青少年奮闘記



オレの彼女のなまえは、普段は男女問わず軽口を叩くくらいサバサバしていて、とても付き合いやすいヤツ。
そう言うところが好きになって、オレから告白して付き合うことになったんだけど…
なまえは、かなりのレベルの『照れ屋』だった。

モテそうな性格・容姿の割に「色恋沙汰には、今まで全く縁がなかった」という本人の自己申告通り、なまえには全くと言っていいほど、『男女交際』というものに免疫がなかった。
普通に男子と話す分には問題ないが、異性として意識してしまうと途端にダメだそうだ。

オレだって、なまえが初めての彼女なわけだし、慣れてるわけじゃないんだが。
なまえが真っ赤な顔して固まっちまうから、こちらも戸惑って、何もできなくなる、というのがオレたちのパターンだった。




今日は珍しく野球部の練習がない休日。
オレが部活で忙しくて、普段あまり一緒に過ごせない分、休みの日は極力なまえと過ごすようにしてる。
というか、オレがしたいからそうしてる。

…だけど、2人で出かけようと誘うたびに真っ赤になって、「ひぁっ!?あ、う、うん、今度の日曜日ねっ…あいてる、だい、じょぶっ…」なんて返事されると、なんだかとても後ろめたいことをしている気持ちになる。
ただ一緒に遊びに行こうって誘ってるだけのつもりなんだが…。

…そりゃあ、オレだって仮にも一般的な男子高校生なわけであって、下心が1%でもないと言ったら、嘘になるけど。
今のなまえに手を出したら、酸欠か出血多量で倒れるに違いないし、な…

とにかく、今日もいつも通り高校生らしい健全なデート…のつもりだが。
ほんの少しだけ、ステップアップを!…と、思っていたりもする。


そんなわけで、今日はいつもより少し遠くの街へやってきた。
「少し遠い」=「知り合いと会う可能性が低い」ということ。
これも、今日の目標達成のためのポイントだ。
しっかし、この人混み…暇なやつばっかりなんだな…なんて、お互い様だけどな。

「うわ〜休日だけあって、すっごい人…」
「そうだな。人混みではぐれたら、せっかくのデートも台無しだし。はぐれないように…手、繋いどくか」

手を繋ぐことの必要性を強調して、オレはなまえへ言う。

「うぇっ!?あ、うん、そうだ…ね。うん…」

そう言いながら、なまえは差し出したオレの手の…人差し指をちょこんと握った。
なまえと手を繋ぐのは、初めてじゃないんだが…

「や、それはちょっと…」
「ご、ごめっ…え、えと…し、失礼します…」

何故か敬語になって、今度は恐る恐る手を握ってくる。
『繋いだ』というより、『握った』『掴んだ』いう感じの状態だ。
繋ぎ方に満足はしていないが、服の袖やバッグを摘まれていた頃に比べたら随分と進歩しているし、今日の目標への第1ステップだ、と自分を納得させて歩き出した。


街を遊び歩いて、昼飯を食べて、夕方近くになって。
何度か手を離したり、また繋いだりしているうちに、手を繋ぐことへの抵抗感も薄れてきたようだ。
「これ、花井に似合いそうじゃない?」
「そっか?んじゃ試着してみるよ」
…なんて会話も、手を繋ぎながらでも普通に交わせてる。

これなら流れに任せて、今日の目標…いけるんじゃねーかな。
今なら人も少ないし…そう思って、さりげなく、できるだけさりげなく、手の繋ぎ方を変えてみた。
自分の指と、なまえの指を絡ませて…いわゆる『恋人繋ぎ』というやつへ。

…これこそ、今日の目標だったもの。
自分でも、レベルが低い話だと思わないでもないが…なまえはそのくらい照れ屋なのだ。
断じて、オレの勇気がないとか、そういう問題ではない!

なまえの反応が気になって、そっと顔を覗き込むと…
見事なくらい真っ赤だ…
え、これでもダメ、なのか…?
ちょっと、心が折れそうだぞ?

