全力のおもてなしを貴方へ!〜華村翔真◆〜



クリスマスも近づいたある日。

自分のセンスに自信がなさすぎて、恋人に「クリスマスプレゼントに何が欲しいか」と素直に聞いた。
…何を贈っても喜んでくれるだろうけど、でもやっぱり、外したものはあげたくなくて。

そうしたら「そうねえ」と言って、しばし考え込んだあと、彼から返ってきた言葉は。

「そうだ!『クリスマスなメイドさん』でお願いするわ!」

…と言う、謎のお願いだった。



――しかし。自分から聞いたからには、最後まで責任を取るのが私である!
どうせならば全力でやりきらねば!!

というわけで、クリスマス当日に向け、万全の準備を整えた!



まずは兎にも角にも衣装だろうと思って、ネットでサンタ風メイド服を購入した。
頼んだ衣装は、赤の厚手の生地をメインに、白いファーやリボンやレースがふんだんに使われている。
スカートも下品じゃない短さ。
見えないけど、一応ガーターベルトもあわせてある。
雰囲気は大事だけど、衛生面を考えて手袋はしていない。
あとは…メイドさんと言えばカチューシャだけど、そこはサンタ要素優先で、サンタ帽である。
外には出ないので、足元は赤いスリッパだ。

…正直、カラーリング以外にサンタ要素は入れられなかったので、せめてもの要素として、枕元にささやかなプレゼントも置くつもり。


そして、肝心のメイドさんっぽいことってなんだろう、と色々考えて、翔真さんが好きなメイド喫茶定番のおまじないのセリフとポーズは覚えた。
あと、設定も色々考えた。
私はお芝居なんてしたことのない一般人なので、翔真さんにその場で上手く返せるかは、自信ないけど…

ディナーのメニューはオムライスをメインに、年末年始に向けて忙しい翔真さんにあわせた野菜たっぷりのメニューを用意して、ケーキとシャンパンも準備万端だ。
…なお、設定的には私が作ったんじゃなく『お屋敷のシェフ』が作ったことになっている。

部屋の飾りつけもしたし…BGMも用意してある。
やれることはやりきったと思う!




――というわけで、私は1時間ほど前から、翔真さんの帰宅を待ち望んでいるのである。
さっき駅に着いたって連絡が来たから、あと少しで帰ってくるはず。
あっ、おまじないを復習しておこう…!
BGMももうつけておこう!


なんて、ドタバタと準備をしていると、インターホンが鳴った。
ひゃーーーついに来た…!

目を閉じて深呼吸をして、気持ちを整える。
大丈夫、大丈夫……ここから先は、私はメイド、メイド…!

覚悟を決めて鍵を開けると、扉が開いた。

「おかえりなさいませ、ご主人様!!!」

笑顔で思いっきり元気よく、例の(?)セリフを言う。
恥ずかしさは封印だ!

肝心の翔真さんの反応はと言うと…
目を丸くした後、キラキラと輝かせ。
にんまりと笑ったあと、コホンとわざとらしく咳ばらいをした。
…たぶん、これがスイッチだ。

「…ああ、ただいま、『なまえ』。なんだか今日は、いつもと違うようだね?」
「はっ、はい!」

キリっとした『ご主人様』を演じる翔真さんに飲み込まれかけたが、慌てて意識を引き戻す。
いつもは『なまえちゃん』て呼ばれるから、呼び捨ては新鮮だなぁ!

「本日はクリスマスですので…いつも私たちに優しくしてくださるご主人様に、少しでも楽しんでいただければと思って、屋敷のみんなでご用意しました!」
「なるほど…『みんな』ね。それは嬉しいねえ」

今ので、ざっくりとした設定は伝わったらしい。
お屋敷にはシェフはもちろん、庭師だっている。
ツリーを用意したのはその庭師…という設定だ。
…実際のツリーは、もちろん本物じゃないんだけど。

ちなみに私自身の設定は…サンタなメイドである以上、シックでクラシックなメイドさんというのは無理があったので、お屋敷でも若い方でテンション高めの、明るくて元気な、多少ドジっ子なメイドさんだ。
…ということにしておけば、色々粗があっても大丈夫かなーと思ってたりもする!



