君と誕生日を



※四季が高2設定です。



「えええええ!!!!プロデューサーちゃん、明日から1週間出張ってマジっすか!?」
「マジです。地方ライブのそれぞれの会場で、最終打ち合わせしてくるよ」
「そんなぁ〜…そ、それってオレも着いて行けないっすか!?」
「何言ってるの。新学期で、四季も学校忙しいでしょ?せっかく進級できたのに」

プロデューサーちゃんから呼び出されて、学校帰りにHigh×Jokerのみんなで事務所にやってきた。
そこで次の仕事の話を聞いて、最後にスケジュールを聞いて…
そしてバッサリと斬られた。
マジショックっす。メガメガショックっす。
プロデューサーちゃん、この複雑なオトコゴコロがわかってないっす…
だって、その期間内には…オレの誕生日があるのに!!


…なんて、口に出して言えるほど、オレも子供じゃなかった。
でも顔にはバッチリ出ていたみたいで、プロデューサーちゃんがいなくなった会議室でジュンっちに呆れられたっす。

「プロデューサーさんだって、遊びに行くわけじゃないんですから…」
「わかってるっす!けどぉ…!」

でもでも、誕生日に大好きなプロデューサーちゃんの顔が見れないなんて…!
去年の誕生日の時には、知り合ってすらいなかったから、今年がプロデューサーちゃんに祝ってもらえる、初めての誕生日なのに。
仕事を頑張ってるプロデューサーちゃんのことが大好きで、マジメガソンケーしてるけど、それとこれとは話が別ってやつっす…!
ショックで机に突っ伏すと、わしわしと頭を撫でられた。

「シキはホント、プロデューサーが好きだな」
「よしよし、オレたちがめいっぱい祝ってやるからな」

ううっ、ハヤトっちもハルナっちも優しい。
センパイたちに祝ってもらえるのも、もちろんうれしいっす!!

「頑張ってくれてる…プロデューサーさんの期待に、応えなきゃ、ね」

そして諭すようなナツキっちの言葉。
そうだ、ここで切り替えて、頑張らなくちゃ男じゃないっす…!

「このモヤモヤも全部ぶつけて、ライブ死ぬ気で頑張るっす!!そんでもって、プロデューサーちゃんにほめてもらうっす!!!」
「おぉーシキが燃えてる」
「俺たちも頑張ろうな!」
「もちろんです」
「…うん」


次の日、プロデューサーちゃんは、1週間の出張に旅立って行った。
1日、2日、3日、4日…
プロデューサーちゃんにスカウトされてアイドルになってから、こんなに長い期間、プロデューサーちゃんに会わない期間はなかった気がするくらい、長く感じる。
プロデューサーちゃんに会いたい。声が聴きたい。
…でも仕事の邪魔はしたくない。
少しでも連絡をとったらワガママを言ってしまいそうで、メールも電話も、何もできなかった。

なのに気付けば考えるのは、プロデューサーちゃんのことばっかり。
ライブ、頑張るって決めたのに。
いつからオレは、プロデューサーちゃんがいないとダメになっちゃったんだろう…


そして、5日目、明日がオレの誕生日。
ライブの練習では、力み過ぎだって、みんなに怒られちゃったっす。
ううっ、プロデューサーちゃんケツボーショーだよ…
夜、ハイパー落ち込みモードで、眠れなくてベッドでスマホをいじっていると、1件の通知が届いた。

「プロデューサーちゃん!?」

思わず起き上がり、慌てて画面を開くと『夜遅くにごめんね。今電話しても大丈夫?』っていうプロデューサーちゃんからのメッセージ。
『大丈夫!!!!!』と震える手で返すと、すぐにプロデューサーちゃんから電話がかかってきた。

『こんばんはー』
「こ、こんばんはっす!!!」
『ごめんね、もう寝るところだった?』
「全然起きてるっす!」
『元気?』
「全然元気じゃないっす…」
『そうみたいだねー、みんなから聞いたよー』
「ううっ、恥ずかしい…言わないで欲しかったっす…ってかみんな、普通にプロデューサーちゃんに連絡してるってことっすか!?」

