汝に捧げる箱庭の糧



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理由あって、315プロダクションでバイトをしはじめて、早3ヶ月。
ここはアイドル事務所のはずなのに、飲食店のバイトで賄いが出てくるのと同じくらいのレベルで、色々な人が食べ物をくれるし、食べに連れて行ってくれる。
ケーキ、パンケーキ、ドーナツ、お茶菓子、たい焼きなどの幅広いお菓子から、たこ焼き、おにぎり、ラーメン、カレー…などなど。
一人暮らしの貧乏学生の私には、とってもありがたい職場だった。


「アーッハッハッハ!さあ、同胞たちよ、新しき日を共に祝福しようではないか!」
「おはようございます、アスランさん」

姿を確認する前にわかる、独特な挨拶と、高らかに響く声を持つ人。
私はその声の持ち主――アスランさんに挨拶をした。

ちなみに、時間はお昼をやや過ぎているけれど、業界のルールで「おはよう」を返す。
最初は慣れなかったけれど、今ではつい、他所でもまず「おはよう」と言ってしまいそうになるくらいになった。

「おお、ナマエ…これも暗黒神に導かれし運命か!」
「私に御用でしょうか?」

どうやら、アスランさんは私を探していたようだ。
デスクから立ち上がると、アスランさんもこちらにやってきてくれた。

「ナマエには、我が詠唱術によって生み出された糧を与えん!そして、我がグリモワールに新たに浮かび上がりし禁断の術を授けよう!」
「わぁ!!ありがとうございます〜〜〜!!」

アスランさんは実はすごい経歴を持つシェフなので、こうして料理をふるまってくれたり、安くて美味しく作れるレシピを教えてくれたりする。
最初、レシピが解読できなくて困っていたら、わざわざわかりやすく書き直してくれた、優しい人でもある。

会話は、まだ難しい部分もあるけれど…
巻緒さんたちにフォローしてもらった甲斐もあって、レシピに書かれている言葉は、なんとか理解できるようになってきた。

「お昼ご飯にいただいてもいいですか?」
「フッ、それは汝に許された午餐…熱を司る箱の内で束の間の舞踏に興じ、熱き衣を纏わせ味わうがいい!」

えーっと…箱…熱き…きっと、レンジでチンした方が美味しいってことだよね!

「温めていただきますね!ありがとうございます!」

そう返すと、満足そうにアスランさんは頷いた。
わーい、今日のランチも美味しいものが食べれるぞー!
目の前の仕事も頑張れそう!

「アスランさんは、今日はこれから…レッスンでしたよね。もしかして、わざわざこれを渡しに事務所に来てくれたんですか?」
「案ずるな、定められし道の半ばに呼応しただけのこと」
「本当に、いつもいつも、ありがとうございます…!」

深々とお礼をすると、アスランさんはびし!とポーズを決めて「主と同じく、ナマエも我が覇道を共に闇で覆う者!我が糧を授けるなど、至極当然のことだ!」と言い放った。
えと…つまりは、私を褒めてくれてる…ってことかな?

「そんな…私がいただいている方がずっとずっと大きいです!もし、何かお手伝いが必要なこととか、欲しいもの…は、ちょっと無理かもしれませんけど…とにかく、私に何かお返しできるものがあれば、遠慮なく言って下さい!!」
「ふむ。そこまで言うのであれば…我は、ナマエの生み出す糧を所望する!」
「わ、私の手料理…ってことですか!?そんな、アスランさんに振る舞えるような腕じゃないですよ!」
「弟子の腕を確認するのも、師の務めだ!」
「そ、それは…確かにそうですね…」

レシピをもらってるんだもの、それをチェックしてもらうのはもっともなことだ。
…よーし!

「わかりました!今度、お弁当作ってきます!!」
「おお、待っているぞ!」
「はい!」

帰ったら、早速メニューを考えなくっちゃ!
レシピはいっぱいもらってるから…その中でも得意なやつにしよう。
あ!お弁当なら…サタンのキャラ弁とか、どうだろう?
なんとか作れないかな…アスランさん、サタンといつも一緒だから、きっと喜んでくれるだろうし…!
私の腕だと、ちょっと時間がかかっちゃうかもしれないけど…早速、今日から練習しよう!

おっとっと…いけない。
その前に、今日のお仕事も頑張らなくっちゃ!


***


そして何日か後、アスランさんに渾身のお弁当を渡すと、目を輝かせて感激してくれた。

「なんと…ナマエは、サタンを称える物語の紡ぎ手であったか…!」
「見た目はなんとか…味も伴ってると、いいんですけど…」

アスランさんが、私の作ったお弁当に、箸をつける。
…うぅ、ドキドキする。
何度も味見したせいで、最後にはよくわからなくなっちゃったから、不安でいっぱいだ。

「うむ!実に美味だ!優秀な弟子に、我が魂も歓喜している!」
「よ、よかったー…アスランさんにそう言ってもらえて安心しました!」

まだ食べてもらったのは一品だけど、ふーっと胸をなでおろす。
レシピを生かせてないとか、思われなくてよかったー!
…思ってもきっと、アスランさんは優しいから、そんなこと言わないだろうけど。

「…実は、誰かにお弁当を作るのは初めてなので、そういう意味でもドキドキしちゃいました」
「な、なにっ!?」
「えへへ…愛情はしっかり込めましたけど、美味しくなかったら遠慮なく指摘してください!あと、何かアドバイスももらえたら嬉しいです!」
「むむ。なるほど、それもまた師の務め。この箱庭の審判、しかと承った…!」

そんなやりとりをしながら食べてもらったんだけど、サタン部分になかなか箸をつけてもらえなくて大変だった。
キャラ弁も善し悪し…かも。
でも悪戦苦闘していたアスランさんは可愛かったし、許されるなら、また作りたいな…!




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