時間の有効活用法



――今週末のスケジュールを確認。
…うーん、神速一魂のお仕事、どうあがいても変に時間が空いちゃいそうだなぁ。
かと言って、事務所に戻ってくるのも微妙なところ…

時は金なり!
こういう時は、移動に無駄に時間をかけるより、有効活用しなきゃね!
先に移動はしておいた方がいいから…2件目の現場周辺でよさげな所探しておこっと!


そして当日。
1件目の仕事は、予定よりもさらに早く終わった。
現場を出ると、玄武くんが声をかけてきた。

「次の仕事までかなり時間があるが…どうするんだい、番長さん?」
「結構時間あるよなぁ…事務所に一旦帰るか?」
「ふっふっふ!大丈夫、考えてあるよー」
「おぉぉ、さすがプロデューサーさんだぜっ!」
「万全の備えというわけか。着いていくぜ、番長さん」

…この2人は、私を褒めすぎる傾向にある気がする。
調子に乗って期待させるようなことを言った自分も悪いんだけど、そこまで期待されるとちょっと不安が…
今日は定休日じゃないし、この時間ならそんなに混んではいないと思うけど…予約できないお店だからなぁ。ちょっと心配だけど。

「ま、とにかく行こっか!」

2人を引き連れて、私は移動を始めた。


そして電車と徒歩をあわせて30分ほどの目的地の前で、私は足を止めた。

「じゃーん!ここでーす!」
「も、もしかして、ここは…!!」
「朱雀が知ってる…てことは」

ぶるぶると武者震いらしきものをする朱雀くん。
さすがに気付くよね。
玄武くんは、まだ知らなかったみたいだけど。

「そう、ここは最近人気のパンケーキ屋さんだよー」

説明しながらお店の扉を開ける。
ちょっと待ってる人はいるけど、このくらいなら大丈夫そうだね!
あ、ちなみに、申し訳ないけどにゃこには、外で待ってもらっている。

「今日、時間空きそうだから、この辺りで何か有効に時間つかえないかなーと思って、色々調べてたら、前に朱雀くんと話した時のこと思い出してね。『行きたいけど、並んでるし、女子ばっかりで行き辛い』って言ってたでしょ?この時間なら、空いてるかなーって思って。予想通り、このくらいなら次の現場にも間に合いそうだし、よかった」

私も気になってたし、と付け足せば、朱雀くんは『感動している!!』と言った表情で私を見た。
うんうん、いい顔!

「プ、プロデューサーさんよぉっ…!!」
「それに私がいれば、ちょっとは入りやすいかなと思ったんだけど、大丈夫だった?」
「もちろんだぜ」

玄武くんが頷く。
玄武くんはよく朱雀くんに付き合って、パンケーキのお店に行ってるみたいだけど、やっぱりこういうお店って女の子グループかカップルばっかりだから…男の子同士だと、ちょっと居辛いよね。
…まぁ、よその人たちから私たちがどう映ってるかは、わからないけれど。

待っている間にメニューを渡され、3人で眺める。
私はどれにしようかなぁ。
朱雀くんはメニューに穴が開きそうなくらい、真剣に見つめている。さすがというかなんというか。
ふと玄武くんを見ると目があい、2人でそっと笑った。

しばらくすると、順番が回ってきて席に案内された。
テーブル席に座り、2人に見やすいようにメニューを開く。

「さー好きなの頼んで!遠慮なくどーぞ!」
「ううう…さっきっから悩んでるんだけどよぉ…どれも捨てがたくってよぉ…」
「すごい悩みようだな。朱雀にとっちゃ、艱難辛苦…ってところか」
「あはは、こんなにあると迷っちゃうよね。せっかくだから、みんなでバラバラの頼んでシェアしよっか!」

悩んで唸っていた朱雀くんに私が提案すると、ぱあああと表情が明るくなった。
ふふ、忙しいなぁ。

「さすがだぜ、プロデューサーさんよぉっ!恩に着るぜ…!」
「このくらいお安い御用だよ。えーっと、どれで悩んでるの?」
「これと…これと、これと…あと…」
「メニューの端から端まで、ほとんど全部じゃねぇか」
「だってよぉ!」

コントのようなやりとりをする2人。でも朱雀くんは至って真剣だ。
でもさすがに全部は…量的にもだけど、経費で落とすにしても、ちょっと厳しい。

「うーーーん…ごめん、さすがにちょっと多いし、食べすぎて次のお仕事に響いてもいけないから、絞ろっか」
「すまねぇ…」
「いえいえ。それじゃ、系統はバラけさせるとして…玄武くんは何がいい?」
「俺はこのあたりが…」
「なるほど、食事系ね。じゃああとは、王道のイチゴ系と…和風の、でどうかな?」
「おぉ!サイコーの組み合わせだぜっ!!」
「じゃ、頼もっか」

