あなたが幸せでありますように



※失恋モノ注意






監督から「結婚することになった」と聞かされて、どのくらい経っただろう。
その日から、何故かいつもの調子が出なくて、普段はしないようなミスを連発して…
そんな俺を見かねたのか、ある日悠介が、珍しく真面目な顔をして切り出した。

「享介、どっか調子悪いのか?」
「え…ああ、ごめん、最近、ミス多いよな。今日のフォローも助かったよ、サンキュ」
「それはいいんだけど…」
「別に体調はなんともないよ」
「…享介が調子悪いの、監督が結婚する、って言ってからだよな」
「……」

思わず言葉に詰まる。
悠介にはバレバレか…
…考えてみたら、悠介はなんでいつも通りなんだ…?

「あのさ、オレも色々考えたんだけど…オレの『好き』は享介とは違う『好き』なんだ、って思うんだ」
「…え?」
「オレの『好き』は、監督がねーちゃんだったらよかったのに、とか…そういう『好き』なんだよ。だけど、享介の『好き』は、恋人になりたいとかそういう『好き』じゃないか?」
「俺、は…」
「オレ、監督の結婚の話聞いて…最初は“監督がとられちゃう!”なんて思ったけどさ。仕事は今まで通りに続けるって聞いて安心して、素直に祝えるようになったんだ。だけど享介は、そうじゃないだろ?」
「っ…」

悠介と俺の『好き』が違う?
考えたこともなかった。
監督にプロデュースしてもらうようになってから、家では監督の話ばかりしていたのは、悠介じゃなかったか?
監督に誕生日を、それぞれ祝ってもらって喜んでいたのは、悠介じゃなかったのか?

「だからさ、その気持ちは享介だけのものだよ」
「俺だけの…」
「けどさ、しんどかったら、吐き出せよな。なんたって二人きりの兄弟なんだからさ!」

そう言われて初めて、モヤモヤとしていたものが形になって…ぽろぽろと溢れてきた。

出会ってすぐから、ずっと俺たちを間違えなくて、びっくりしたこと。
ライブ前に衣裳にアレンジを加えた時に褒めてくれて、ほんとは嬉しくて照れてたこと。
俺たちにぴったりな仕事をとってきてくれて、嬉しかったこと。
俺たちがやりたいって言ったことを、受け入れて、実現させてくれて、いつも感謝していること。
ライブや舞台の幕が降りて戻った時に「お疲れ様!」と言って迎えてくれる監督の笑顔が、大好きなこと…

思いつくままに話していたけれど、それを最後まで悠介は聞いてくれた。
そして口に出すことで、俺は自分の気持ちを整理することができた。

「そっか…俺、こんなに監督のこと、好きだったんだな」
「最近の不調の原因もわかったろ?」
「ああ…」

自覚したところで、失恋は決定してるけれど。
そっかー…俺は監督がこんなに好きだったんだな。

「すっげーすっきりしたよ…ありがとう、悠介」
「どーいたしまして。明日からは、仕事ミスるなよ?」
「うん…頑張るよ」



そして、あっという間に時は過ぎて、今日は監督の結婚式当日だ。

式の前に、少しだけ会えるといわれて、ウェディングドレス姿の監督に挨拶をしにいった。
あんな風に着飾った監督を見るのは初めてで…色々な想いが溢れそうだったけど、ギリギリのところで抑え込んでなんとか「おめでとう」と言えた。
監督は、少し間をおき、はにかんで…「ありがとう」と微笑んでくれた。
女の子アイドルともたくさん共演をしたけど、あんなに綺麗な笑顔は初めて見た。
そのくらい、今日の監督はキラキラしていた。

そして式がはじまり、監督たちが入場してきて…拍手の絶えない会場で、悠介に小声で話しかけた。

「俺、さっきうまく笑えてたかな?」
「んー…ちょっと怪しいかも。監督、オレたちの変化に、ビンカンじゃん?」
「確かに…」

俺の演技力もまだまだだな、と苦笑いする。
その上を行く監督がすごいのかもしれないけれど。

「泣くなよ?今日は笑顔で祝福するんだろ」
「大丈夫、わかってる」

さっき抑え切れたんだ。きっといける。
でも少し吐き出したくて…ぽつりと悠介に返す。

「俺はずっとさ…監督の隣には俺たちが居て…あんな風に監督の隣に並ぶのは、俺たち2人のどっちかだ、なんて思ってた…けど、やっぱり俺たちは、まだまだ子供だったんだな」

俺たちは監督には支えてもらってばっかりだけど…
監督を支えることができる人が他にいて、その人が監督の隣に立ってる。
幸せそうに微笑みあう2人を、今は素直に受け入れられた。

「そうだな…ほら、でもさ、双子で同じ人をとりあうなんてことにならなくて、よかったじゃん?」
「それはそうかもね」

もしかしたらあったかもしれない未来を想像して、苦笑を返す。
実際にそんな場面が来たら、どうしてたんだろうな。

「…あの人なら、監督のこと、任せられるよ」
「そうだね…悔しいけど」
「監督がオレたちの監督であることに変わりはないんだから」
「…うん」
「……監督、キレーだな」
「うん…すっごく、綺麗だ」

俺の恋は散ってしまったけれど…
どうか、俺たちの監督が、幸せでありますように――




Main TOPへ

サイトTOPへ