distance



久しぶりの2人きりでのお出かけ。
電話がかかってきたので少し席を外してくる、と謝る北斗くんに大丈夫だよ、と手を振った。

1人になると、残された私は大きく息をついた。


――北斗くんは、私に甘い。

こんな私を恋人のように、甘やかしてくれる。
でもきっと、私だけにじゃないんだろうな、と思うと胸が痛くなるのに気づいたのは、いつだっただろう。

私は本当は、そんなに物分かりがいいタイプでも、後腐れなく遊べるタイプでもないんだよ。

でも、そんなのバレたら、きっと北斗くんは私とこうして会ってくれなくなるだろうから。

本当の私は、ぎゅっと心の奥に閉じ込めて…
明るい、ノリのよい、女の子を演じるの――


戻ってきた北斗くんに、笑い返して、他愛ない会話を繰り広げる。
アイドルである北斗くんとこんな近い距離で話しているけれど、それでも。

(遠い、なあ)

なんて思ってしまって、また胸が痛むのだった。


***


久しぶりの2人きりでのデート。
プロデューサーから電話がかかってきたので、なまえさんに謝って、席を外した。

戻ってからもう一度謝ると「全然大丈夫だよ!」と、なまえさんは笑った。


――なまえさんは、俺の前で心から笑ってくれない…と思う。

こうして2人で過ごしていても、見ることができるのは遠慮がちな笑顔だけ。
その笑顔を見ると、少し心が痛んで…
もっとなまえさんの気持ちを知りたい、心からの笑顔を見たい、そう思うようになったのは、いつからだろう。

俺の本気は、どうしたら伝わるだろう。
貴女じゃなきゃダメなんです。
この気持ちを、どうか知ってほしい。

でもなぜか、なまえさんの前だと、スマートに振舞えなくて…この気持ちを持て余し続けている。

一歩を踏み出すことができなくて…
また軽薄なセリフを口にしてしまうのだった――



他愛ない会話は尽きないが、今日のデートもそろそろ終わりだ。
なまえさんは隣を歩いているけれど、それでも。

(遠い、なあ)

なんて思ってしまうこと、それがどうしようもなく、情けなくて、嫌で。
俺らしくもないけれど…思わず、その手をとってしまった。

「わっ、北斗くん?どうしたの?」

なまえさんは驚いたけれど、手を振り払うことはしなかった。
そんな些細なことに調子に乗ってしまった俺は、勢いのまま、なまえさんを抱きしめていた。

「ほ、ほ、北斗くん!?どうしたの、具合でも…」
「…これから伝えることは、全部俺の本気の気持ちだよ。だからどうか、最後まで聞いてもらえないかな」

驚いて顔を上げたなまえさんにそう伝えると、なまえさんの瞳が揺れた。
その瞳に、俺はどう映っているのか。
余裕のない、さぞ情けない顔をしているんじゃないだろうか。
でも、それでも俺は、もうこの距離に耐えられないから。

「俺は――…」





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