夢を一歩ずつ



「では、はじめます!」

今日は彩の3人とミーティング。
ミーティングと言っても堅苦しいものではなく、最近の仕事の結果報告や、これからの仕事…雑談もかなり多めだ。
もちろん、私にとっては意味のある雑談である。
最近好きなものや興味のあること、やってみたいお仕事…などなど、雑談の中から拾える情報はたくさんあるから。
最初の頃、九郎くんに「雑談ばかりではよくないのでは」と言われてしまったことがあったけれど、翔真さんがフォローしてくれたおかげで、最近は九郎くんも雑談に積極的に参加してくれるようになった。
…さすがに、あまりに脱線すると、たしなめられるけど。

今日は…最初に仕事の結果報告から行こう。

「えーこの間のコラボ手ぬぐいですが、みなさんのオリジナルデザインが好評だそうです。キリオくんのはお子さんに、翔真さんのは女性、九郎くんのは男女問わずご年配の方に、それぞれ人気があるそうですよ」
「なるほど…」
「うまく棲み分けができてるってことね」
「セットで買って、ご家族で使っている、という方もいらっしゃるそうです」
「にゃはは、うれしいでにゃんすな〜♪」

この報告に、キリオくんと翔真さんは笑顔だけど、九郎くんは難しい顔をしてる。
「若い人たちに茶の道を広めたい」と言っている九郎くんとしては、「ご年配の方に人気があるのは嬉しいことだけれど、若い人に注目してもらうには、どうしたら…」なんて考えてるんじゃないかな。
ふふ、今日はいいお知らせがあるから、そっちでフォローするよー!

「続いて新しいお仕事ですが…まず、ユニットへの依頼案件ですが、音楽番組が1件、花火大会のゲスト出演が1件」

ほうほう、と頷く3人。
それぞれの詳細はまだもらえていないが、ざっくりと説明して心構えをしておいてもらう。
花火大会の方は、基本トークだけど、ライブも1曲、選曲はお任せ、ということだったから、後で相談しよう。衣裳も考えなきゃ。

「それと、子供向けアニメ映画のゲスト声優のオファーが来ました!」
「にゃにゃ!どんな映画でにゃんす??」

キリオくんが身を乗り出して質問してきた。
うんうん、キリオくんこういうの好きそうだもんね。

「少年と妖怪が友達になって世界を救うシリーズの、毎年恒例の夏映画だって。資料が届き次第、配ります」
「ほうほう。どんなきゃらくたぁも、ワガハイにずばばにゃーんとおまかせあれ〜♪」
「ゲスト声優ってェことは、その時限りの仲間か…はたまた、敵かしらねェ?」

翔真さんも楽しそうだ。
翔真さんなら、妖艶な妖怪が似合いそうだけど…子供向けだし、コミカルな作品らしいから、そういうキャラは出ないのかな?

「そういった作品を見たことがないのですが…ゲストが出てくるのが定番なのでしょうか?」
「えぇと…たいてい夏のアニメ映画って、それを見なくても本編に影響がない、番外編的なお話が多いのね。だから、ゲストキャラを入れて映画を盛り上げることも多くて…たとえば、敵のボスキャラを大御所の方が演じられたり、キーパーソンとか少しだけ登場する盛り上げ役とかを、今旬の芸人さんやアイドルが演じたりするの」

九郎くんの質問に、知っている限り答える。
私もそういうものを見なくなって久しいけれど…夏の映画と言ったら、オリジナルキャラは定番だよね。

「今回、ユニットへの依頼なので、3人組のキャラクターかも…まぁそもそも“人”かどうかは、わからないけど」
「ふふ、人でも妖怪でもどんと来いよ」
「ワガハイは妖怪の方がいいでにゃんす!化け猫と孫悟空はやったでにゃんすから、違う妖怪を演じてみたいでにゃんすなあ…付喪神なんて面白そうでにゃんす!」
「…お茶の妖怪がいるのなら、やってみたいですが…いるのでしょうか…?」
「文福茶釜、なんてどうでにゃんしょ?」
「アハハ、九郎ちゃんのたぬき?新境地が開拓できるかもねェ!」

想像してみて、笑いそうになる。
九郎くんも、最初の頃に比べたら、1つ1つの仕事を前向きに受けてくれる傾向が出てきた。いいことだ。

ふぅ。妖怪トークを繰り広げる3人を見ながらちょっとだけ休憩。
飲み物でのどを潤して…そろそろ次の話に移るとしよう。


「さて、続きまして、ソロのお仕事についてをお伝えします」

宣言して、まずは翔真さんへ向き直り、資料を手渡す。

「翔真さんには、百貨店の浴衣の広告モデルの依頼が来ました」
「へぇ…ありがたいね。任せといてちょうだいな!」

ぺらりと資料を捲った翔真さんは、力強く返事をしてくれた。
老舗から新進気鋭のブランドまで、色んなデザインの浴衣があるけど、翔真さんなら問題なく着こなせるはずだ。

次に…“わくわく”という文字が周りに踊って見えそうなキリオくんへ告げる。

「キリオくんには、怪談ライブへの出演オファーです!こわ〜い噺を一席お願いしたい、と」
「にょっほっほ〜!どーんと任せろでにゃんす!!ふっふっふっ、この猫柳亭きりのじが、会場を恐怖のどん底へご案内〜でにゃんす!」

キリオくんにも資料を渡したが、それよりもどんな噺にするかの思案の方が楽しいみたい。
まぁ、ああ見えてしっかり準備をしていった上で、その場の空気にあわせるタイプだから、後で読んでくれるだろう。

そしてラストは九郎くん。
今日のメインイベントと言っても過言ではない!