私の提案はすんなり受け入れられたので、それをそのまま店員さんに伝えた。
そしてしばらくして。

「おまたせしました」

私たちの目の前に、ふわふわのパンケーキがコトリコトリと並べられていく。
1つ増えるたび、朱雀くんのテンションが目に見えて上がっていくので、すごく面白い。
と同時に、周りの人の注目も集めているのだけれど。

「ウォォォォォッ!!」
「おい、うるせぇぞ朱雀」

朱雀くんは玄武くんに冷静にツッコまれ、我に返った。

「わ、悪ぃ…!」
「あはは、目がキラキラしてるねぇ」

シェア用のお皿をもらって、私は自分の前に置かれていたパンケーキを切り分けた。
玄武くんも同じように分けてくれて、朱雀くんは「自分でやるとぐちゃぐちゃになる」と言うので、私が切り分けた。

「はい、こんな感じでいいかな?」
「…番長さんの分が少なくねぇか?」
「私は、2人よりお昼ご飯遅かったから、ちょっとでいいの。それに、2人が美味しそうに食べてるのを見てるだけで割とお腹いっぱいだから、気にしないで」
「ホントにいいのか?」
「大丈夫だってばー。ほら、食べよ!」

本当のところ…普通に食べられる量ではある。
だけど、成長期の男子と一緒のペースで食べてたら、確実に私だけ太る!!
なので、申し訳なさそうな2人には心苦しいけれど…遠慮させてもらう。

ホントに大丈夫だから、と再度念押しをすると、2人は納得して食べ始めた。

「う、うめぇぇ…!」
「甘すぎず、重すぎず…絶品だな、これは」
「口の中でとろけるねー」

3人でおいしいおいしいと言いながら食べていたら、目の前のパンケーキはあっという間になくなってた。

「ふぅ、おいしかったね〜」
「あぁ…騏驥過隙。あっという間だったな」
「連れてきてくれてありがとうなっ、プロデューサーさんッ!!」
「ふふ、どういたしまして…あれ、朱雀くん、口にクリームついてるよ」
「えっ、ど、どこだ?」

口の端にクリームがついてることを指摘すると、慌ててゴシゴシと口の周りを擦る朱雀くん。
コワモテな朱雀くんだけど、パンケーキを幸せそうに頬張る表情やこういう姿は、年相応に可愛いよねー。

「あぁ、そんなに擦ったらダメだよ…そこじゃなくて…ここ。はい、とれた」

苦笑しながら紙ナプキンでクリームを拭ってあげると、朱雀くんは顔を真っ赤にして震えだした。
…しまった、慣れてきたとは言え、今のはダメだったか。
朱雀くんがキャパオーバーで叫びそうになったところを、玄武くんがすかさず抑え込んだ。
ナイスフォローだ、さすが。

「…玄武くん、ありがとう。朱雀くんもごめんね、私ならもう大丈夫かなって油断してた」

最近は朱雀くんの女性への苦手意識もだいぶ軽くなってきたと思ったのに…まだまだダメかぁ。
結構長い付き合いになってきた私でも、不意打ちだとダメみたい。
まだまだ改善の余地ありだなぁ。

「いや…今回のは、むしろ番長さんだからだろ」
「…むぐぐ…げ、玄武!テメー!」

朱雀くんは玄武くんの手を押しのけて、逆に玄武くんの口を抑えにかかった。
その朱雀くんは、さっきから真っ赤なままだ。

「…な、なにしてるの??」
「なんでもねぇよっ!!気にしねぇでくれ!」
「え、えぇー…」

状況が呑み込めずにいると「問題ない」と言った感じで、玄武くんに手で制された。
…うーん。よくわからない。

その後、ゆっくりお茶を飲んでいる間に朱雀くんの顔の赤みも治まり、時間になったのでお店を出た。

「番長さんの心遣い、感謝するぜ」
「プロデューサーさんよぉっ、ありがとな!!次の仕事もバッチリ頑張るからよ!!」
「うん、よろしくね!」

2人の言葉が嬉しくて笑顔で返すと、玄武くんがフッと笑った。

「よかったな、朱雀」
「う、うううううるせぇ!!」
「ねぇねぇ、なぁに、さっきから2人とも。私には隠し事ー?」
「な、なんでもねぇって!」
「なぁに、男同士の秘密ってやつさ」
「えーなにそれ、気になるんだけど」
「だからなんでもねぇんだって!!」

むむ。前に隠し事はしないって言ってなかったっけ…
お年頃の男の子に、無理に聞きはしないけどさぁ。

そんな2人の態度に、若干腑に落ちない点はあったものの…
パンケーキをチャージした後の2人の仕事っぷりはそれは見事なもので、スタッフさんからもたくさんお褒めの言葉をいただいた。
時間を有効活用しよう作戦成功だね!

よーし、今度は玄武くんの好きなもの食べに行こう!
お店リサーチしとかなくちゃ!




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