故郷へ錦を飾りましょう



久しぶりに、田舎のお母さんに電話をした。
お互いの近況を話していると、老人ホームにいるおばあちゃんの話になった。

「おばあちゃんにあんたの仕事の話したら、施設の方も混ざって盛り上がっちゃってねえ、慰問に来てくれないかしらーって」
「なに勝手に話してるの…!」
「いいじゃないのーおばあちゃんの自慢の孫なんだから」

…それを言われると弱い。
その後も色々話したけれど、電話を切る前に再度「慰問、よろしくね」と念押しをされたので、軽く引き受けてしまったのであろうことが伺える。
私だけの都合でどうにかなることならともかく…!
どうしよう。
そりゃあ、おばあちゃん子の私としては受けたいし、仕事の選り好みをするつもりはないけれど…
今回のはどう考えても、私情を挟みすぎだよ…


翌日事務所で仕事をしている間も、悩んで机で唸っていると、私の担当アイドルである、キリオくんがやってきた。

「プロデューサークン、何かお悩みでにゃんすか?」
「うーん、そうなんだよねぇ…」

…迷っててもしょうがない。直接相談しちゃえ。
「実はね…」
かくかくしかじか。
私が事情を説明すると、キリオくんは「事情はあいわかった、でにゃんす!」と頷いた。

「ワガハイはのーぷろぶれむでにゃんすよ!ちょうちょさんもくろークンも、嫌がるようなお人ではないでにゃんす」
「うん、それはそうだと思うんだけど…いくらなんでも、私情挟みすぎかなって」
「そんなことないでにゃんす!おばあさん孝行、大いに結構!でにゃんすよ」

――そうキリオくんから言われて、覚悟が決まり。
華村さんと九郎くんにも相談すると、
「もちろんいいわよォ。プロデューサーちゃんのおばあさまにも、ぜひご挨拶したいわ」
「精一杯のおもてなしをさせていただきます」
と、快く受けてくれて、とんとん拍子に話は決まっていった。

***

そして、ついに当日がやってきた。
私が何かを披露するわけではないのに、妙に緊張する…

必要な機材は送ってあるから、私たちは電車と車で移動だ。
電車のボックス席に乗っていると、隣に座っていたキリオくんが、おやつを頬張りながら話しかけてきた。

「プロデューサークンのおばあさんは、どんなお人でにゃんすか?」

その言葉に華村さんも九郎くんも興味がある、と視線を向けてきた。

「おばあちゃんは…おっとりしてるけど、芯は強い人、って感じかな?悪いことをしたら、叱るんじゃなくた、どうしてそれがダメなのか、こんこんと諭される、みたいな。」
「いいおばあ様ですね」

九郎くんの相槌を受け、おばあちゃんとの日々を思い出しながら、私は続けた。

「うち、両親が共働きだったから、ずっとおばあちゃんに面倒見てもらってて。おふくろの味、ってよく言うけど、私はお母さんのご飯よりおばあちゃんのご飯の方が馴染み深かったり…とにかくおばあちゃん子で育ったの」
「プロデューサーちゃんの根っこを作ったのは、きっとそのおばあさまなのね」

華村さんが優しく笑ってくれる。
…ちょっと照れるなぁ。

「2年くらい前に、足を悪くして、家族の負担にはならない、って自分で老人ホーム探して決めて、あっという間に入っちゃったの。足は悪いけど、まだまだ元気だよ」

…なんて話をしていたら、あっという間に地元の駅に着いていた。
ここからは車移動。何回か会いに行っているから、場所はばっちりだ。

「到着です」
「おしゃれなところだねェ」
「おばあちゃん、ここのご飯と、外観が気に入ったらしいんです」
「手入れの行き届いた花壇ですし、きっと四季折々の顔を持っているんでしょうね」
「きゅぴぴーん!何かが来そうな予感がするでにゃんすー!!」

それから、施設の方にご挨拶をして、会場の準備をはじめた。
話を決めたお母さんは、自分の仕事で来れないらしい。
きっと居たら彩のみんなにあれこれ吹き込んでいただろうから、正直安心した。
おばあちゃんには、会が終わった後に顔を見せるつもりだ。


そして、慰問の会がはじまった。
まず華村さんの特技の和太鼓演奏で盛り上がり、次にキリオくんの小噺で大いに笑い、最後に九郎くんのお茶でゆったりとおもてなし、という彩の魅力をいかんなく発揮した慰問は、大盛況のうちに終わった。

