新しい扉を開けて!



「それじゃ、作戦会議をはじめまーす!」
と宣言した私に
「おう」
「おー!」
と返事してくれたのは、315プロダクションに所属するアイドルである、天ヶ瀬冬馬くんと秋山隼人くん。
『POPLINKS FESTIVAL』プロジェクトで一緒にユニットを組んでいる2人だ。

最初は、よその事務所、しかも男子2人と一緒…!?なんて不安になったけれど、2人とも同い年で、何より2人ともめちゃくちゃイジり甲斐が……じゃなくて。
めちゃくちゃいい人たちなので、すっかり仲良くなって、今ではため口&お互い呼び捨てで呼びあうくらい、楽しく活動させてもらっている。


今日は、先週プロデューサーさんから聞いた企画について相談するために3人でカラオケにやってきた。
今度開催される、他ユニットとの合同イベントの中で「自分たち以外の事務所の曲を歌う」という企画をやるんだそうだ。

そこで私たちは、765さんの曲から選ぶということになった。
プロデューサーさんからリストを渡されて「この中から、3人で歌いたい曲を選んでね」と言われたので、それを決めるのが今日の目的である!


「LINKで相談してた通り、3曲まで候補絞ってきたよ」
「俺も。かなり悩んだけどな…」
「よし、それじゃこの紙にそれぞれ書いて、せーので発表しよ!この紙とペン、自由に使ってね」

ちなみにこれは事務所から持ってきた、情報漏洩の心配のない裏紙なので、エコなのです。
使った後もちゃんと持って帰って、シュレッダーかけて捨てますとも!

「サンキュ、準備いいな」
「ありがとう、なまえ!」

それぞれ紙とペンを渡すと、2人は早速さらさらと書き始めた。
私もぱぱっと書いちゃお!フフフ。

「書き終わったか?」
「うん、バッチリ!」
「おっけー!じゃあせーので見せよ!…せーの!!」

どん!!
…と、私が紙を見せると。

「ってお前、プロデューサーからもらったリスト丸無視してんじゃねーか!!『POPLINKS FESTIVAL』プロジェクトの対象曲だけって話だったろ!」

予想通りのツッコミが冬馬から入った。
私は『オーバーマスター』『自転車』『待ち受けプリンス』って書きました☆

「だってー!!冬馬が『オーバーマスター』歌ったら、エモエモのエモじゃん!まぁどっちかって言うと、私たちとよりも、Jupiterとして歌ってほしいけどさぁ…それでねそれでね!」

ぐりん!と勢いよく隼人に向き直ると、若干仰け反られた…が、気にしませんとも!

「隼人にはねー!めっちゃ『自転車』が合うと思ってて!!」
「え、ええっ?」
「あの爽やかな感じがさぁ!」
「おい、なまえ、脱線してんじゃねーっつーの!!」

ちぇっ。なまえちゃんのお茶目なのにぃ。
これが無理なことはわかっているけどさ〜
私が聞きたいの!

「えぇ〜…しょうがないなー。リストの中だと『きゅんっ!ヴァンパイアガール』が一番歌いたいです」
「一番ねえだろ!?」
「なんでよー!可愛い2人をファンも見たいよ!!」
「そ、そうかなぁ…?」
「…一応聞いとくけど。あと2曲は?」
「『ふるふるフューチャー☆』と『Do-Dai』だよ!」
「お前なぁ…」
「あ…はは、自分たちじゃなければ、面白そう…かなー」

呆れる冬馬。フォローらしき言葉を返してくれる隼人。
この反応も予想の範疇だけどさー!
せっかくやるなら、面白いことやりたいじゃん!

「女装してよ!」
「はぁっ!?」
「えぇっ!?」
「そしたら歌詞に違和感なくなるし!インパクトも充分で、どのユニットよりも目立てるっしょ!」
「いやいやいや、そういう方向のはいらねぇから!」
「プロデューサーも、あくまで1コーナーだから…って言ってたよね。曲も1コーラスだし」
「ぜってーなまえの言い出しそうなことをわかってて言ってたよな」
「はは、そうかも」
「ぐぬぬ〜〜〜」

そうなんだけどぉ。わかってたけどぉ!

