ゆく年



「今年もあと少しだねー」

こたつに入りテレビを流し、大吾の作った年越しそばをすすりながら、だらりと過ごすなまえ。
「先ほど仕事を納め、帰宅したばかりだから!」という免罪符を心の中に掲げて、なまえはすっかり気を緩め切っていた。

「はふぅ〜…おそば美味し〜〜作ってくれてありがとね」
「これくらいお安い御用じゃ!今年もご苦労さん、なまえ!」
「大吾くんもお疲れ様だよ〜」

なまえと大吾は、同じ事務所の事務員とアイドルだ。
2人は、地元に帰らない組ということで、今日は夜通しゲームしよう!ということになり、なまえの家で年越しを過ごすことになった。
初詣は、F-LAGSの涼、一希と合流予定だ。

サクサクの海老天を頬張るなまえは、幸せそうだ。
未成年ゆえ、先に仕事が終わるのだから、という大吾の申し出に甘えたなまえだったが、自分で作るより絶対正解だった!と謎の納得をしていた。

「今年はどんな一年だった?」

なまえの問いかけに、しばし思考し…大吾は言葉を返した。

「そうじゃなぁ…月並みじゃが、いろんな場所で、いろんなチャレンジをさせてもらえて、楽しかったぞ!特にビーストクロニクルの続編は、やりがいもあったし、最高の思い出になったのぉ!」
「やっぱ、男の子的には燃える感じ?」
「ああ!ジイさんにも勧めてみたが、ちょっとずつ勉強してくれとるらしいけぇ、バトルできる日が楽しみじゃ!」
「ふふ、いいねぇー」

ニコニコと大吾の話に相槌を打つなまえ。

「それと…」
「ん?」
「…いや!なんでもない!なまえの方はどうじゃった?」
「…うーん、そうだなぁ」

大吾の言いかけた言葉を気にしつつも、なまえは思考を巡らせた。
下手に深追いをしないなまえの距離感が心地よくて、大吾はなまえのそばで過ごすことが多くなっていた。
それについて言及しようとして…この関係が揺らぐことを危惧して、やめてしまったのだった。

そんな大吾の様子を探るようなことはせず、なまえは自分の言葉を紡いだ。

「忙しかったけど…充実してたなーって。みんなのおかげで、私も色んな世界に触れられたし。あとね、改めてアイドルのみんなに、惚れ直したなぁ」

なまえはふふふ、と笑いながら言った。

「みんな、か…そうじゃな、315プロダクションは、カッコええやつらばかりじゃからな」
「うん、ホントに。これでみんな性格もいいんだもんなぁ〜〜ダメダメな我が身を振り返る日々だよぉ」

“みんな”であることを、少しだけ残念に思う大吾には気づかず…
「なんて、こんなだらけた格好で言っても説得力ないけどね」と、なまえは苦笑しながら言うのだった。

「ワシらがアイドルとして輝けるのは、なまえたちのおかげじゃ!じゃけぇ、胸を張ってくれ」
「えへへ、ありがとうね」
「それに、家でくらい、気を緩めんとな。ワシに出来ることがあったら、何でも言ってくれ」
「ふふ、大吾くんは頼もしいなぁ」

本当に何でもできちゃいそうだもんな〜となまえが言うと、そんな男が目標じゃ!と大吾が笑って返す。

…許される間は、このままで。
大吾がそんな想いを抱いているとはつゆ知らず…けれど、優しく微笑むなまえ。

ゆっくりと、2人の大晦日の夜が過ぎていった。




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