「久しぶりに血が沸いたわい!」
「こんなべっぴんさんに会えるなんて、長生きはするもんだねぇ」
と、華村さんを拝む人。

「こんなに笑ったのは久しぶりですよぉ」
「やっぱり生の落語はいいもんだ。ワシも昔はのぉ…」
と、キリオくんに昔話をし出す人。

「アンタのお茶で、あと50年は生きられそうだよ」
「本当にありがとうねぇ」
と、九郎くんの頭を撫でる人。

それぞれ、みんな幸せそうに笑ってくれていて、この仕事を受けてよかった、と思えた。
…これは、彩のみんなには内緒だけど…
芸能界で仕事をする、という話をした時に、誰より心配してくれたのがおばあちゃんだったから。
この会を見て、そんな心配杞憂だった、って思ってくれたらいいんだけど。

「なまえちゃん!」
「おばあちゃん!」

そんなことを考えていたら、おばあちゃんが目の前にいた。
久しぶりに会うおばあちゃん。それだけでちょっと泣きそうだ。危ない。

「にゃにゃ!そちらのお方が、プロデューサークンのおばあさんぞなもし?」

おばあちゃんと話していると、彩のみんなが集まってきていた。
いけない、仕事中だってば…!ちゃんとしなきゃ!

「改めて、紹介するね。私がプロデュースしているアイドルの、“彩”のみなさんです。華村翔真さん、清澄九郎くん、そして猫柳キリオくん。それで、こちらが私のおばあちゃんです」

そう両者に紹介をする。家族を紹介するのは、なんだかとっても気恥ずかしい。

「お初にお目にかかります、おばあさま」
「はじめましてでござ!」
「はじめまして、プロデューサーさんには、いつもお世話になっております」
「あらあら、ご丁寧にありがとう。こちらこそ、いつもなまえちゃんがお世話になってます」

ふふ、と笑うおばあちゃん。
そして「なまえちゃんはしっかりお仕事できているかしら?」とはじまり…学校の三者面談とか、そういう感じの、本人はひじょーーーにいたたまれない会話が交わされる。
…なんて思っていたら。

「それで…どの方がなまえちゃんの“いい人”かしら?」
「ちょっ…!違うってば!」

いきなりの爆弾がきた。九郎くんなんか、目が点になってるよ!

「まぁそう照れないの」
「ちーがーいーまーすー!!」

それなのに、キリオくんと華村さんは悪乗りをしてきた!

「プロデューサークン、ワガハイとは遊びだったでにゃんすか…!」
「アタシたちは弄ばれてたんだね…」
「ちょっと!キリオくんも華村さんも、乗っかるのやめてー!九郎君は乗っかろうとしなくていいからね!?」

ヨヨヨ、と泣き真似までするキリオくんと顔を伏せる華村さん。
乗り遅れた!といわんばかりの九郎くんにくぎを刺すと、はっと動きを止める。
そういうのは反応してくれなくて大丈夫だから…!

そんなやりとりを見ていたおばあちゃんは、とても楽しそうだ。
うぅぅ、こんなところで孫をからかわないでほしい…

「…しばらく顔を見れなかったから、心配だったけれど…こんな素敵な方たちとお仕事できているなら、心配はいらないわね」
「おばあちゃん…」
「しっかりして見えるかもしれないけど、案外繊細な子だから、気遣ってもらえると嬉しいわ。これからも、なまえをよろしくお願いします」

そう言って、おばあちゃんは彩の3人に頭を下げた。
…やば、泣きそう。

「…“案外”は余計だよー…」

なんて悪態をついて誤魔化すと、華村さんに頭を撫でられ、九郎くんに微笑みかけられた。
もう、泣かせようとしないでってばー…

「プロデューサークンのことは、ワガハイたちにばっちりおまかせあ〜れ〜でにゃんす♪」

しんみりとした場を、キリオくんが持ち上げてくれたおかげで、私はなんとか涙をこらえきった。

***

そしておばあちゃんたちに挨拶をして、駅まで戻ってきた。
ここからまた電車移動だ…と思って時計を見て顔を上げたら、華村さんが覗き込んできた。

「プロデューサーちゃん、ほんとにこのまま帰っちまうのかい?」
「だって、明日も仕事がありますし」
「けれど、ご両親にご挨拶をされた方が…」
「気持ちはありがたいんだけど、2人ともバリバリ仕事してるんで、スケジュール合わせにくくて」
「ワガハイたちがぎゅわわーんと活躍すれば、それを通じてプロデューサークンのご家族も、ぽわわわ〜んと安心してくれるのでは?」
「あは、そうだね。ほんと、電話とかメールはしてますし、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

