ワガママを君に



今日は、久しぶりにお休みが噛み合ったので、年下の恋人である阿部隆也を我が家に呼んで、だらだらと休日を堪能しておりました。
すると、隆也から唐突に。

「なまえってワガママ言わないよな」

なんて言われました。
………なんか悪いものでも食べた…?


「そう…?」

私は返事をしながら、読んでいた雑誌を閉じてベッドから起き上がった。
その脇に座っていた隆也は、視線をあわさず、会話を続ける。

「あれがしたいとか、どこ行きたいとか、あんま言わねーじゃん」
「そうかなぁ。…ん〜…そんなこと言う年でもないし?もっと会いたい、って言ったって、隆也だけじゃなくて、私だってなんだかんだ忙しいし…その辺は、私の方が申し訳ないかなーと思っているので、ワガママは言えないと思うな」
「そりゃそーだけど…」

ありゃ、食い下がるね。
まぁ…なんとなく、隆也が何が言いたいのかはわかる。私だって、あれが食べたい、これがしたい、という欲は人並みにあると思う。
だけど私は社会人で、自分の都合もあって無理なことは望まないし、分別もだいぶついているつもり。現実というものも知っている。
それに残念ながら、私は他人に甘えるのが苦手だ。
だから、多分普段隆也の周りにいる子達に比べたら、 『ワガママを言わない』と感じるのかもしれない。


「そんなこと言ったら、隆也だって言わなくない?」
「オレはいーんだよ。今はなまえの話」
「うーん…そんなにワガママ言われたい?」

そう私が聞くと、少し間を置いた後、ぼそっと隆也は言った。

「……少しだけなら」

うーん。これは…学校でなんか言われた?それとも、雑誌にでも書いてあった?
隆也って、『女のワガママなんでめんどくせー』ってタイプだと思ってたんだけど。

「…女のワガママ聞くのは、男の甲斐性みたいに思ってる?」
「そうじゃなくて。なんつーか…なまえのワガママなら、聞いてやりたいっていうか。その、やっぱ、頼られてーし…少しくらい、甘えて欲しいっつーか…」
「…んまっ!そっかそっか〜へっへっへ…甘えて欲しいのか。なんだ、可愛いやつめ」

隆也の隣に移動して、うりうりと肘でつっつくと、照れ隠しなのか顔をそらして「気持ち悪い笑い方すんなよ。」と悪態をつかれた。
隆也は、年とか関係ねー!とか言いつつも、結構気にしてるのは知ってたけど、こんなことで不安になっちゃうなんて。可愛いなぁ!

「いやぁ。愛されてんだなぁ〜私っ!」
「…そーだよ、わりーかよ!」
「ううん、嬉しいよ」

そうストレートに返すと、隆也は「う…」と唸ってさらに顔を赤くする。
あはは、キャッチャーがストレートとれなくてどーすんの〜。


「じゃあ早速、ワガママ言っちゃうよ。今度、自転車の後ろに乗っけて?そんで、隆也の学校連れてって」
「はぁ?んなことしてどうすんだよ」
「隆也と青春したいんだよ〜。2ケツって青春っぽいじゃん!高校の時は、そういうの全く無縁だったしさ〜。何より、隆也の過ごしてるところを、私も見てみたい」

隆也の日常を知りたい。
それは、ぼんやりとだけど、ずっと思っていたことだから。文化祭とかもいいんだけどね。ちょっと日常からは外れちゃうし。

「そんなことでいいのかよ…」
「『そんなこと』じゃないんだよ、私にとっては!隆也の日常が見たいし、青春したいもーん」
「…なんだよそれ。まぁ…いいけど」

ほんとは隆也と授業受けたり、日直やったりーとか、色々想像してみるけど、どうしたって無理だしね。
そんな妄想はそっと心にしまっておきます。


「あとはー…そうだな、今度の隆也のお休み、1日全部私にちょうだい」
「ん。てか、そんくらい、いつでも言えよ」
「買い物に行こ。そんで、隆也を着せ替えて遊びたい」
「はぁ?」
「あ、じゃなかった、コーディネートね、コーディネート」

…っと、つい本音が。
隆也がむすっとしちゃったよ。

「お前、絶対先に行ったほうが素直な言葉だろ…オレを着せ替え人形にするなっ!」
「えー…なにさーワガママ聞いてくれるんじゃなかったわけ〜?別に、スーツにメガネでデートしよ、とか言ってるわけでもないんだからいいじゃんかー」
「そんなことしたいのかよ…」
「いや、私は別に。友達が『スーツ+メガネは最強だ』って力説してたから言ってみただけー。私はね、いろんな隆也が見れればそれでいーんだ」
「あ、そ…」
「照れるなよ〜愛いヤツじゃの〜」
「お前はオッサンかっ!」

オッサンでもなんでもいいよ、隆也が愛想つかさないでくれるなら。
そういって笑うと「その余裕がムカつく!」と頬を引っ張られた。
そんなにニヤけてたかしらっ。

ふふ、せっかくの機会なので、他にも色々いっておこっと。

「もういっこ!今日夕飯食べてって。腕によりをかけて、いーっぱい作るから。んで、体作って、さらに野球に励んでちょうだい!そして目指せ甲子園!!」

そういって私が「おー!」と気合を入れて腕を上げると、わけがわからない、って感じの目で見てくる。
ノリが悪いなぁ、もう。

「それって、なまえのワガママになんのかよ?」
「なるなる。隆也は大好きな野球に熱中できて、私はそんな隆也を見れる!一石二鳥でお得でしょ〜」
「そういうもんかぁ?」
「だって野球やってる隆也カッコイイよ?」
「……ちくしょう、やっぱムカつくっ…!」
「ははは、しょうがないよ。隆也がこんなめんどくさい女を選んじゃったんだもん、諦めなよ」
なんて、言っててちょっと照れるけど。




「って、うぁっ!?」
隆也をからかってたら、抱き上げられてベッドに放り出された!
…この展開は、まさか…

「…そのムカつく余裕、なくしてやる…!」
「ふっ…お互いに余裕がなくなるだけでしょーが」
「るせー!」
「ふふ、じゃあ今日は思う存分、甘えさせてもらうねー…」


ホントは、傷つくのが怖いから、大人ぶって距離をとってるのもあるんだ。
私は、卑怯で中途半端な大人だから。
ごめんね。

……でも、信じていい、んだよね、隆也。
あんなこと言われたら、もう自分の気持ちに、セーブなんかかけられないよ。
もっともっと、隆也に溺れちゃうからね――




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