お見合い狂想曲〜柏木翼編〜



人生で一番、というレベルで切羽詰まっていた私は、レッスン終わりの翼さんに泣きついた。

「翼さん、助けてください〜〜〜」
「わっ!?どうしたんですか、プロデューサー!?」
「実は…!」

かくかくしかじか。

私は、一族の主である祖父に強引にお見合いを進められていて困っていることを翼さんに説明した。

おじいちゃんは、私を地元男性と結婚させて、仕事を辞めさせて、田舎に連れ戻す気だ。
そんなの絶対お断りだ!!
それでおじいちゃんと電話口で喧嘩になってしまって、つい勢いで「恋人ならいるもん!!」なんて言ってしまった。
そしてヒートアップした末に「そんなに言うなら、会わせてあげる!」と啖呵を切ってしまったのだった。

…………『恋人』なんて、私にとって絶滅危惧種の生き物なんだけど…ああ、やってしまった…



「なるほど…」
「…そんなわけでして…翼さんに助けていただきたくて…」
「オレにできることなら、なんでも言ってください!…でも、具体的にどうすればいいんでしょうか…?」
「それなんですよね…」

おじいちゃんは学歴やら、権力やらに弱い。
東京のパイロットが恋人、なんて言ったら黙ると思う。
なので、翼さんにパイロットのお友達を紹介してもらう…と言う案も考えたけれど、パイロットって忙しそうだよね…
合コンセッティングしてもらって、おじいちゃんに会いに行くというのは、スピード感的に厳しそうだし。
かと言って、翼さんに恋人のフリを頼むのも申し訳ないし。
勢いで翼さんに泣きついたものの、特に具体的に策はないのだった。

ううーん、と2人で考え込む。
すると、翼さんがはっと顔を上げた。

「…そうだ!オレが恋人のフリをするのはどうでしょうか?もちろん、プロデューサーが、嫌じゃなかったらなんですけど…」
「い、嫌なわけないです!!そんな…いいんですか…!」
「もちろんです!できるだけ急いだ方がいいんですよね。今度のオフはどうですか?」

そんなわけで、翼さんの神提案はとんとん拍子に話が進み…
次の休みに、翼さんと一緒におじいちゃんに会うことになったのだった。




――そして。

綿密な打ち合わせの甲斐もあって、見事、おじいちゃんの説得に成功!
お見合いは回避できたのでした…!

「本当にありがとうございました、翼さん!!」
「いいえ!いつもプロデューサーにはお世話になってますし…力になれて、よかったです」

ほっと息とつき、柔らかい笑みを浮かべる翼さん。
うう、なんていい人なんだろう…!

「それに…プロデューサーが、オレのことを一番に頼ってくれてうれしかったです」
「翼さんには迷惑をかけてしまいましたけど、翼さんに相談して本当によかったです…!私、このご恩は、一生忘れません!翼さんが困った時は、私もなんでもしますから、言ってくださいね!!」

もちろん、仕事でもお返しできるように頑張ります!
してみたいお仕事や、チャレンジしてみたいこと、行ってみたい場所があったら遠慮なく言ってくださいね!!

そう本心から素直に翼さんに訴えかけると、翼さんは少し目を丸くした後、珍しく視線を彷徨わせ…口を開いた。

「えっと…その、なんというか、困っている、というわけではないんですけど…オレも家で、妹や弟たちに、お兄ちゃんは彼女いないの?連れてこないの?なんて言われてて…」
「そうなんですね…!」

年の離れた妹さんや弟さんのお願いは、うちの事情とはまた別の方向で断り辛いよね…

「プロデューサーを紹介させてもらえたらうれしいな、なんて…」
「あ、はい!演技は下手かもしれませんが、私なんかでよければ…!」

小さい子に嘘をついてしまうのは、少々心苦しい気もするけど…
お願いを叶えてあげたいという気持ちもわかるし。
…なんて、思っていたのだけれど。

「そうじゃなくて…オレは“恋人のフリ”じゃなくて“本物”として、プロデューサーのことを、家族に紹介したいんです…!」
「…えっ…」
「オレは、プロデューサーのことが好きです!オレの本当の恋人に…してもらえませんか。もちろん、ゆくゆくは…その、結婚を前提に、というか…」

しどろもどろになった真っ赤な翼さんが、なんだかいつもより小さく見える。
…私も心臓がバクバク言っているし、耳まで熱い。

……ど、どうしたら…アイドルと、プロデューサーがそんな関係になっていいのか?とか、色々な考えが頭の中をぐるぐると巡る。

………でも、間違いなく言えるのは…どうしようもなく、嬉しくて。





――おじいちゃん。
次に会う時は、後ろめたさを感じることなく、堂々と翼さんと2人で会いに行くことになりそうです――




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