「そしてそして!!九郎くんにはすっごいお仕事が来たよ!」
「え?」

九郎くんに向かってニヤリと笑えば、九郎くんは訝しげに私を見る。大丈夫だよ!?

「なんと!新商品の日本茶のイメージキャラクターを九郎くんが務めることになりましたーー!!TVCMも、町で見かける広告も、九郎くんが飾るんだよ!大手さんなので、全国的にどーんと九郎くんのお茶のCMが流れまーす!」
「にゃにゃにゃんと!!おめでとうでにゃんすー!!」
「やったじゃない、九郎ちゃん!」
「…」

あれ、肝心の九郎くんの反応が薄い。
資料をぺらぺらと目の前で振ってみても、信じられない…みたいな感じで呆けている。

「ペットボトル飲料なので、ターゲットは広めだけど、若い人が中心だよ。お茶を知ってもらうのに、いいきっかけになると思うんだ!」
「……ほ、本当に私でよいのでしょうか…?」
「当たり前だよ!先方から、ぜひ九郎くんに、ってご指名もらったんだから!」

彩としての活動が、実を結んだんだよ!と笑えば、九郎くんが立ち上がり、私の目の前にやってきて思いっきり手を握られた。
わ、わ、九郎くんがすごいテンションだ…!

「ありがとうございます!精一杯、いえ、身命を賭して挑ませていただきます…!」
「え、あの、喜んでもらえるのは嬉しいけど、そんなに大げさなCMにはならないよ、たぶん」

「ふぁいとーいっぱーつ!」みたいなやつはお茶ではやらないと思うの…
そういう仕事を、さすがに九郎くんには持ってこれないし。

「九郎ちゃんは大げさだねェ。でも、気持ちはわかるよ」
「まだ撮影は先だから…肩の力を抜いておいてね?」
「はい!!」
「…全然抜けてないでにゃんす」

私と翔真さん、キリオくんの3人で笑いあったが、九郎くんはそんなこと気付いていないようで、興奮気味に目をキラキラさせている。
こんなに喜んでくれて嬉しいなぁ。頑張って売り込んだ甲斐があったよ。
…握りしめられている手が、ちょっとだけ痛いけど、その痛さがかえってこれが現実だと知らせてくれる。

「…で、九郎ちゃん。いつまでプロデューサーちゃんの手を握ってるんだい?」
「熱いでにゃんすなーひゅーひゅー♪」

九郎くんは翔真さんの指摘ではっと我に返り、自分の手を見たところで、私の強く握りしめていることにようやく気付いたようだった。
興奮のあまり、気付いてなかったらしい。
九郎くんは、耳まで真っ赤にして、慌てて私の手を離した。

「も、申し訳ありません…!」
「あはは、大丈夫だよ。そんなに喜んでくれたなら、私も嬉しいし!!」
「その…仕事の選り好みをするつもりはありませんし、そんなことをできる立場でもないと重々承知はしていますが、それでも、お茶に直接関わる仕事ができるなんて、夢のようです。本当にありがとうございます、プロデューサーさん」

今度は深々とお辞儀をされた。
本当に真摯にお仕事に取り組んで、色々なものを吸収している九郎くん。
そんな九郎くんだから、夢のお手伝いがしたくなるんだよ、と伝えれたら涙ぐまれたけど「まだ撮影もしてないんだから、その涙はとっておいて」と笑えば、苦笑してぐっとこらえていた。


***


ミーティングが終わって、華村さんと猫柳さんと別れてからも、プロデューサーさんから伺った大変光栄なお仕事に、私は期待を膨らませていました。
まだ撮影は先だと釘をさされたばかりなのに…いけませんね。
力みすぎて空回りしてしまうのが私の悪い癖なのだから、自重しなければ。

深呼吸をして落ち着くと、今度は先ほど握りしめていたプロデューサーさんの手を思い出しました。
あんな小さな手で、私たちを導いてくれている。
そのことを改めて認識しました。
プロデューサーさんへの恩義には、必ず報いらねばなりません。

CMで少しでも多くの人に、お茶の魅力を伝えられるように…全身全霊で挑みます!!


***


そして後日。
九郎の出演したCMは話題を呼び、お茶としては近年稀に見る売上を記録したらしい。
それを九郎くんに伝えたら、勢いよく抱きつかれて、さらに感激のあまり泣かれた。
…九郎くんの背を撫でて宥めながら、彩のプロデューサーでよかったな、と改めて思った。

これからも、彩の3人の魅力を伝えて、3人の夢を叶えられるように頑張るからね!!




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