私はうやうやしく翔真さんのコートと荷物を受け取り片付けて、料理の最後の仕上げをしつつ、翔真さんの準備が整うのを待った。
そして準備整ったのを見計らって、私は翔真さんの手を引き、リビングへ案内した。

「シェフが張り切って腕を振るってたんですよ!オムライスの仕上げは、私が任されました!」

オムライス以外は、シェフという名のデパ地下ですけどね!
諸々の準備に手間取りすぎて、そこまで手が回らなかったのです。

「…なるほど。じゃあ頼むよ、なまえ」
「はいっ!」

「美味しくなーれ」と歌いながら、ケチャップで大きなハートを描いて…っと。

「お屋敷みーんなの愛情が詰まったオムライスの出来上がり!ですっ!」

と、にっこり笑って、翔真さんの前にサーブする。
ほんとーーに恥ずかしい…けど、ダメダメ、演りきらなきゃ!

「どうぞ、召し上がってください!」

他のお料理も取り分けてそばに控えていると、翔真さんが同席を勧めてくれたので、一応メイドとして1回目は「恐れ多いですっ!」と断り。
2回目の勧めで席に着いた。
さすが翔真さん、こちらの意図を汲んでくれて助かる!

とは言え、今の私はあくまでメイドなので、いつもより翔真さんの動向に気を使いつつ、今回の設定をもとにした会話をしつつ、食事をし…


そしてその後、ケーキを出したところで「うん、ありがと!一旦メイドさんはやめて、なまえちゃんと一緒にケーキ食べたいわ」と言われた。

思ったより早かったかも。
…『一旦』というのは気になるが…私はふーーーっと息をついた。

「……どうだった?」
「ここまでやりきってくれるとは思わなかったわよォ!なまえちゃんの意外な才能を見たわぁ。半分冗談だったンだけどねェ」

くすくすと笑いながら翔真さんは、ケーキに添えた紅茶をかき混ぜた。

「どうせならやりきろうと思って頑張りました!めちゃくちゃ恥ずかしかったけど!!」
「ふふふっ、ありがとね。すっごく可愛かったわよ…それにしても、壮大な設定だったねぇ。シェフにパティシエ…庭師まで」
「あはは、考えてたら楽しくなっちゃって!」
「なまえちゃんて、凝り性よねえ…こんなクリスマス初めてよ。楽しいクリスマスを、本当にありがとう」
「えへへ、どういたしまして」

あ〜翔真さんが喜んでくれてよかったーー!!
頑張った甲斐があったよー!!

そんな会話をしながら、ケーキを食べ終わって…もう終わったことだし、着替えようかな、というかこのままお風呂入っちゃおうか…と考えていてたら、ソファーに座った翔真さんにちょいちょい、と手招きされた。


「まだだーめ」
「え、やめてよかったんじゃないの?」
「『一旦』って言ったでしょ?」

…う。やっぱり裏があったか。
………いや、でもまあ…これから翔真さんがしたいことを…想像をしていなかったと言えば、嘘になる、んだけど。

「…あら?もしかして期待してた?」
「………少しだけ」
「ふふっ、素直でよろしい」

そう私の頭を優しく撫でていた手が、一転して艶やかに、つぅ、と私の頬を撫でる。
そして。

「じゃあ、行こうか『なまえ』」
「……はい。『ご主人様』」

いつもと違う名前の呼ばれ方をきっかけに、翔真さんと私の、メイドさんごっこは再開し…
今度は翔真さんに手を引かれ、私は甘い夜に誘われるのだった――




Merry Christmas with 315Production!!





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