唯一無二のあなた



※ゲーム内の輝の最初の雑誌のアレンジ、みたいなお話です。






「…俺…事務所、クビになった」

――ヤケ酒の酔いから覚め、なんとか絞り出したその言葉は。

思ったよりずっと、弱々しい、情けない声音だった。

その言葉を向けた相手は…ベッドの隣に座るなまえ。
学生の頃から付き合っていて、今は同棲している俺の彼女だ。

お互いの両親と会ったこともあるし、年齢的にも、そろそろ結婚を…とも考えていたくらいの付き合いなのだ。

そんな状況で、俺の突然の解雇報告。

…なまえはそんなヤツじゃない、って思ってるけど。
世間一般から見たら、罵倒されたり…最悪、捨てられてもおかしくない状況なんじゃないか、なんて思ってしまう。


俺の選択は間違ってないと胸を張って言える。
けれど、なまえのことを考えたら…少し、言葉に詰まってしまうのは否めなかった。

そんな不安を抱えながら、なまえの反応を伺うと…

「そっか。でも大丈夫、輝ならすぐ次見つかるよ!なんなら、しばらくゆっくりしてもいいんじゃないかな、ずっと輝は頑張ってきたんだしさ」

あっけらかんと、なまえは言い放った。

「こう見えても、自分と輝くらいなら養えるから、どーんと私に任せなさい!」

空気を明るくさせるためなのか、おどけて「えっへん!」と胸を張るなまえ。
なまえの気遣いが嬉しくて、でも少し不安になってしまう。

「…理由とか、聞かないのか?」
「最近よく話してた案件絡みでしょ?だいたい想像つくし…話したいなら聞くけど、もうちょっと落ち着いてからでいいよ」

なまえには前から、機密事項は伏せた上で、同業者として相談していたから、察しがついたらしい。

…あー、敵わねえなぁ。
俺はなんだか胸がいっぱいになって、なまえを引き寄せた。

「わっ!」

ぎゅうううっとなまえを抱きしめると、なまえはふっと笑って、俺の頭をあやすように撫でた。

「ふふ、惚れ直しちゃった?」
「…ああ。なまえが隣に居てくれてよかった。なまえはすごすぎて…俺の彼女なのが不思議なくらいだ」
「あはは、それ私がいつも輝に思ってるやつじゃん〜」
「そうなのか?」
「そうだよ〜。そんな輝だから、大丈夫。きっと、もっと他にいい居場所が見つかるよ」

よしよし、となまえに撫でられると、少しずつ心が軽くなっていくようだ。

「なんなら、専業主夫を極めてくれたっていいし…なんてね。でも、今日みたいに外で1人でたくさんお酒飲んじゃダメだよ。輝はお酒強くないんだし…連絡しても返事くれないから、心配したんだよ」
「うっ……悪い…」

なまえは明日も…いや、もう日付けはとっくに変わってるから、今日か。
仕事があるのに、泥酔して帰ってきた俺を介抱してくれた上に、こうして話も聞いてくれている。
はぁ、自分が情けねえや。

「私は、どんな輝も好きだし、いつだって輝の味方だよ。だから、私には愚痴言ったり、弱音吐いたりしてくれていいんだよ」
「そこは、カッコつけさせてくれよ…って、こんな状態で言っても説得力ないけどな」
「ふふ、そうだねえ…でもいいんじゃない?逆の立場だったら、輝は同じこと言ってくれるでしょ?」
「そりゃもちろん」
「ね。だから、とりあえず今は…ゆっくり寝よう?」
「…そうする」



言われるがまま、ベッドに横になると、なまえは内緒話をするように、身を寄せてきた。

「もしかしたら、私への責任が〜とか考えちゃってるかもしれないけど、そういうのは気にしないでね。私は、輝に経済的に依存して生きていくつもりはないんだから」
「あー…本当に俺の彼女は、いい女だな」
「ふふ、そうでしょうとも」

くすくす、と冗談めかして笑うなまえ…けれど、ふっと、笑顔が消えて…
切なげな顔をして、空いた手で俺の頬に触れた。

「…だからね、私と一緒にいるのを諦めたりするのだけは、やめてね」
「……ああ、当たり前だ」

実はほんの少しだけ、そんなことを考えていた自分を殴ってやりたい。
俺の彼女は、なまえだけだ。
絶対、この人を離しちゃいけないと、ずっと一緒に居たいと、全身全霊で思う。

「ありがと。それが聞ければ、私からはもう言うことはないよ。おやすみ、輝」
「……おやすみ、大好きだ、なまえ」

愛しさが募って、より深くなまえに触れたくなるが…
これ以上、俺の勝手に付き合わせるわけにはいかない。
我慢だ、我慢。

せめてこれだけでも…と思って、なまえの額にキスを落とすと、なまえは柔らかく笑って、そのまま眠りに落ちていった。

色々考えなきゃいけないことは多いが…俺も、今は早く寝てしまおう。
今考えても、きっといい考えは浮かばないだろうから。
…おやすみ、なまえ。







――そして。

目が覚めると、電話が鳴り響き…なんだかんだで、俺はアイドルになることになった。

そして、それをなまえに伝えると……すげー驚いた後、しばらく考え込み…
昨日の頼もしい言葉とは逆に、弱腰な言葉を紡いだ。

「…輝がアイドルになっても、私は隣に居てもいい?」
「当たり前だろ!!」

前のめり気味にそう伝えると、安堵したように「じゃあ、いいんじゃないかな」となまえは言った。



「…それにしても、輝と一緒にいると、ホント退屈しないね。そんな輝がアイドル…なるほど…うん…意外ではあるけど…アリなんじゃない?そのプロデューサーさん、見る目あると思うな」
「ホントか?」
「うん。だって、輝かっこいいもん」

さらりと言い放つなまえは、なんだか色々想像しているらしい。
ブツブツと呟いていると思ったら…ぱっと顔をあげた。

「あっ、そうだ」
「どうした?」
「ファンクラブの会員番号1番が欲しいな」
「…は?…ファン、クラブ?……随分、気が早いな」
「そう?輝がやるって決めたなら、すぐにファンクラブくらい出来るでしょ」

…またさらりと言ってくれる。
お前ってやつは…!

「あーー!!ほんっと、俺、なまえのことが好きだ!!」

想いが募って、ぎゅうぎゅうと抱き締めると、なまえは笑いながら「私も輝が好きだよ。応援してる」と抱き締め返してくれた。


――大事な大事な、俺のなまえ。
なまえが誇れるような、男に、アイドルに、なってみせるからな…!!





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