たまにはこんな休日も



「ねーねー、プロデューサー!今度の日曜日、時間ある?一緒に買い物に行かない?」
「日曜日?ちょっと待ってね…」

今日の仕事も無事に終わって、解散になった帰り際。
咲ちゃんが声をかけてきたので、手帳を見て予定を確認した。
うん、何もない。日曜日に仕事がないのも珍しいなー。

「いいよ、付き合いましょ」
「わーい、やったー!ありがっとー!」
「でも、午後スタートにしてもらえるとありがたいな…」

早起きがツラいのと、若者に1日ついていく自信はない、という本音は秘密だ。
この間一緒に買い物に行ったときの丸1日コース、最後の方フラフラで、次の日もやばかったんだよー…

「了解だよ!パピッとプラン組んでおくから、任せて!あ、メイク道具持ってきてね♪」

楽しみにしてるね!と言って、帰っていく咲ちゃんを見送った。
メイク道具…?なんでだろ…運動するから、そのあとに直せるように、とか…?
ちょっと怖いな…主に次の日の筋肉痛が…
心の準備しとこ…!


◆◆◆◆◆


――そして、当日。

「え、と…これはどういうことでしょうか咲さん…」

この状況はいったい…!

指定の駅で待ち合わせて、まず向かったのは、咲ちゃんが来てみたかったという、レンタルファッションのショップだった。
そこで服を見る咲ちゃんの付き添いを…と思っていたのだが、咲ちゃんは私にも色々と服をあてだし。
「あたしはこれで、プロデューサーはこれね!」と押し切られ。
あれよあれよという間に、フィッティングルームに押し込まれ。
勢いでそのまま着替えていたのでした。

そして鏡に映る自分の姿…死ぬほど恥ずかしいんだけど、これ…!!!
こんな心の準備はしてなかったーーー!!!
鏡の前の慣れない格好…どころの話ではないよ…!

「プロデューサー、着替え終わったー?」
「お、終わったけど、出れないこれ。無理。脱ぐ」
「えーダメだよ!カーテン開けるよー?」
「やだ」
「そう言わずに〜。えいっ☆」
「ぎゃーーー!!!」

カーテンを開けられ、全く可愛げのない叫びをあげた私に対し、咲ちゃんは真逆の反応をしてきた。

「カワイイーーー!!!あたしの目に狂いはなかったねっ♪」
「どこが?!」

咲ちゃん眼科行こうか!?

「ほらほら、あたしとプロデューサー、色違いのお揃いなんだよー双子コーデってやつ☆」

くるりとまわる咲ちゃん。そのスカートがふわりと広がる。可愛い。
咲ちゃんは全体的に赤基調で統一されていて、レースがふんだんに使われたブラウスに、可愛らしいカーディガン。胸元にはリボンもついていて、スカートは膝丈のシンプルなもの、という格好だ。
トレードマークのツインテールはいつもより低めの位置で結ばれていて、服とあわせたカラーのリボンが結われていた。
対する私は、青基調の同じコーデ。
…確かにね、色しか違わない。服はね。

「あーうん、それは、知ってる…知ってるんですけど…!」
「あたし、1回やってみたかったんだー♪」
「いやね?やるのはいいんだけど、相手は選んだ方が…」
「だって、お願いできる人がいないんだもん!やるならこだわりたくって、背格好が同じくらいの人とやりたいなって。それに、あたしの事情を知ってる人じゃないと、お願いしづらいし…」

うぅっ!それを言われると弱いけれど…
涼くんの方がよかったんじゃないかなぁ…!本人は嫌がるだろうけど!私よりはずっと似合うよ!

「確かに身長は同じだけど!現役アイドルの体重と、一般人の体重が同じわけがなくてね!?そして何よりピチピチの18歳と、もうすぐアラサーという大きな壁ですね…」

肌のハリとか!全然違うじゃん!
言っててマジ凹むけど事実だし、どうしようもない。

「そんなことないよ!ねープロデューサーおねがい!!!ホラ、そんなに体型が目立つ格好じゃないしっ!ねっ?」
「いやだよぅーーー」

確かに、いつもの咲ちゃんからすると、スカート丈は長めだし(いつもパンツスーツの私にとっては、それでも短い!)、落ち着いた雰囲気だとは思う。
けれども!
自分がするとなると、この格好はキツいものがある…!

