「おはようございます、みょうじさん」
「あっ、神楽さん!おはようございます!」
アイドルたちが事務所の垣根を越えて、ユニットを組んで大型ライブに出演する『POPLINKS FESTIVAL』という新しいプロジェクト。
神楽さんは、そのプロジェクトで一緒にユニットを組むことになった、違う事務所のアイドルだ。
神楽さんとは、ユニットを組んだ時が「はじめまして」で…
私も神楽さんも、初対面の人とすぐに仲良しになれるタイプではなくて。
最初はかなりぎこちなかったけれど、一緒にレッスンをしたり、ライブをしたりする中で、だいぶ仲良くなれてきたと思う。
(ちなみに、もう1人も違う事務所のアイドルだけど、別のところで一緒にお仕事をしたことがあって、既に仲良くしていた子だった)
だから。
今日は、大事なお願いがあるのだ。
「あの、神楽さん」
「なんだろうか?」
荷物を下ろした神楽さんに話しかけると、私の緊張が伝わったのか、神楽さんも表情を硬くする。
「えと、私たち、仲良くなれてきてるとは思うんですけど…ユニットとして、もう一歩、ステップを進めたいと言いますかっ…」
「あ、ああ」
「なので…名前で呼び合いませんか!」
「えっ」
せっかく一緒にユニットを組むことになったんだもの、もっと仲良くなりたい!
そう思って、同じ事務所の子に何かいい方法がないか相談してみたら「名前で呼び合ってみたら?」と言われて…それはいい案だ!と思ったんだけど。
目の前の神楽さんは、困惑した顔をしていた。
「あっ、その、嫌だったらいいんです!無理にとは言わないんですけど…!」
「いや、嫌なわけではないんだ。わたしのことは、好きに呼んでくれて構わない。だが、貴殿のことを名前で呼ぶのは…その…」
…なるほど…呼ばれるのはいいけど、呼ぶのは抵抗があるってことなのか…
仲良くなりたくて提案したことで、嫌なことを強要しちゃダメだもんね…!
「そ、そうしたら…私のことは今と一緒で構わないので…私は神楽さんのこと『麗くん』って呼んでもいいですか…?」
「あ、ああ…」
そう提案すると、快諾してくれたけど…
神楽さん…じゃなくて麗くんは、少し顔を赤くして、ふいっと視線をそむけた。
…そんな麗くんが、かわいいな…なんて思ってしまう。
本人には、言わないけど。
「ありがとうございます、麗くん!私のことも、好きに呼んでくださいね!」
「…善処する」
いつか麗くんに、名前で呼んでみてもらいたいなぁ。
…と、そこでもう1人のメンバーとプロデューサーさんがやってきて、その話は終わってしまった。
でも、一歩は進めたと思うから。
もっと麗くんと仲良くなって、ユニットとしてももっと成長していけたらいいな…!
決意を新たに、私は今日の仕事に向かうのだった――