今日はクリスマス。
だけど、私はふつーにお仕事。
一緒に過ごす相手もいないことだし、仕事がある方がありがたいけどね。
唯一クリスマスらしいことと言えば…イベントごとに全力投球なタイプの同僚が買ってきたケーキを、お昼休みにみんなで食べたことくらい。
それが見た目だけのケーキかと思いきや、味も美味しくて、おかげで午後の仕事も頑張れたなー。
そこで、私のクリスマスはおしまい。
あとは年末に向かって行くだけだ。
今年もあと少しだなぁ。
年末年始は実家に帰る予定だから、そろそろ荷造りを始めないと…
あ、お土産はどうしようかな。
毎回期待されてるからなぁ…
東京駅で買える最新のお土産とか、調べておこっと。
そんなことを考えながら、帰宅をし、ご飯を食べながらぼーっとテレビを見ていると、旧知の人物が映った。
「あ、道夫くんだ」
道夫くんと私は幼馴染である。
とは言っても、アイドルである道夫くんは忙しいし、そんな道夫くんに私から連絡するのもなんだか気が引けて、最近全然会ってない。
妹同士は仲がいいから、妹経由でチラホラ話は聞くけど。
クリスマスの夜にまで大変だなぁ…
イベントだもんね、アイドルの稼ぎ時だよね。
…あ、でもこれ収録番組か。
じゃあ今は事務所でパーティーとかかな?
確か前に船でやるとか聞いた気が…なんというか、住む世界が違う。
私は今の生活が気に入っているから、別に羨ましいとかはないけれど…
道夫くんは、教師からアイドルへ、華麗なる転身を遂げた。
最初聞いたときは、理解が追い付かなかったけど…本人から理由を聞いて、納得がいった。
道夫くんらしいなって。
ライブに招待してもらったこともあるけれど、あれを見たら、さらに納得しちゃったよね。
…と言うか、あれは泣けたな〜…
突拍子もない発想にしか思えなかったけど、あんなに楽しそうでキラキラしてる道夫くん見ちゃったら…ねえ。
テレビの中の道夫くんは、今日も楽しそうに歌っている。
きっと帰省したらまた、道夫くんの話で持ちきりだろう。
その方が、私の方に話が向いてこないのでありがたい。
実家での、独身アラサーの肩身の狭さたるや……
そのテレビ番組も終わり、色々と片付けて…
そろそろ寝ようかな、と思っていると、電話がかかってきた。
「こんな時間に誰よー…って道夫くんだ」
噂をすればなんとやら…
いや、頭の中で考えてただけだけど。
何か緊急の用事かもしれないし、と私は電話に出た。
「もしもし?」
「硲道夫です」
「はーい、なまえですよー。突然どうしたの?」
電話の向こうは、ガヤガヤと騒がしい。
少なくとも、家にいるわけではないようだ。
「今から会いに行っていいだろうか」
「………は?」
「いや、君に会えるなら明日でも、明後日でもいいのだが…できれば今すぐに会いたい」
「……えーーーと。もしかして酔っぱらってる?」
「酔ってはいない」
突然の電話に、よくわからない言動。
…道夫くん、酔っ払うほどお酒を飲むタイプではないと思ってたんだけどな…?
どちらかというと、お酒が入ると寝ちゃうタイプだったと思うんだけど…どうしたんだろ…ちょっと怖い。
酔ってないわけがないと思う、これ。
「道夫くん、今どこにいるの?」
「居酒屋だ」
「1人なの?」
「いや、山下くんや舞田くんたちがいる」
なら、大丈夫かな…同じユニットのお二人とは、プライベートでもかなり仲がいいみたいだし…酔っ払いの言うことをどこまで信じていいかは謎だけど。
受け答えはしっかりしている気はする…けど…今の道夫くんには、不安しかない。
「じゃあ、いきなり会いたいって、どうしたの?何か用事があった?」
「いきなりでは、ない。ずっと会いたいと思っていた。今もだ」
「…え、ほんと大丈夫?」
返事はしっかり返ってくるが、若干呂律が回っていない気もする。
こんな道夫くん、初めてだ。
「道夫くん、何か嫌なことでもあったの?疲れちゃった?」
「そうではない、わた、しは…素直な、気持ち…を……」
「うんー??なにー?」
「ずっ…と、君の…こと、を…むか…から…す……」
言葉が途切れ途切れになったかと思うと、道夫くんからの応答がなくなった。
「ちょっと、道夫くん?道夫くんてば!大丈夫!?」
慌てて声をかけるものの、返事はなく…耳を澄ませると、かすかに聞こえる、寝息らしい音。
まさか寝落ちした、ってこと……??