…私はいったん、ふう、と息を吐いて切り替えることにした。

とは言え、私は諦めてない。
やれるなら衣装まで本気で、かつフル尺でやりたいし、1曲じゃ勿体ないし…
企画書作って、プロデューサーさんに渡してみようかな!
そのためにも、今回の企画は成功させなきゃね…!!


「……じゃあ諦めるから、代わりに今度一緒にカラオケいったら今挙げた曲を歌ってくれる?今でもいいけど」
「そう言われても…今すぐには歌えねーよ」
「俺も…サビだけなら歌えるかもしれないけど。今度でよければ、覚えてくるよ」
「やったー隼人大好き!!」
「えっ、わっ!」
「ねえ冬馬は〜〜?」
「あのなー………はぁ。カラオケでだけだぞ」
「やったー冬馬も大好き!!私にもなんかリクエストあったら言って!!」
「へーへー」

冬馬に流されてしまった。
ちぇ〜、最初は真っ赤になってたのにな〜〜慣れちゃったよ。
隼人はまだちょっと狼狽えてくれるのに。
いいもんね、言質はとったから!
…カラオケだけで諦める私じゃございませんけどね!



――と、脱線しまくっちゃった、というかさせまくっちゃったけど。

そのあとは真面目に話し合って、試しに歌ってみたり、歌割りもしてみたりして…無事歌いたい曲を決めることができた。
面白いことをやる代わりに、クオリティをあげてみんなをあっと驚かそう!ということになったので、プロデューサーに曲のことと、レッスン入れてもらうお願いを送り、この日は解散となった。


それからライブまで、自分たちの持ち歌はもちろん、カバー曲もクオリティをあげるために3人でたっくさん練習した!
…普段ここまでダンサブルな曲を歌って踊ることはないから、私も隼人もひーひー言いながらだったけど。
冬馬もちょっと苦戦してたし。

1回きりしかないパフォーマンスだからこそ、ファンのことも、その場にいる他のアイドルのことも、びっくりさせたい!という気持ちで、3人で頑張りきった。





そして、あっという間にライブ当日、カバーコーナーがやってきて――


ステージの下からせり上がる演出だから、私たちは3人で小さくなって台に乗る。
ここからは大きな声は出せないから…暗い中、2人と目を合わせると、小さな声で冬馬が「やってやろうぜ!」と言った。
私と隼人が頷くと…私たちの番だという合図が、イヤモニから聞こえてきた。

私のセリフから入るから、集中しなきゃ。
うううう、心臓がバクバクいってるよー…!!

次は誰が、何を歌うのか、とファンの人たちが期待して待っているのが、ここに居ても伝わってくる。

前奏が始まると同時にファンの歓声が上がって、せりも上がって――

『あなたの遺伝子が呼んでる…』

そうセリフを言うと、ファンのみんながわぁぁぁっと再度歓声をあげてくれた。

そう、私たちが選んだのは『Next Life』だ。

ステージはまだ暗いけど、セリフと同時に登場した私たちのシルエットに気付いてくれたみたいで、ざわめきが聞こえてくる。

でもここでほっとしてる場合じゃなくて。
テンポの速い、難しいダンスが続くんだから!
会場の反応に思わず口元が緩みそうになるけど、表情もキリっとしたまま崩さないように気を付けないと!
もちろん、響ちゃんへのリスペクトも忘れずに…!



…そうして夢中でパフォーマンスしていると、あっと言う間に曲が終わってしまった。
正直、あんまり記憶がない…けど、1コーラスでヘロヘロだ。
これをソロでやっている響ちゃんは、本当にすごいなぁ…!

歌い終わって、ふっと気を抜くと、2人も同じ様子で…思わず笑いあってしまった。
このままこの選曲について語りたいところだけど…その時間はないので、3人でファンに手を振りながら、ステージを去った。


息を切らしながらステージを降りると、響ちゃんが「自分の曲を歌ってくれてありがとう!すっごくよかったぞー!」と褒めてくれた。
本人に褒めて貰えて、3人で少し照れちゃったけど…
チャレンジしてよかったー!!


――さて!!
このライブが終わったからには、私の野望を果たさねば!!
まずは、冬馬と隼人とカラオケだ〜〜〜!!
企画書も仕上げるぞ〜〜〜!!!




Main TOPへ

サイトTOPへ