春月夜



部屋の電気を消して窓を開け、少し身を乗り出す。
そして深呼吸をして、私は夜空を見上げた。

「はー…」

今日も月が綺麗だなぁ。

昔から、私は夜空を見上げるのが好きだ。
別に何かあったからと言うわけではなく、習慣になっているだけだから、深い意味はないのだけれど。

『秋の月はさやけきを賞で、春の月は 朧なるを賞づ』なんて言われてる通り、今日の月は、朧げだけど、優しい光。
はっきりと見えないものの、こういう月も季節を感じられて好きだ。
これで桜も見れたら、最高なんだけど、あいにく家の近くに桜の木はないんだよね…

…せっかくだし、月見酒もいいかもなぁ、確かまだ冷蔵庫にお酒が…なんてぼんやり考えていたら、大きな手で、視線を遮られた。

「そんなに月に焦がれてるのかい」

そう言って、大きな手の主は、私を後ろから抱き締めた。

雨彦さん、いつの間に来てたんだろう。
気付かなかったや。
そんなにぼーっとしちゃってたのかな、私。

相手がわかっているし、抵抗する理由もないので、目隠しされたまま「おかえり」と伝えると、少し笑ったように「ただいま」と返ってきた。

するりと手を外されたので、私は再び月を見上げて言った。

「今晩の月も風情があって、綺麗だと思わない?」
「それには同意するがね」

…はっきりとは言わない雨彦さん。
『女性が月を見てはいけない』なんて話を、真に受けているわけではないだろうから、いつもの戯れなんだろうけれど。

「月から…というか、どこからもお迎えなんて来ないし。雨彦さんに無理難題をふっかけてもいないし…そもそも告白したの、私からじゃない」
「はは、そうだったな」

薄く笑って、雨彦さんは私の頭をぽんぽん、とあやすように撫でた。
雨彦さんは普通の人より、言い伝えとか、そういうのを気にする方かなとは思うけど…
さすがに、私はかぐや姫なんてガラじゃないしね。

遅い時間だから、近所迷惑にならないように、私たちは静かに言葉を交わしていく。

「振り回されてるのも、どっちかって言うと私だと思うんだけどなぁ…」
「そんなことないさ。いつだって、お前さんの一挙手一投足に俺は惑わされてるぜ」
「またまたぁ」

――くしゅん!

会話の途中で私がくしゃみをすると、雨彦さんは「まだ夜は冷えるな」と言って、さらに密着してきた。
雨彦さんは大きいので、包み込まれてる感じが半端ない。
…というか、若干拘束されてる感もあるなぁ。
まぁ、雨彦さんにならいいけど。

「ふふふ、あったかーい」
「俺は湯たんぽ代わりかい?」

そう言いながら、指先まで絡めとられた。
なんだか、今日は甘えん坊さん…?
…月に嫉妬でもしたのかな。
なーんて自意識過剰なこと、口には出さないでおくけれど。

「よし、今日のお月見終わり!」

私がそう言うと、雨彦さんの拘束が少し緩んだので、そっと腕をほどいて窓とカーテンを閉めた。

「もういいのかい?」
「うん。これからは雨彦さんとイチャイチャすることにしました」
「ほう、そいつは光栄だな」
「そういえば、ご飯は食べてきた?まだだったら、何か作るよ」
「それも魅力的だが…今は、お前さんがいいな」

部屋の電気をつけようとしたけれど、再び雨彦さんに捕まって、あっという間に腕の中に戻っていた。
そしてそっと顎をなぞられて「なまえ」と、熱っぽく名前を呼ばれて…
視線を上げれば、私の視界に映るのは雨彦さんだけになる。

「…明日も仕事あるので、お手柔らかにお願いします」
「善処しよう」

笑う雨彦さんに手を伸ばせば、その手すら取られて、口づけを落とされた。
何もかも、雨彦さんのものにされていってしまう。

……これは、ダメかも。
もちろん、嫌じゃないけど………頑張れ、明日の私。




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