『メリークリスマス!俺たちの歌、最後まで楽しんでくれよな!』
クリスマスであることはわかっていたものの、独り身だし、普通に仕事あるし、と特に意識しなかった、普段通りの日。
子煩悩な上司のおかげで、いつもより早く仕事を終え、家で1人ぼんやりと見ていた、特番の音楽番組で。
「…輝くん、だ…」
そこには、歌って踊る天道輝くん、その人の姿があった。
――輝くんとは、10年ほど前、学生時代にほんの少しの間だけ、付き合っていた。
私にとって、初めての彼氏だった。
お互いに…ううん、私が子供だったから、すぐに別れてしまったけれど。
弁護士になったのは知っていた。
そしてアイドルになった、というのも人づてに聞いていたけど…
なんとなく、自分からは調べたりしなかったから、パフォーマンスをしているのを見るのは初めてだ。
…こんな風に笑って、歌うんだなぁ。
相変わらず、イケメンだ。
当時もどちらかと言うと可愛い系だったけど、今も童顔なのは変わらなそうだ。
きっと、童顔を誤魔化すのにひげを生やしてるんだろうなぁ、なんて思って少し笑ってしまう。
「逃した魚は大きかったか〜…なんちゃって」
…ああ、ちゃんと私の中で、輝くんとのことは綺麗な思い出として消化されていたらしい。
テレビの中の輝くんを落ち着いて見ることが出来た自分に、少し驚いた。
こんなことなら、もっと早く知っておけばよかったな…なんて。
あ、輝くんのソロパート。
…そういえば、一緒にカラオケ行ったときに意外に歌が上手くて盛り上がったっけ。
運動も得意だったし…周囲を惹きつける魅力に溢れる人だった。
ヒーローになる!なんて言っていた、あの輝くんが…と思う反面、輝くんはアイドルになるべくしてなったのかもしれない、なんて思ったりもする。
「ユニット名は…DRAMATIC STARSって言うのね。えーっと、どらまちっく、すたーず…っと」
CMになったので、ぽちぽちとスマホで検索すると、すぐに情報がいっぱい出てきた。
私が知らなかっただけで、すごく有名なんだなぁ。
当たり前だけど、私の知らない輝くんがいっぱい出てくる。
ああでも、趣味の特撮っていうのは、変わってないんだなぁ。ふふっ。
…それに、私の大好きだった笑顔も…変わってないと思う。
もちろん顔つきは大人っぽくなったけど、きっと根本は、何も変わってないんだろうな、って感じさせる、あの笑顔。
少しずつ、淡い思い出が蘇る。
優しくて、かっこよくて、大好きだった輝くん。
…懐かしいなぁ。
あ、CMが終わった。
再び、テレビの中で輝くんが歌っている。
さっきの明るい曲と打って変わって、今度は今日という日にぴったりな、ちょっぴり切ないクリスマスソング。
どうやら、同じ事務所の他のユニットとの合同曲らしい。
イケメンがいっぱい出てくるけど、私の目は輝くんに釘付けだった。
…ああ。曲が終わってしまう。
この曲が終わったら、もう輝くんの出番は終わりみたいだ。
『メリークリスマス』
曲にあわせて、静かな一言。
でも、不意に聞いた最初の一言よりも、胸に響いた。
その余韻に浸りたくて、TVを消した。
ああ、輝くんは本当にアイドルなんだなぁ…とよくわからない想いを抱く。
「…とりあえず、事務所のSNSアカウントフォローしようかな…」
復縁を望んでいるとか、そんなことはなくって。
…なんだろう、一周まわって、親戚みたいな感じかもしれない。
「あんなに小さかった子が、あんなに立派になって…!」みたいな?
なーんて、おこがましいにもほどがある、私の勝手な思いだけど。
第一、私と輝くん同級生だし…でも、なんかそんな感じ………ということにしておく。
…誰に向けての言い訳なんだか、わからないけど。
「CD出てるよね…買ってみよっかな」
今は、思い出も、距離も遠いけれど。
あの時間は、私の大事な思い出だし…
輝くんにも…少しでも、私と過ごした時間に意義…うーん、なんていうんだろう、糧?芸の肥やし?
…とにかく、プラスな意味で得られたものが、あったならいいんだけど…
思い返せば、私はいっぱいいろんなものを貰っていた気がするから。
「ってCDどころか、ライブのBlu-rayとか…えっ、写真集まで出してるの…!」
遠くからでも、頑張っている輝くんを応援したい…と思ったものの。
…これは、色々と覚悟して踏み入れないといけない道かも。
私は苦笑しながらも、CDやBlu-rayや書籍をいくつかショッピングサイトのカートに放り込んだ。
…大丈夫、ボーナスは出たし!
自分への、クリスマスプレゼント、ってことで…!
――そうして、私が再び、そして違う意味で輝くんに惚れるまで…あと少し。
Merry Christmas with 315Production!! 