「プロデューサーのお願い、なんでも聞くから!ね?」
「ううう、そんな甘言に騙されないんだから!」
「プロデューサー!」
「無理だって!マジで!」
「ねぇおねがいーーー!!!」
「うううううう…………………今度むっっっずかしい仕事持ってきてやるんだから…!」
「わーーーい!ありがっとーーーー!!!どんなお仕事でも頑張っちゃうよ!!」

押し問答の末、折れました。折れてしまいました。
喜んで抱きついてくる咲ちゃん。くそー可愛いなーこの可愛さに負けてしまう弱い自分…嗚呼。
しょうがないじゃないか、可愛いは正義。ジャスティスキュートって、かのんさんも言ってるし…ね…?


そんなわけで、それぞれ服をそのまま借り、「メイクとヘアメイクもこだわりたいの!」と言う咲ちゃんに、全部丸投げすることにした。
ここまで来たら、覚悟を決めるほかない。

「プロデューサーと同じ髪型にできるように、今日はちょっと低めで結んできたんだ☆」

そう言いながら、咲ちゃんは器用に、私の髪を結っていく。
二つに結ぶのなんていつ振りだろう…出来上がりが怖い。
落ち着かない私をよそに、とっても上機嫌な咲ちゃん。
そんなに楽しいもんかな…

「メイクもお揃いにするよー♪」

うん、もう好きにしてくださいな。



――ついに、咲ちゃんプロデュースの双子が完成した。

「すっごくかわいくできたよー!!あたしたち、今世界でいっちばん可愛い双子だと思うなー☆」
「え、あーうん、さすが咲ちゃん」

劇的ビフォーアフター。
咲ちゃんのメイクテクニックはさすがだ。匠の技だ。
私じゃないみたい…!

………とは思うんですけど。やはり素材の違いは大きくて。
双子といってもあれだね、驚異の格差社会。悲劇の二卵性双生児。
…いや、そもそも双子どころか、血の繋がりなんてないし、年齢だって違うんだから、当たり前なんだけど。

「プロデューサー!目が死んでる!せっかくかわいくしたんだから、シャキッとして!」
「が、頑張るよぉ…」

怒られたー…
新しい衣裳に袖を通すと狼狽える事務所の一部の方々の気持ちが、今、痛いほどにわかります…
……今日は、咲ちゃんが満足ならいいんだ…!と自分を納得させる。
間違いなく、咲ちゃんは可愛いよ、咲ちゃんは。
その咲ちゃんがいいって言うんだから、他の人からの視線は気にしない!…気にしないから…!

お店に荷物を預けて、意を決して外に出ると、先に歩いていた咲ちゃんが私の手を引いた。

「さ、じゃあランチにいこー♪」
「カフェパレじゃないでしょうね…?」
「それもいいかなって思ったんだけど、今日はお店開けてないんだよー。かみやたちも用事があるんだって」

ヒー助かった。
他人ならまだしも、知り合いには会いたくないです…

「あたしのオススメのお店をパピッと予約済みだから、いこいこー♪」

そこから、ランチ、ショッピング、話題のカフェ、とパワフルに連れ回された。
JKパワー恐るべし、だわ。
咲ちゃんに連れて行ってもらったようなお店には普段来ないし、今後の仕事の参考にもなりそうなネタも仕入れられたから、いいんだけど。
そのあたり、咲ちゃんは気にしてくれているのかもしれない。
……この格好のせいで、イマイチどれも集中できなかったのは、問題ではあるけれど。



そして気付けば、あっと言う間に洋服返さないといけない時間になっていた。

「咲ちゃん、そろそろ時間だよ」
「えっ!?あっ、ほんとだー!でもでも、あと1軒だけ、お願い!」
「…うーん、あと1軒だけなら大丈夫かな…?」

と連れてこられたのは、ゲーセンだった。
もしかして…あれですか。

「記念にプリクラ撮ろー☆」
「やっぱりかー…何年振りだろ…」

正直なところ、現役の学生時代にも、ほとんど撮ったことがない。
なんか今のプリクラってすごいらしいよね…?
アイドルのプロデューサーとして、ファンの世代のトレンドを知る、という意味では、これもいい勉強だね。うん。

