※4の頃のなるほどくんです。
「こんばんは〜!」
月も顔を出した、ある夜の日。
成歩堂事務所に、この時間には不釣合いな明るい声が響いた。
来訪者に気づいた事務所の主は、挨拶を返す。
「やぁ、なまえちゃん。こんな遅くにどうしたの?」
「今まで仕事だったのー…で、ご飯食べ損ねちゃったから、なるほどくんたちもまだだったら一緒にどうかなって!……あれ?みぬきちゃんとおどろきくんは?」
なるほどくんだけって珍しい気がするーと、なまえは事務所を見回した。
「みぬきは明日、テストらしくてね。オドロキくんも、明日に備えて早く帰ったよ」
「あ、そういえば、明日は大変そうな裁判があるって聞いた気がする!そっかぁ、二人とも大変だー…なるほどくんはご飯食べちゃった?」
「ううん。まだだよ」
「それじゃあ、一緒に行かない?」
「いいよ、じゃ、行こうか」
「やった♪」
「新しいラーメン屋さんを見つけたから、そこに行ってみたいんだけど…」となまえが言うと、成歩堂は頷いた。
(もっと、おしゃれなところじゃなくていいのかな)
そんな想いも少しあるが、相変わらずなまえは機嫌よさそうに歩いているので、問題ないのだろう。
そんな上機嫌のなまえの少し後ろを歩いていた、成歩堂は唐突に口を開いた。
「ねぇ、幸せってなんだと思う?」
「えーっ?突然だなぁ…幸せ…うーん、そうだなぁ…」
振り返り、立ち止まって考え込むなまえに、成歩堂は申し訳なさそうに眉を下げた。
「…やっぱり難しいよね。突然変なこと聞いちゃってごめん、忘れてくれていいよ」
自分でも、突然何を言っているんだろう、と思って発言を撤回しようとすると、なまえがそんな成歩堂を遮った。
「うーんと。ちょっと待って、ちゃんと答えるから…今ね、いっぱいありすぎて迷ってるとこなんだ」
「…え?」
「えーっとね……ふかふかの布団で寝る時でしょ。おいしいご飯を食べられる時でしょ。面白い本との出会いでしょ。あ、ずーっと触らせてくれなかった野良猫が、ようやく撫でさせてくれたりした時も幸せだなぁ」
再び歩き出して指を折りながら、『幸せ』を数えていくなまえ。その様子を、成歩堂はぽかんと見ていた。
「もちろん、今も幸せだよ〜!仕事明けに、なるほどくんの顔を見れたし、なんと言っても、久しぶりになるほどくんと二人っきりだもん!みぬきちゃんたちには悪いけど、ね。あ、でも、お腹空いてるから、ちょっとマイナスかも?」
そう言って、なまえは笑った。
「なるほどくんが 隣にいてくれるってことが、私の一番の幸せだよー。なるほどくんと一緒なら、どーんと幸せ上乗せ!って感じ?食べ物で例えるなら…ざるそばが天そばに、カレーがカツカレーに、ラーメンならトッピング全部乗せになる、みたいな!」
「そんなにお腹すいてるの?」
妙な例えをするなまえに苦笑する成歩堂。でも、それがなまえの優しさなのだった。
(…どうやら、ぼくはかなり追い詰められてたみたいだな)
なまえが今のように子供っぽい態度を取る時は、自分に余裕がない時。
こんな情けない自分をさりげなく救ってくれるなまえには、本当に感謝しなければならないと思う。
「にゃはは。恥ずかしながら、お腹ぺっこぺこですよー。でもとにかく、私の幸せって、そういうこと!なるほどくんは違う?」
「…いや、違わないよ」
成歩堂は首を振って、なまえちゃんには敵わないな、とまた笑った。
「よかった!違うって言われたら泣いちゃうところだったよ」
へへ、となまえも笑う。
「幸せは難しくなんてないよ。なるほどくんと私が一緒にいれば、幸せだらけで、幸せがハイパーインフレだよっ!」
「なにそれ、言葉の意味おかしくない?」
「ふふふっ、気にしなーい気にしなーい!」
成歩堂の冷静な突っ込みも、なまえは笑って流してしまう。
成歩堂は、少し前を歩いていたなまえに並んで、その手をとった。
「…ありがとう」
「ん?こちらこそっ♪」
横を歩く成歩堂を見上げて、なまえはにっこりと微笑んだ。
(どんなにぼくが君に救われているか、君は知らないだろうけど。君がそばにいてくれるなら、どんな状況でだって頑張れるよ)
成歩堂は、心の中だけでそう呟く。
「今日は、ぼくが奢るよ。トッピングも全部乗せていいよ」
「えっ、いいの?」
「その代わり、ずっとぼくのそばにいてね」
「そんなことでいいの?ていうか、当たり前のことだから、対価にはならないような…」
だから、君には敵わない。
…そんな君だから、大好きだ。