Reserved seats




C.FIRSTのユニットでの仕事の帰り道。
私は3人を乗せて、車を走らせていた。

車での移動は何度目だったか、もう忘れてしまったけれど…
C.FIRSTは、座席位置が早々に確定したと思う。

運転を代わってくれるメンバーがいるユニットは、その時々によって変わる。
そうでない場合も、助手席に座りたがる子が多いので、その時によって、交代で席を入れ替わったりすることが多い。

「ぴぃちゃん、喉乾いてない?眠くなったりしてない?」
「んー今のところ、大丈夫だけど…ガム貰おうかな」
「うん、わかった」

C.FIRSTを乗せるときは『助手席=百々人』と、早々に固定された。
そこを争うほど子供っぽくもなく…
そもそも、秀と鋭心は特に助手席に乗りたい、という希望やこだわりはないのだろう、と思う。
…たぶん。


助手席に座る百々人は、あれやこれやと私の世話を焼こうとする。
「移動中は寝てていいんだよ」と伝えてみても、頑として受け入れられなかった。
むしろ目をらんらんと輝かせて、アイドルの仕事中よりもやる気に満ち溢れてるくらいである。

正直なところ、飲み物を飲んだり、ガムやアメを口に放り込むくらいは、隙を見て自分で出来るので、ゆっくりしてもらっていて全く問題ないんだけど…
百々人が甲斐甲斐しく、しかも嬉しそうに世話を焼いてくるものだから、甘んじて受け入れている。



「はい、ぴぃちゃん。あーん」

信号で止まったところで、百々人がガムを差し出してくれたので、言われるがまま「あーん」と口を開ける。
すると、ガムが2粒、そっと放り込まれた。

「ふふ、ぴぃちゃんは粒ガムは2つずつ、だよね」
「ん。そうじゃないと、食べた気しないからねー」

私の癖…というのか、行動パターンというのか…それを知って、それを生かせることが嬉しいようで、百々人は満足そうにはにかむ。
…そんなに大層なことじゃないのに、そんなに喜ばれると、なんだかこそばゆい。


再び車が動きだすと、百々人がぽつぽつと話し出した。

「僕…車の移動、好きなんだ。だって、ぴぃちゃんの隣にずっと居られるし…目を見て話せないのは、ちょっと残念だけど」

…まぁ、そうだろうなと薄々感じてはいたので、本人から聞いても「でしょうね」という感じだ。
そんな返しは、もちろんしないけれど。

百々人は、やや……だいぶ…いや、かなり…?
私への感情が…なんというか。うん。
それでも、C.FIRSTの活動を通して、だいぶユニットメンバーにも心を開くようになってきた気はする。
百々人の世界が、もっと広がっていくといいんだけど…

「…でも、ぴぃちゃんにばっかり負担かけるのは嫌だから…僕も、早く免許取るね。この間調べたら、17歳でも仮免の試験までに18歳になっていればいいんだって。だから、もうすぐ取れるようになるよ。そうしたら、ぴぃちゃんも移動中ゆっくりできるよね」
「…それであれば、俺も取るか」

そこで、今まで黙っていた鋭心が口を開いた。
続けて、秀も話し始めた。
静かだから後ろの2人は寝てるかと思っていたけど、2人ともしっかり起きてたらしい。

「そういえば、鋭心先輩って水上オートバイの免許は持ってるんですよね?車の免許より先に持ってるって、かなりレアじゃないですか?」
「普通車の免許は18歳以上だが、水上オートバイの免許は16歳以上で取れるからな」
「え、じゃあ今の俺でも取れるってことか…まあ、そもそも乗る機会がないけど」

後部座席では、免許から水上オートバイへ、話が膨らんでいく。
これがHigh×Jokerの某問題児たちであれば、まずは卒業ね…という話になるところだが。
C.FIRSTの3人なら、学業もアイドルの仕事もこなしつつ、さくっと普通車の免許も取ってしまいそうだ。

「ふふ。みんなで交代しながらドライブするのも、楽しそうだねー」

そう遠くなさそうな未来に想いを馳せ、百々人は楽しそうに笑った。

「…でも。なまえぴぃちゃんの隣は、いつだって僕でいさせてね」

内緒話のように声を潜めながら。
…熱い視線が、私の横顔を、射抜いた。




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