そこまでいうと、渋々と言う感じではあったけど、納得してくれた。
それと…慌ただしく戻ってきちゃったけど、今日のこと、今の気持ちを伝えなくっちゃ。

「あの…今日の仕事、すごく私の公私混同な感じだったのに、引き受けてくださってありがとうございました。みんな笑顔になってくれて…彩のプロデューサーであることが、とっても誇らしくなりました。改めて…ふつつか者のプロデューサーではありますが、どうぞこれからもよろしくお願いします」

最後の方、照れて早口になっちゃったかも。
改めて言うと、こそばゆくて、顔が熱い。けど、これは絶対伝えたかった。
3人は一瞬きょとんとした顔で私を見つめた後、華村さんとキリオくんは私に抱き着き、九郎くんは嬉しそうに笑ってくれた。

「わわっ!」
「アンタ、すっごくいい顔してるわよォ!」
「今日のお仕事も、とっても面白かったでにゃんすよ♪」
「こちらこそ、今後もよろしくお願いいたします、プロデューサーさん」
「わー!他の人が見てますから、この辺で…!!」


もみくちゃにされた私がようやく解放されると、3人はお土産を買いに行った。
私も事務所に買って行かないと…数がたくさん必要だから、やっぱりお菓子系だよね。
そう思ってお店をみていると、キリオくんが熱心にお土産を吟味していた。

「おや、プロデューサークン、ちょうどいいところに。オススメのお土産を教えてほしいでにゃんす!」
「オススメ?えーっとねー甘いのだと…」

そんなやりとりをしているうちに、キリオくんの持つカゴの中は、あっという間にいっぱいになっていた。
私もお菓子を抱えて、レジに並ぶ。

「ねーキリオくん。今日の仕事がうまく行ったのは、最初にキリオくんが背中押してくれたおかげだよ。あと、最後まで泣かずに済んだのも。ありがとね」
「にゃはは!猫の恩返し、大成功でにゃんすね!ところで、ワガハイもプロデューサークンの“いい人”が気になるでにゃんす」
「えっ、そこ掘り返すの!?」
「ほんとにいないでにゃんす?」
「ほんとだよ!私にそんな人いるように見える!?」
「ワガハイ、色恋沙汰には、とんとご縁がないでにゃんすから」

しれっと言うキリオくん。んもー私で遊んでるね!?

「キリオくんこそ、そういう人いないの?」
「はてさて、どうでにゃんしょ〜?」
「…今さっき、とんとご縁がないって言ったクセに」
「にゃはは〜!でも一番仲のいい女の人は、確実にプロデューサークンでにゃんすよ」
「へ?そうなの?」
「プロデューサークン、ワガハイに恋を教えてくれるでにゃんす?」

わざとらしく、艶っぽい表情をしてくるけど…いやー。まだまだ修行が足りないね。
それじゃあ恋愛ドラマには出れないよ。なんてね。

「私にも教えられるほどの経験値はないなぁ」
「つれないでにゃんす〜〜ワガハイ、歌って踊れて、小噺も家事も出来る、すぺしゃる物件でにゃんすよー?一家に一台!猫柳亭きりのじ!でにゃんす!」
「あはは。なにそれ…ってほら、キリオくんの番だよ」

レジが空いたので、列の一番前になっていたキリオくんを促す。
そしてほどなくして、私の番もまわってきた。

それから華村さん、九郎くんとも合流して、私たちは帰路についた。
バタバタとはしていたけど、おばあちゃんにも会えて、仕事っぷりを見てもらうことができて、ほんと今日の仕事はサイコーだったなー!

…ここで、次会うときには“いい人”を見つけてくるからね、と思えればいいんだけど、そんな気配全くないし。
今までそんな会話をしたことがなかったから、さっきのキリオくんの言葉には少しドキっとしたけれど…

……おばあちゃんには、気長に待ってもらおう。
まずは彩のみんなと、目指せ!トップアイドル!ってね!!




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