「直央くん、そろそろステージ裏に行こうか」
「はっ、はいっっ!!」
聖歌隊の真っ白な衣装を身に纏う直央くんの顔は、緊張ですっかり硬くなっている。
…久しぶりの1人の仕事だから、余計に緊張してるのかも。
今日の直央くんのお仕事は、色々な事務所から集められた歌唱力の高い小中学生アイドルによる、親子向けのクリスマスコンサートだ。
さらに、そんなメンバーの中で、直央くんはソロパートをもらうことができた。
とても喜ばしいことなのだけれど…その分、直央くんの緊張はいつにも増して強いようだった。
もっと大きな会場でライブをしたこともあるんだけど…いつもはもふもふえんや事務所のみんなと歌ってるもんなぁ。
…と言いつつ、ここまでは予測済みでこの仕事を受けている。
こういうところでの成功体験が、自信に繋がっていくだろうから。
万が一失敗したとしても、成長材料にはなっていく…というかさせるのが、プロデューサーというものだ。
ステージが近くなるにつれ、ますます直央くんがガチガチになっていく。
邪魔にならないように、端の方で私は足を止めて、直央くんに話しかけた。
「直央くん直央くん」
「はいっ」
「ちょっと手を貸してくれる?…やっぱり、冷え冷えだ」
そう言って手をとると、小さな指先がすっかり冷え切ってしまっている。
会場は屋内で温かいから、緊張のせいだろう。
少しでもあったまるように…と、手を握って視線を合わせるためにしゃがむ。
「緊張するのは悪いことじゃないからね。でも、このままだと、声が出しづらいだろうから…」
私は、手をクロスさせて、自分の右手と直央くんの右手、そして左手同士を組ませた。
「…指相撲しよ!レディー、ゴー!」
「えっ!?えっ、プ、プロデューサーさん…!?」
直央くんの返事を待たず、私は両手で指相撲をスタートさせた。
いきなりの私の行動に、直央くんは慌てて親指を動かす。
もちろん本気でやらずに、ギリギリの攻防を繰り返した。
「わわっ」
「ふふ、やるね、直央くん」
「いきなり、なんてっ…うぅっ、反則ですっ!」
そう言いながらも、直央くんは指相撲に夢中になって…
次第に表情は緩み、指先も温まってきた。
…よし、こんなものかな。
「――きゅーう、じゅうっ…!やったぁ、僕の勝ちです!」
「ありゃー負けちゃったなぁ」
決着がついたところで、私はそっと手を離した。
「ちょっとは気が紛れた?」
「あっ…はい!おかげさまで…!」
「もし足りなければ、かのんくん直伝のくすぐりも…」
「だっ大丈夫です!!」
指をわきわきと動かしてくすぐるジェスチャーをすると、素早く直央くんに防御され…2人でふっと笑いあった。
ステージ裏に到着すると、改めて私は直央くんと向き合った。
「いっぱい練習してたんだから大丈夫だよ!今日はちっちゃなお客さんが多いし、きっと客席もにぎやかになるんじゃないかな。なかなかない機会だし、せっかくだから楽しまなくっちゃ。直央くん自身が、会場の中で一番楽しむ気持ちで行っておいで」
そう言ってそっと背を押すと、直央くんは「はい!いってきます!」と元気よく駆け出して行った。
――程なくしてコンサート本番が始まった。
小さな子供でも聞いたことがあるようなアニメの曲やクリスマスソングを、アイドルたちの合唱とミニオーケストラの演奏が彩っていく。
子供たちは、知っている曲が流れると口ずさんだり、飛び跳ねたり、手を叩いて喜んだりしていて…舞台袖に居てもわかる、すごくあったかい空間だ。
直央くんも、楽しそうに歌ってる。
気付けば、あっと言う間に数曲が終わり…
もうすぐ、直央くんのソロパートがある曲だ。
立ち位置変更のために移動する最中…直央くんはチラリとこちらを見てきた。
私は「バッチリだよ!」と「頑張って!」と「楽しんで!」の気持ちを込めて、にっこり笑ってぐっと親指を立てた。
すると、気持ちは伝わったようで…直央くんも笑い返してくれた。
そして…曲が始まった。
綺麗な合唱に聞き惚れているのか、会場も先ほどより静かだ。
直央くんのソロは後半。
直央くんなら大丈夫、とは思っているものの…やっぱり、少しドキドキする。
もうそろそろ……ここからだ!
静かなホールに、直央くん1人の、繊細で透き通った声が響き渡る。
出会った時から、歌がうまかったけど…アイドル活動を通して、ますますその歌声に磨きがかかったと思う。
まさに、天使の歌声だ。
思わず聞き惚れてしまうが…私はプロデューサーなので、周りの様子も見ておかねば。
そう思って客席が見えるギリギリまで出て覗いてみると、キラキラした目でステージを見上げる子たちがいた。
…中には、ポカンと口を開けたまま、ステージを見つめる子もいて、ちょっと笑いそうになる。
スタッフさんの中にも、手を止めてステージを見つめる人がいるのを見つけて、「やったね、直央くん、大成功だよ!」と、心の中でガッツポーズしちゃう。
直央くんのソロパートが終わると、また合唱になって…そして、曲が終わった。
会場は飲み込まれたように、しんと静まり返ったが…やがて拍手が広がり、会場全体が歓声に包まれた。
直央くんを見ると、安心したように息を吐いていた。
そしてこちらの視線に気づいたようで、そっとこちらの反応をうかがってきたので…
私はぱちぱちと手を叩き、我が事務所お馴染みのジェスチャーである「3・1・5」と返した。
すると、直央くんは目を丸くした後…嬉しそうに顔をほころばせた。
もう少しだけコンサートは続くけれど…
直央くんなら、最後まで集中力を切らさずに、成功させるだろう。
終わったら、めっちゃくちゃ褒めてあげよう!!
実は、内緒でご褒美も用意してるんだよねー。
喜んでくれるといいんだけど…
私は、終了後の段取りを改めて確認しつつ…
直央くんを褒め倒す言葉を、あれやこれやと考えるのだった――
Merry Christmas with 315Production!! 