さんは、結婚の話とかされません？何かいい回避方法あったら教えて欲しいです…」
思いもしない単語に、鈍く反応を返す誠司。
かたや、めんどくさそうにプロデューサーはため息をついた。
「私はしない、って言ってるのに、叔母さんがしつこくて…」
「そう、なのか…自分は、特に言われないな。同級生や昔からの知り合いに、妻帯者が増えたとは思うが」
「ですよね！私も同級生が続々と結婚していって、ご祝儀貧乏気味です。おめでたいことですけど、続くと結構キツくて…」
そう言って、プロデューサーは苦笑した。
「彼氏がいれば、それを口実に断るんですけど…いないのがバレてるので、母も一緒になって、なかなか諦めてくれなくって」
「ああ…そういえばこの間、あまねに『彼女いないの？』と聞かれたことはあったな」
「ふふ、あまねちゃんおませですねー誠司さんは何て答えたんですか？」
プロデューサーも、誠司の姪っ子のことはよく知っているので、そのやりとりを思い浮かべて微笑んだ。
楽しくない自分のお見合いの話より、誠司とあまねのほっこりする話を聞きたいのだ。
「何と言われてもな…ありのまま『いない』と言っただけだぞ。その後も『どうして？』と聞かれて困ったが…」
「あはは、そうなんですね。大人には恋人がいるもの、って感じなんでしょうか？」
確かに、小さい頃は大人になったら結婚するものだと思ってたなぁ、とプロデューサーは内心溜め息をついた。
「あ、うちの事務所は恋愛禁止じゃないですからね！もちろん、不倫や略奪なんてスキャンダラスなものは困りますけど…大人として常識的なお付き合いであれば“アイドル”だってことに、変に遠慮とかしないでくださいね」
「あ、ああ…」
そう言って「誠司さんなら心配ないと思ってますけどね！」と笑うプロデューサーに、誠司は、プロデューサーには話さなかった、姪との会話の続きを思い返した。
「ねえ、どうして彼女がいないのー？」
「あ、はは…どうして、と言われてもなあ…」
「じゃあ、好きな人はー？」
「す、好きな人…？自分はあまねのことが大好きだぞ！」
「そういうのじゃなくてー！」
「え、ええ…？好きな人、と言われてもな…」
小さな頬をぷりぷりと膨らます姪に、誠司はたじたじになっていた。
どこでこんなことを覚えてくるのだろう…と少し心配になってくる。
そして同時に「好きな人」と言われ、とっさにある人の顔が思い浮かんだことに、自分でも驚いたのだった。
その様子を、あまねは見逃さなかった。
「わかったー！！プロデューサーさんでしょ！」
「なっ！？」
「えへへー『おんなのかん』をなめないでよね！だいじょうぶ、私だれにも言わないよ！」
そもそも、誠司の周りにいる女性も、その中であまねが知っている女性もかなり少ないこともあるのだが…
おませな姪に胸の内を的中させられてしまい、誠司は赤くなったり青くなったりして汗だくになり、様子を見に来た妹に、訝しげに眉をひそめられてしまったのだった。
「あ、そうだ！」
「っ！」
プロデューサーの声に、我に返った誠司は、大げさにビクッと肩を跳ねさせ我に返ったが、それに気づかず、プロデューサーは続けた。
「誠司さん、恋人のフリお願い出来たりしませんか？いつか来るかもしれない、恋愛ドラマのお仕事の予行演習と思って！」
茶目っ気たっぷりに言うプロデューサーに、誠司は真っ赤になってブルブルと首を振った。
「無理だ！も、もちろん仕事なら、やらなくてはいけないことは理解しているが、それでも今は到底無理なのに、プロデューサーさんの恋人のフリなんて…！」
しどろもどろになる誠司を見たプロデューサーは、その反応に悪戯心を芽生えさせてしまった。
「えーそんなに嫌ですかぁ…残念」
大げさにしおらしく残念がってみると、プロデューサーも思わぬ答えが返ってきた。
「好きな人の恋人の“フリ”が出来るほど、自分は器用ではなくてだな…！！」
「…えっ？」
「あっっ！？」
その言葉に驚くプロデューサー。
そして自分の口から漏れた言葉の意味に気付いて、ワンテンポ遅れつつも自分で驚く誠司。
「せ、誠司さん…？い、今の、本当…ですか？」
プロデューサーが戸惑いながらもその言葉の意味を問うと、誠司は湯気が出そうなほど真っ赤になって、体格に似合わないくらい小さくなっていき…
明確な返答はなくとも、プロデューサーはその言葉が嘘偽りでないことを、理解したのだった――