――ここ最近ずっと機嫌がよかった理由、そして今朝「今日は楽しみにしててね!」と不敵に笑っていた理由はこれか…!
と、クラクラする頭を抱えながら、誠司は楽し気に歌う、恋人の姿を見つめた――
今日は、誠司にとってとても思い入れのある、音楽番組の収録だった。
自分たちの出番を無事に終え、息も整った頃…
「最後は――シンガーソングライターのみょうじなまえさん。今回の新曲は、ラブソングだそうですね」
「はい!これから歌わせていただく曲は、年上の男性との恋に悩む女の子を主人公にしたドラマの主題歌ということで…恋をするのって、悩むことも多いけれど、素敵なことで、幸せなことって想いを詰め込みました!」
「なるほどー先ほどリハーサルで聞かせていただいて、歌詞の内容が具体的だなと感じたんですが…もしかして、実体験ですか?」
「うーん、私の実体験というより…ドラマの台本を見せていただいて書き下ろしたので、ドラマとリンクしている部分が多いと思います」
そんなやりとりを、司会と進めていくなまえ。
出番の終わったFRAMEとプロデューサーは、その様子を離れたところから見ていた。
なまえはアイドルではなくシンガーソングライター、しかも他の事務所所属している。
だが、誠司と付き合っていることを知っている英雄、龍、プロデューサーの3人にとっても、なまえは身内のようなものだった。
ふと、思い出したように笑う英雄に気付いた龍が口を開いた。
「思い出し笑いですか、英雄さん」
「まあな。この番組となまえちゃんの組み合わせはなぁ…色々思い出しちまうぜ」
「あの時はすごかったですねえー…」
うんうん、と英雄たち3人は頷きあう。
その空気にいたたまれなくなって、信玄は「はは」と笑って頬をかいた。
――FRAMEが最初にこの音楽番組に出演した際に共演したのが、なまえだった。
なまえは現役女子大生シンガーソングライターとして既に人気を博していたのだが、気取ることなく、緊張していたFRAMEにも気さくに接してくれたのだった。
そしてその時、ちょっとしたトラブルに見舞われたなまえを誠司が助けたことで、なまえは誠司に一気に恋に落ち…
「私の運命の人!!」と、若さゆえのバイタリティで猛烈にアタックされた結果、誠司はなまえと付き合うことになったのだった。
成り行き上、両事務所公認でもある。
当時のなまえの勢いは凄まじく…誠司はもちろん、英雄や龍、プロデューサーも巻き込まれ、なまえのマネージャーに謝り倒されたりもしたが、今ではすっかり笑い話になっている。
そんな思い出話をしている間に、なまえが歌う番がやってきていた。
スタンバイしたなまえが、ふう、と息を整える。
それを、4人は微笑ましく見つめていた。
「それでは歌っていただきましょう、みょうじなまえさんで――『Vesper』」
そう司会が曲紹介を行うと、可愛らしくギターを奏でながら、幸せそうに歌うなまえ。
その唇と指からは、甘い恋の歌が紡がれていく。
――しかし、問題が、ひとつ。
「…この歌…」
「……どう聞いても」
「………信玄さんのこと、ですねえ…」
「〜〜〜〜〜っっ!!」
信玄は耳や首まで真っ赤にして、顔を覆って小さくなっていた。
対照的に、なまえはまっすぐ前を向いてキラキラと、ギターをかき鳴らし、歌いあげていく。
『大きな手』『優しい眼差し』『頼もしい背中』『私を包み込んでくれる温かい声』『たまに見せる少年みたいな表情』
…それらが全部、大好きだ、と。
年上の男性との恋を描くドラマの主題歌なので、特に違和感はない…ものの。
事情を知っている人間には、先ほどの司会者からの「歌詞の内容は実体験か?」という質問に対するなまえの答えが、完全にしらばっくれて答えたものだとわかる。
どこを切り取っても、とても甘いラブソング。
それを聞く誠司本人はもちろん…なまえとの交際のことを知っている英雄、龍、そしてプロデューサーの面々は、むずがゆい気持ちで、歌うなまえを見ていた。
「いや、まぁほら、俺たちは知ってるから気付くのであって…何も知らなければ、信玄のことだとは思わねえって」
「そうですよ!」
「…とりあえず、今日の番組が、歌ってる人だけを映す番組でよかったです」
「俺たちの番も終わってますしね。なまえちゃんが最後でよかったです…」
と、すっかり茹ダコと化している誠司を尻目に、龍がプロデューサーに同意した。
プロデューサーは、遠くの方で、ペコペコとこちらに向かって頭を下げているなまえのマネージャーに気付き…苦笑しながら、会釈を返したのだった。
「そういえば、曲名ってどういう意味なんでしょうね?」
「曲名は…『Vesper』だったな」
「カクテルの名前なんかにも使われていますが…おそらく歌詞の内容的にも『宵の明星』という意味で使っているんじゃないでしょうか」
とプロデューサーが返すと、英雄と龍は考え込んだ。
「宵の明星…」
「宵…って日が暮れてしばらくの間のことだよな」
「…あ、ああー!」
龍が閃いたように、声を上げる。
「どうした、何か思い当たることでもあったか?」
「……誠司さんの、瞳の色ってことじゃ…ないですかね…?」
「!!!」
いつだったか、インタビューで『お三方の瞳の色は1日の空の色なんですね』と言われたことを思い出し、答えを導き出した龍。
それを誠司も思い出し…ボン!!!と音がするのでは?というくらい一瞬で、さらに赤くなっていく。
「な、なるほどー…」
「…愛されてるなぁ、信玄」
「こういう時はええと…『ごちそうさまです』が正しいんですかね?」
「も、もう勘弁してくれー…」
なまえは歌い終わると、満足げに「ありがとうございました!」と頭を下げ――
「この曲を今日、この番組で歌わせてもらえて、とっても幸せです」と笑った。
そして誠司が見ていたことに気付くと、確信犯のようにいたずらっぽく小さく笑い…
誠司は膝から崩れ落ちたのだった。