ずるい、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
連絡しなかったのは、自分だ。

『別に、送ってくれてよかったのに。タイミングよるけど…文章なら後で返せるし』
「だってー…」

うう、完全に空回りっす…
しょぼくれると、電話の向こうのプロデューサーちゃんはクスクス笑っていた。

「そ、そうだ!プロデューサーちゃんのお仕事はジュンチョーっすか?」

わざとらしいほど強引に、話を変えてみる。
プロデューサーちゃんの用件はわからないけど、少しでもプロデューサーちゃんの声を聴いていたいから。

『うん、ばっちりだよ。スタッフさんたちとも細かいところまで詰め切れたし、地元のテレビ局の人にも紹介してもらったり…』
「会場はどんな感じっすか?」
『えぇと、名古屋の会場はね――』

そんな感じで、しばらくプロデューサーちゃんの話を聞いていた。
電話越しだけど、久しぶりに聞くプロデューサーちゃんの声。やっぱりメガ好きっす…

『――会場がお客さんで埋まるところが早く見たいよ』
「オレ、マジ頑張るっす!」
『うん、期待してるよ。あ…っと、もうすぐだね』
「え?」

何が、と聞き返す前にプロデューサーちゃんはカウントダウンをはじめた。

『…9、8、7、6、5、4、3、2、1。四季、誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。アイドルになってくれてありがとう…これからも、一緒に頑張って行こうね』

ぶわぁ、と何かがこみあげてくる。
あぁ、プロデューサーちゃん、このために…

『当日に直接祝えなくてごめんね。帰ったらいっぱい祝うから』
「オレ、今マジメガ、ううん、マジガチハイパーうれしいっす…!」
『ま、マジガチ…?…とにかく、すっごく、ってこと?』
「そうっす!」
『あはは、喜んでもらえたならよかった。プレゼントも気合入れて準備してあるから、期待してていいよ』

オレの言葉じゃ、この気持ちを伝えきれない。
プレゼントなんてなくったっていいっす。
こんな気持ち初めてだ。
ついさっきまで凹んでいたのがウソのように、心がふわふわする。

『さて…17歳になった伊瀬谷四季くんの目標をどーぞ?』
「目標っすか?えと…オレ、ゼッタイにトップアイドルになるよ。オレももちろん頑張るけど…プロデューサーちゃんが、こんなに頑張ってくれてるんだもん、なれないわけないっす。だから、一瞬も目を離さないで欲しいっす。まずは次のライブ、歴史に残るくらい、ゲキアツなステージにしてみせるよ!」
『おぉ。大きく出るね〜楽しみにしてるよ。あ、でもちゃんと、学校の勉強も頑張ってね?』

最後のは痛い一言っすけど、笑うプロデューサーちゃんの顔が目に浮かぶ。
さっきまで声が聴けただけでもうれしかったのに、今はもう顔が見れないことがさびしい。
オレはなんて欲張りなんだろう。

『ふわぁ…ごめん。それじゃ、そろそろ…遅くまでごめんね』

聞こえてくるプロデューサーちゃんのあくび。声も眠そうだ。
きっと、日本中を飛び回って仕事をして、疲れてるんだろう。
…切りたくないけど、プロデューサーちゃんにしっかり休んでほしいっす。

「…ううん。プロデューサーちゃんが帰ってくるの、待ってるっす!」
『ありがと、明後日…じゃなくて、もう明日か。明日には帰るから』
「残りのお仕事も頑張ってきてね!そんで、気をつけて帰ってきてほしいっす!」
『うん、任せて。じゃあ…』
「おやすみなさい、プロデューサーちゃん」
『…おやすみ、四季』

長電話ですっかり熱くなってしまったスマホを抱きしめた。
他の人たちからの通知がたくさんきてるみたいだけど、今は電話の余韻に浸らせてほしいっす。
――電話の前とは別の意味で、眠れなさそうっすけど。

「オレ、プロデューサーちゃん…なまえさんに、ふさわしいアイドルに、そんでもって男に!!!なってみせるっすー!!!」




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