理想の身長差



とある昼下がり。
事務所にはプロデューサーと事務員の2人きり。
珍しくゆったりとした空気が流れておりました。

「ねぇねぇ、賢くんって身長何センチ?」
「え?176センチですけど…」
「ふむ」

アイドルたちが出ている雑誌をチェックしていたプロデューサーが、事務員である山村賢に、唐突に身長を尋ねました。
この程度の雑談は日常茶飯事なので、山村も手を止めることなく返事をします。
すると、プロデューサーは山村からの返事に、何やらペンを走らせました。

「賢くんだと164、161、154、144か」
「いったいなんの話なんですか?」
「ん?いやーこれがちょっと目に留まって」

そこまで来ると、さすがに山村も気になって、目の前の席にいるプロデューサーに向かって身を乗り出します。
その山村に、プロデューサーはある1つの記事を指差しながら雑誌を手渡しました。
その記事には『彼との身長差をチェック!理想の身長差はこれだ!』という文字が、可愛らしいフォントで書かれています。

「…ここに書いてある数字をぼくの身長から引いたのが、さっきの数字ってことですか?」
「そうそう。キスしやすいのが12センチ差だっていうから、賢くんだと164センチの相手ってことになるね。うちの事務所だと涼くんだね」
「ちょっ」
「続いて、理想のカップルの身長差っていうのが、15センチ差ってことだから、賢くんだと161センチの相手で、Wの二人がちょうど161センチだね。セックスしやすいのが22センチ差、154センチだそうだから、うちの事務所にはいなくて…最後のぎゅっとしやすい身長、っていうのが、32センチ差だそうだから、144センチ。これもいないねー」

アイドルたちの身長をすらすらと答えるプロデューサーに、山村は感心しつつも、眉をひそめました。

「…プロデューサーさんって、腐女子ってやつでしたっけ?」
「そういうんじゃないけど…身近なたとえとして実感がわきやすいかなーと思って」
「やめてくださいよ、なんか気まずいじゃないですか」
「あはは、ごめんごめん」

実際悪いとは思ってない風で、プロデューサーは謝りましたが、それ以上を求めることはせず、山村は「まったく…」と呟きながら、席に座りなおしました。

「しかし何をもってこの数字にたどり着いたんだろうね…ぎゅっとしやすい、あたりはまぁわからないでもないけど」
「さぁ…どうなんでしょうね」

作業を再開して、適当に返事を返す山村。
一方プロデューサーは、まだ記事を眺めていました。
プロデューサーの好奇心は未だおさまらないようです。

「あ、そうか、別に引くだけじゃなくて、数字を足すって選択肢もあるのか」

ひらめいた、と言わんばかりに、再びペンを走らせるプロデューサー。
自分の身長でやればいいのに…と山村はため息をつきました。

「できたー。えとねーキスしやすいのが188センチだって。うちにいないねぇ。理想のカップルは191センチだから雨彦さんだねーあはは、ウケる。あとは198と208だからさすがにいないねー玄武くんまだ身長伸びそうだから、いずれはありえるかもしれないけど」
「…そうですか」

生返事を返す山村を気にすることなく、みたびペンを走らせるプロデューサー。

「あ、私セックスしやすいの北斗くんだわ」
「ぶっっっ!!!」
「私ちょうど20代女性の平均身長なんだよね…なんというか、さすがだわ…」
「それ、アイドルのみなさんがいるところでやらないでくださいね…」

プロデューサーさんのことは尊敬しているけれど、たまに出るこういうノリにはついていけない、と思う山村。
静かな315プロの昼下がりは、こうして平和に過ぎていくのでありました。




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