「うぅぅ…うぅ〜…」
今日はクリスマス。
忙しい享介くんが時間を作ってくれて、夕方からデート…のはずだった。
そのために、プレゼントを探したり、新しい服を買ったり、美容院に行ったりして、準備はバッチリ…だったのに。
なのに、なのに。
風邪を引いてしまうなんて…!
しかも、久しぶりにこんな高熱を出した…
親に付き添ってもらわないと、病院にもたどり着けないし、病院に行っただけで疲れ果てて、気分がどんどん沈んでいく。
熱のせいなのか、メンタルのせいなのか、涙も出てくる。
なんとか享介くんには連絡を入れたけれど、本当に情けないし申し訳ないし悔しいし、自分が嫌でたまらない。
…そんな風にネガティブな気持ちに沈んでいくうちに、私はいつの間にか寝てしまっていた。
……ん…なにかがおでこに触れた…?
重い瞼をなんとか開くと、目の前には享介くんがいた。
…夢?
「あ、起こしちゃった?」
マスクをつけた享介くんが、申し訳なさそうに言う。
夢じゃ、ない…みたい。
「おはよ。寝てる間に勝手に入っちゃってごめんな。あ、もちろんなまえのお母さんの許可はもらったからね」
「…なん、で…?」
「なんでって…心配だったからに決まってるだろ。あっ、起きなくていいよ」
身を起そうとした私を、享介くんは制した。
ああ、享介くんは、優しいなぁ…
「今日は、ホントに…ごめんね…」
「気にしないでよ!熱が高いって聞いたから心配したけど…病院で、風邪って言われたんだって?だったら、しばらく安静にしてれば大丈夫だよな」
享介くんが、そっとおでこを触る。
…つめたくて、きもちいい。
享介くんは優しくて…優しすぎる人だから、心配かけて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「…私ね…今日、すっごく、楽しみにしてたんだ…」
「うん」
「体調にも、気を付けて…準備だってたくさんしてて…」
「…うん」
「でも結局、風邪ひいちゃって…せっかくのデート、だったのに…ごめんなさい…」
「わわっ、泣かないで!体調悪い時って、メンタルも引きずられちゃうよな…でも大丈夫だから。クリスマスじゃなくても、いっぱいデートしようよ」
じんわりとにじむ視界の向こうで、享介くんが柔らかく笑って、私の頭を撫でてくれた。
「それにクリスマスだって、今年だけじゃないんだし。来年も再来年もその先も、まだまだあるんだから、その時にリベンジすればいいよ」
よしよしと私の頭を撫でながら、享介くんは言った。
「ほんとう…?」
「ほんとだって!だから、今は楽しいこといっぱい考えよう!…あ、そうだ」
ゴソゴソと、享介くんが何かを取り出した。
「はいっ、これ俺からのクリスマスプレゼント!…って、寝たままじゃ受け取れないか。ここに置いておくから、元気になってからでも…」
「ううん、今…開けたい」
「起きられる?」
「…ん」
支えられて起き上がると、改めて享介くんが私にプレゼントを渡してくれた。
「メリークリスマス、なまえ」
「ありがとう…開けてもいい?」
「もちろん」
丁寧に包装をほどいていくと、箱の中には、小さなテディベアと、ハートモチーフのネックレスが入っていた。
「かわいい…」
「気に入ってくれた…?」
「ありがとう、すっごく、嬉しい!」
私が笑うと、ほっとしたように、享介くんも笑ってくれた。
「…なまえが喜んでくれたならよかった」
「素敵なプレゼント、どうもありがとう…あのね、私も、プレゼント用意してあるの。もらってくれる?」
プレゼントをとろうとベッドから起き上がろうとしたけど「無理しなくていいよ。俺がとれる場所にある?」と享介くんにやんわりと押しとどめられた。
「そこの、机の上に置いてある紙袋なんだけど…」と勉強机の上を差すと、享介くんがもってきてくれた。
「これであってる?」
「うん…あ、あの、一回私にもらっていい?」
「え、あ、うん」
ちゃんと手渡したかったので、一旦受け取る。
頭がふわふわしていて、上手く伝えられるか、自信がないけど…ちゃんと気持ちを伝えて、渡したい。
「今日は、デートできなくてごめんなさい。来てくれて、ありがとう…こんな私だけど、これからも、仲良くしてくれると、嬉しいです。メリークリスマス、享介くん」
そう言ってプレゼントを渡すと、享介くんは一瞬きょとんとした顔をして、それから笑った。
「あはは!うん、俺も、これからも仲良くしてほしいな…あと、早く元気になってね」
享介くんが、そっと頬に触れた。
それだけのことなのに、なんだかとっても安心する。
「それで、その…さ。次のデートには、俺のプレゼント、してきてくれる?」
「うん…!」
「よかった…約束、な」
私はこくこくと頷いて、享介くんの手をとった。
そして、そっと指切りをした。
「…なまえの手、熱いな。熱上がっちゃってないかな。長居しちゃってごめん」
言われてみたら、ぽーっとしてきたかも。
でも、享介くんに会う前より、心がポカポカしてるから、全然しんどくない。
「ううん、いいの。ねぇ、プレゼント、開けてみて。サイズ、間違ってないといいんだけど…」
「うん」
享介くんにプレゼントしたのは、ジャージだ。
レッスンの時とか、サッカーする時に着てもらえたらな、って思って。
サイズがそこまで細かくあるものじゃないから、大丈夫だと思うけど…
「あっ、ジャージだ!…うん、サイズも大丈夫そうだよ、ありがとう!」
「よかったぁ」
「…悠介とお揃いじゃないジャージって、初めてかも。なまえが俺のためだけに選んでくれたんだよな…へへ、嬉しいな」
喜んでもらえてよかった。
デートはダメになっちゃったけど…プレゼント渡せてよかったぁ。
「ホントはもっと一緒に居たいけど…無理させちゃよくないし、俺もう帰るよ」
「う…」
私も、もっと一緒に居て欲しい。
けど、風邪をうつしたらいけないし…これ以上、ワガママ言っちゃいけない、よね…
「…そんな顔しないで。ほら、横になって」
渋々布団に潜り込むと「早くなまえが元気になりますように」とあやすように享介くんにぽんぽんされた。
そして享介くんは、ネックレスと一緒に入っていたテディベアをそっと私の枕元に置いた。
「俺の代わりに、なまえのことよろしく頼むぞー」
そう言って、テディベアをつつく享介くん。
…本当に、優しいなぁ。
こんなに優しい人に心配かけちゃ、ダメだ。
「…今日は本当に、ありがとう。明日もお仕事、頑張ってね」
「うん!明日は生放送だから、元気があったら、なまえも見てよ!…それじゃ、またな」
そう言うと、享介くんは部屋を出て行った。
1人になった部屋の外から、階段を降りていく音、そして「お邪魔しました!」という享介くんの声が聞こえる。
寂しいけど、テディベアも居てくれるし、早く元気にならなくっちゃ。
私はまた、重くなっていく瞼に、素直に従った。
ネガティブな気持ちに圧し潰されそうだったさっきと違って、優しさに包まれるように、私は眠りに落ちていったのだった――
Merry Christmas with 315Production!! 