「おーい、道夫くーん!大丈夫なのー!?」
事務所の人…少なくとも同じユニットの人と飲んでるっぽかったけど…ちゃんと周りに誰かいるだろうか。
道夫くんから、同じユニットや事務所の人たちの話を聞いたことはあるが、面識はない。
ましてや連絡先なんて知るわけもなく。
居場所がわからないから、探しにもいけないし、困ったな…
外はかなり寒いから、なおのこと心配だ。
逆の立場だったら、道夫くんはあらゆる計算をして居場所を当ててきそうなものだけど、私にはそんなことできないし。
…そもそも、酔っ払って誰かに電話したことなんかないけど。
こんな状態の道夫くんを放っておけないけど、どうしたものか…
と、電話を切らずに悩んでいたら、遠くから道夫くんではない声が聞こえた。
「はざまさん、そんなところで寝ちゃダメですってー…」
名前呼ばれてる!
よかった、誰か知り合いが居るみたい!
「はざまさーん、起きてくださいってば……あれ、誰かに電話かけてたのかな?もしもーし?」
「もしもーし!!」
「…あれ、もしかして、なまえさん?」
「は、はい!そうです、なまえです!」
あっこの声、聞いたことがある気がする!
道夫くんと同じユニットの、山下さんでは?
面識はないが、一方的に知ってる…つもりだったんけど、どうやらあちらにも私のことは知られているらしい。
…変なこと話してないでしょうね、道夫くん。
じゃなくて、今はそんなことよりも。
「あの、道夫くん大丈夫ですか?」
「寝てるだけだから大丈夫だと思いますよ。ちゃんと家まで連れていきますし…って、そうだった。挨拶がまだだった。俺は山下次郎って言います。はざまさんと同じユニットでアイドルやらせてもらってます」
「はい、道夫くんからお話はかねがね…!」
やっぱりそうだった!
初対面なので、電話なのに思わずぺこぺこと頭を下げてしまう。
挨拶を済ませ、敬語はなくて大丈夫な旨を伝えると…山下さんの知る限りの状況を、説明してもらうことになった。
「えーっと…簡単に説明すると、はざまさん、今日の仕事の出来にかなり満足したみたいで、事務所のクリスマスパーティーの二次会で、いつもよりハイペースで飲んでてねぇ。それで酔っ払って『なまえさんに会いたい』って言いだしたんだよね。それで、席を離れたから、トイレかなと思ってたんだけど…なまえさんに電話してたみたいだね」
「なる、ほど…?」
状況はわかった、けど。
…いや、正直理解はできてない。
なんで私に会いたいって話になったんだろう…謎だ…
何かきっかけになるような仕事だったんだろうか。
うーん、幼馴染を亡くすドラマとか…?
「とりあえず、明日はざまさんに酔ってる間のことは伝えておくからさ。詳細は本人から聞いてもらえる?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
真実は本人のみぞ知る…よね。
今は、道夫くんの安全が確保されただけでヨシとしよう。
「あと、これは完全に俺のおせっかいなんだけど…どこかで時間作って、はざまさんに会ってあげてね」
「はい、それは、大丈夫なんですけど」
「…そっか。じゃあ、うちのリーダーをよろしくね」
「こちらこそ、道夫くんをよろしくお願いします!」
「はは、任されました。それじゃあね」
そこで通話は終わった。
…ふう、なんだったんだろ、ほんと。
うーーん…ホームシックとか…?
…と、いくら考えても答えは導き出せず。
すごく気になるけど、明日以降、本人に聞くしかないよね。
「ふわぁ〜…」
おっきなあくびが出た。
安心したら眠気が来たかも。
もう寝るかぁー…おやすみなさいー…
――なんてその日はのんきに眠ってしまったのだけれど。
後日、最敬礼での謝罪のあと。
このクリスマスの珍事以上の衝撃的な発言が、道夫くんから放たれることを、この時の私はまだ知らないのだった。
そしてその後、2人揃って、実家に帰ることになることも――
Merry Christmas with 315Production!! 