「うわーー目がでかくてキモい!足もなっが!!」
「あはは、今はこれくらいフツーだよ?でも今日は、ナチュラルめにしておこうかな♪」

さくさくと設定を進めていく咲ちゃんをぼーっと眺めていると、あっという間に撮影タイムがはじまった。
そして、アイドルなだけあって、ポーズをばっちり決める咲ちゃんと、咲ちゃんに指示されてぎこちない笑みを浮かべる私、という予想通りの結果に…

「あはっ、このプロデューサー、面白い顔してるー♪」
「んもー変なやつは使わないでよー」

撮影が終わって、撮った写真が並ぶ画面を指して、あれやこれやと話す咲ちゃんは楽しそうだ。
撮ってる最中は慌ただしくて気付く余裕がなかったけど、こうやって見ると、咲ちゃんだいぶ顔近いね…?

「…うっ、落書きもなんかいっぱいある…任せた!!」

正直、自分の顔の上に全部スタンプを押していって隠したいところではあるけど、楽しげな咲ちゃんの横で、そんな大人げないことはしませんよ。
複雑な気持ちで画面を見る私をよそに、咲ちゃんは撮影の時と同じくさくさくとデコっていく。
さすがだ…私、現役の時だってこんなことできなかったよ。

それから出来上がったプリクラを、咲ちゃんが切り分けてくれた。
すごいなこのクオリティ…普通のレベルのプリクラを知らないけれど、おそらく咲ちゃんは相当に慣れているんだろう。
本人もとても満足そうで、大事に手帳にしまっていたので、私もそっと手帳に挟んだ。
落とさないように、家に帰ったらどこかにしまっておこう。



ゲーセンを離れた後、借りていた服を返し、メイクも落として、元通りの私になった。
ふわーー落ち着く…慣れない格好で体が強張っていたのか、ふにゃふにゃになりそうだ。

「今日はありがとう、プロデューサー!」
「ん。咲ちゃんが楽しんでくれたならよかったよ」

今日の目的はそれだから。私の精神的なダメージなんてささいなことよ。

「ごめんね、プロデューサー。いつもお仕事で疲れてるのに、連れまわしちゃって…今度はプロデューサーの好きなことしにいこ!」
「そしたら温泉とかになるよ?」
「温泉かぁ〜…」
「はっ!そうか、一緒に入れないね」
「部屋に温泉のある旅館とかあるよね。そこなら大丈夫じゃない?」
「なるほどねーっていやいや。なにさらっと言ってるの。とんだスキャンダルですよ」
「えへへ」

なんて軽口を叩きながら、駅までの帰り道を歩く。

「プロデューサーと一緒だとホント楽しいな♪」
「それはよかった」

まぁたまには、こんな休日も悪くない…かな?
でも、さすがにもう双子コーデは勘弁願いたいけれど。

「そんなに楽しかったなら、仕事で探してみようか?どこかの女の子アイドルと、双子コーデのグラビアとかなら、ありそう」
「うーん、カワイイ服を着れるのはうれしいけど…あたしは、プロデューサーとしたかったから。楽しかったのは、プロデューサーが一緒にしてくれたからだよ。あ、でもでも、そういうお仕事が来たら、パピッとこなしちゃうから任せてね!」

私としたかった、か。私個人としては、喜んでいいのかなこれは。
それなら、恥を忍んだ甲斐があるけど。
でももうほだされないんだからね!!



そんなことを話しているうちに、駅に着いた。
駅からは反対方向だから、ここでお別れだ。

「それじゃあね、プロデューサー!」
「気をつけてね」

先に電車が来た咲ちゃんが乗り込む。
ドアが閉じても可愛く手を振る咲ちゃんに手を振りかえして、見えなくなったところで大きく伸びをした。
担当アイドルもっともっと輝かせるために、明日からも頑張りますかー!


◆◆◆◆◆


後日。
「プロデューサーさんは、可愛い格好も似合うんだね」
「…はいっ!?」
「水嶋さんが、プロデューサーさんと双子コーデをした、と言って写真とプリクラを見せてくれましたよ」
「え」
「もしや、主もパピ族の末裔だったのか…!?」
「ちょ」
「せっかくだったら生で見たかったなあ。今度は俺も呼んでくださいね!」
「〜〜〜〜っ!!咲ちゃんんんん!!!!!!」




Main TOPへ

サイトTOPへ