「うぁぁ〜〜…や、ちょ…ごめん…」

ばっと手をほどいて、顔を押さえ込んで立ち止まるなまえ。
その顔からは湯気が出そうなほどだ。
あーぁ…ダメだったか…

「…ごめん、イヤなわけじゃない!で、でも…嬉しすぎるというか…ドキドキしすぎて、死んでしまいそうでっ…」

うっ!!真っ赤になって上目遣いで言われると、負ける…
てか、こっちにも顔の赤いのがうつるっ…!

「ほんと、ごめん、でも私の心臓がついていけないっ…」
「あー…俺の方こそ、ごめん。まだ早かった、か」
「う、うぅ…花井に我慢させちゃってる、かな…?ごめんね…」
「だぁぁ〜〜…そこでそれを言うなよ…」

そんな顔でそんなセリフ、自制心が折れるだろ…!
平常心平常心平常心…ふんばれオレ…!!


「ちょっと、こっち」
「えっ、うん…」

他の人からは死角になりそうな場所になまえを連れて行く。
会話を他人に聞かれたくないだけで、他意はない!
…ふぅ。よし、深呼吸したら、少し冷静になれた気がする。

「オレ、お前が慣れるまでちゃんと待つつもりだから。お前の嫌がる…って、別にイヤ、じゃない…のかもしれないけど。とにかく、お前の心の準備が出来るまでは、ちゃんと待つ」

「…はな、い…」

「でも!…オレだって、健全な男子なわけで!あんまり可愛いことされると、耐えきる自信ねぇから!!」

「か、かわっ!?あ、う、は、はぃ…」

そこで、会話が止まってしまった。
下を向いてるが、耳まで真っ赤ななまえ…オレだって、今死ぬほど恥ずかしい…
顔あちーし、きっとオレも真っ赤だ…なにやってんだ、オレたち。

するとふいに、なまえは顔を上げた。
その勢いに少し圧される。
なまえは真っ赤なまま、ところどころつかえながら、でもはっきりと言った。

「花井がっ、わ、私のこと考えて、我慢してくれてるのに…私が、何も頑張らないのは…おかしい、から!」

ガチガチとロボットのようにオレの隣に来たなまえは、オレの左手を取って、指を絡めてきた。
え、え、えぇぇえー!?

「これから、手を繋ぐときは、こうする…からっ!!だから…その、こんな、私だけどっ!!花井のことは、だい、好き…だからっ!愛想を、尽かさないでもらえるとっ…!」

そこまで一気に言うと、湯気が出るんじゃないか、ってくらいに顔を赤くして、なまえは俯いた。
…ヤバイ、なんでこいつこんなに可愛いんだ。
嬉しい。顔が緩んでくる。
正直、今すぐに思いっきり、なまえのこと抱きしめたい。
…でもダメだ、今のなまえの精一杯は、この繋いだ手なんだから。
なまえがオレを好きでいてくれてるなら、オレは耐えてみせる…!

ふぅぅ、と再び、今度はより深く、深呼吸を1回。
大丈夫だ、オレは紳士だ、紳士でいるんだ。
なまえに無理強いはしたくないんだ。

「愛想なんて、尽かさないから。オレ、なまえが隣に居てくれるのが嬉しいんだ。少しずつでいいから…一緒に歩いて行こう、な。オレも、お前のこと…大好きだから」
「あっ、ありがとっ…」


――こうして、真っ赤ななまえの笑顔とともに、オレの今日の目標は達成された。
ほんの小さな一歩だけど、なまえとまた一歩、進むことができたから。
少しずつでも、オレたちのペースで進めれば、それでいい。




…でも。だがしかし。やっぱり。
せめて卒業するまでには、キスくらいしたいとか思ってしまうオレは、ダメなんだろうか…これくらいは、普通…だと思いたいんだが…

オレの葛藤は、ずっと終わることはないのだろう…いいさ、頑張るよ、オレ…なまえのためだもんな…




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