キュートな向上心



「かのん、なまえちゃんにお願いがあるの!」
「お?なになに、かのんくん」

とある日の夕方。
学校帰りに事務所にやってきたかのんくんに…なんというか、いつもと違ってメラメラ?ギラギラ?…という表現が合う感じで話しかけられた。
かのんくんにしては、珍しいテンションだな。

「あのね、いつもかのんの台本に、プロデューサーさんとなまえちゃんが、ふりがなをふってくれてるよね」
「うん、そうだね」

かのんくん含め、もふもふえん宛てに来る台本は、プロデューサーさんと私でルビを振り、難しい言葉には簡単に意味を添えてから、3人に渡している。
最近は、プロデューサーさんが忙しくて手が回らなくなってきてしまったので、もっぱら私の仕事だけれど。

「それをね、今度からやめてほしいの!」
「え?」
「今日学校でね『大変でも、自分で調べた方が、記憶に残りやすい』って先生が言ってたの。かのんね、その通りだなって思ったから、自分で辞書で調べて、がんばりたいの!かわいいだけじゃなくて、かしこくてかわいい方がいいもん!」

おぉ、なんて素晴らしい向上心…!
だけど…

「それはすごくいいことだと思うよ!かのんくんはすごいなぁ!だけど…確か次のお仕事って、時代劇じゃなかったっけ…?」
「む、難しいかな…?…やっぱり、かのんにはまだ無理かなぁ…?」
「そんなことはないよ。そうだなぁ…なにかいい方法は…」

このやる気を削ぐことはしたくない…かといって、もふもふえんは売れっ子アイドルだから、自分で調べて、理解まで持っていく時間があるかが怪しいんだよねー…
――あ、そうだ!

「それじゃ、こうしてみない?」
「え?」
「本当は、全部自分で調べてみた方がいいんだろうけど、最初からは難しいだろうし、今回は特に大変だと思うから…まずは間違ってもいいから、1回声に出して読んでみよう」

そこでとりあえず区切って、かのんくんの反応を見る。
…こくこくと頷いてくれているから、続けよう。

「それを横で聞いてるから、間違ってたら教えてあげるね。それで、時間があれば、意味は自分で調べてみよう。難しそうだったら、意味も私が教えてあげる。ただ教えられるよりも、一度自分で考えてみることが大事かなって思うから…まずはそれでどうかな?」
「わあ!!でも、いいの?なまえちゃんのお仕事の邪魔にならない?」

そりゃ本当は、さらさらっとルビを振って、ざっくりと意味を説明してしまう方が楽だ。
けれど、せっかくのかのんくんの向上心は、大事にしたい。というか、しなければならない。
今は多少仕事が増えてしまうかもしれないけれど、今の頑張りが、きっと未来のかのんくんをさらに大きく成長させるはずだから!
他のことは、かのんくんがいない時間に済ませられるよう、調整しておこう。

「全然大丈夫だよ!かのんくんのお手伝いさせてね」
「…ありがとう、なまえちゃん!!」

私が笑って返すと、最強に可愛いスマイルを浮かべて、かのんくんは抱きついてきた。
か、かわいすぎる…!!これが撫でずにいられようか!いやない!
しかし平静を装って、私はニヤニヤを抑えながら、優しくかのんくんの頭を撫でた。

今度のかのんくんの役どころは、有名な戦国武将の幼少期。
難しい言いまわしや、知らないことがたくさん出てくるだろうけど、幸いなことに資料はたくさんある。
わかりやすいように、学習マンガ系でいくつか見繕っておいて…
九十九くんや黒野くんあたりに相談しておくのもいいかも。
あとは…図書館に行くのもありだけど、よさそうな本は、プロデューサーさんに経費で落としていいかも聞いておかなくちゃ。
プロデューサーさんには遠く及ばないけれど、私も頼りにしてもらえるように、勉強しておくぞー!

「台本が届いたら、すぐにかのんくんに渡すから、頑張ってね!」
「うん!!なまえちゃん、だーいすき!!」

うっ…!!もうダメ、表情筋が緩みまくりだ…!!
おそらく、外で誰かに見られたら通報されかねない絵面だ。
でも!この笑顔のために、私は頑張っちゃうよーーー!!!




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