セイレーンちゃんの理由



『理由あり』なアイドルが多く所属する事務所、315プロダクション。
ここが私の職場。
私はアイドルじゃないけど、『理由あり』の1人だ。

だって私は――『セイレーンの亜人』だから。


『亜人』と言っても、私は古い伝承にあるみたいに、下半身が鳥だったり、翼を持っていたりという、見た目にわかりやすい特徴は持ってない。
見た目はいたって普通の人間だ。
私の『セイレーン』としての特徴は、全て、私の歌う『歌』にあった。

昔から『セイレーン』は、船乗りたちを歌で惑わすと言われてきた『亜人』だ。
人を惑わす『歌』。
…私の『歌』を聞いた人はみんな、その『歌』に夢中になりすぎて、他のことを一切放棄してしまう。
その力こそが、私が『セイレーンの亜人』である由縁。
そしてそれは、生歌でなくても効力を発揮してしまう…
歌うことが何より好きな私にとって、これは『呪い』だった。

たとえば、私の『歌』がラジオで流れたら、それを運転中に聴いてたドライバーは、一斉に運転することを放棄してしまう。
そうしたらどうなるかなんて…考えたくもない。

私はこの能力を自覚する前からずっと、ううん、自覚してからもアイドルに憧れてた。
歌い、踊り、人々を魅了する、キラキラと輝く人たち。
…私の『歌』は、人を夢中にさせることはできるけれど…
人を間接的に殺しかねない『歌』を歌う人間が、アイドルになれるわけがなかった。

どんなに歌うことが好きで、踊ることが好きでも、私はアイドルになることができない。
その事実は、子供の頃の私を打ちのめすには十分な『呪い』だった。
でもその絶望から私を救ったのは、やっぱりアイドルだった。

私は人前で歌うことを一切やめたけれど、それでも『歌』は好きだから、ヒトカラに行って発散するようになった。
そしてアイドルという存在が好きだから、自分がなることはダメでも、そのサポートができればと思って、私は315プロダクションにいる。

…あとたまに、防音室やレッスン室で、思いっきり歌わせてもらうために。




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