一日の終わりに君と



なまえがお風呂から出てくると、久しぶりに泊りに来た恋人が腕立て伏せをしていた。

「想楽くん、筋トレはじめたの?」
「そうだよー。1週間くらい前からだけどねー」
「へー…あ、そういえば、この間のお仕事、体のラインがすっごく出てたし、お腹も出してたもんね」

的確にきっかけを指摘され、想楽は黙り込んだ。
よく見てくれていることが嬉しい反面、見透かされているようでなんだか悔しいのだ。

「せっかくだから手伝うよ!乗っていい?」
「そんなのは無理だからねー?」
「えー…じゃあ、腹筋手伝う!」
「…まあ、それならお願いしようかなー」

想楽への的確な指摘とは裏腹に、子供っぽく手伝いを申し出たなまえは、想楽の足を抱え、思いっきり抱きしめた。
なまえが思いきり抱えていることで、柔らかな感触が想楽の足へ押し付けられており、体勢がやや前かがみになっているため、ゆるい部屋着から大きく開いた胸元が見えてしまっている。

「そんなに強くなくて大丈夫だから…というか、すごい当たってるんだけどー?」
「あててんのよ!」
「…はいはい」

ドヤ顔のなまえはどこまでもマイペースだ。
その言動のどこまでが計算で、どこからが無自覚なのか…
考えたところで、この恋人の思考回路を理解するのは無理なので、想楽は流すことにした。
なまえも、想楽に流されたので、仕方なく力を緩めた。
しつこくはしない主義だ。

「じゃ、カウントよろしくねー」
「りょうかーい!…いーち、にーい、さーん…おぉー」

想楽のテンポが思ったより早いことに驚くなまえ。

「…はーち、きゅーう、ちゅー」
「…なにそれー…」

10回目のカウントが「じゅう」ではない上、唇を突き出すなまえに想楽は腹筋を止める。

「10回ごとにご褒美です」
「そういうのいらないから、真面目にやってー?」
「えぇぇー…想楽くんが冷たい」

よくもまぁ変なことばかり思いつくものだ…と呆れる想楽。
これで自分より年上の社会人、しかも会社では小さなチームながら、リーダーをやっているそうだから、世の中不思議なものだ。
ちぇーと言いながら、腹筋を再開した想楽にあわせて、なまえもカウントに戻った。

そして腹筋が終わると、想楽は立ち上がった。

「2人で出来るストレッチも教えてもらってきたから、やろうかー」
「やるやる!」

まずは簡単なのからねー、と2人で手を繋いで横並びで引っ張り合う。

「あーーー効く…!」
「これで5秒キープねー……はい、反対」
「っあーー」

次は背中を伸ばすよーと、背中合わせになり、腕を持って背中になまえを乗せる想楽。

「うひゃー懐かしいねこれー小学校の時とかはよくやった気がするーー」
「…僕のこと、乗せられるー?」
「んーどうだろ?やってみないとわかんないけど…よいしょーっと…できた?足ついてない?」
「うん、大丈夫ーできてるよー」
「あはは、たのしー」

それから、前屈をし、想楽がなまえの背中をぐいーっと押すと、すぐに限界が来たようで。

「いたた、ギブギブ!」
「前から思ってたけど、なまえさんって体硬いよねー」
「小さいころから硬いんだよねー…ぎゃっ、痛い痛い!無理無理!」
「ふふっ、面白いくらい硬いねー」
「ぐえーーやめてーー!!!」

そんな風に、いくつかのストレッチをしているうちに、なまえはあることに気が付いた。

(なんか私ばっかりやってもらってるような…全然筋トレじゃないし…おかげさまでちょっと肩こり楽になった気がするけど…って、そうか。想楽くん、私用にこのストレッチやってくれてるんだ)

「ふふふーありがとう、想楽くん」
「なにがー?」
「なんていうか、いろいろ!」
「…よくわからないけど、どういたしましてー」

また見透かされちゃったかなー、と思いつつも、想楽は曖昧なまま返事を返した。
なまえは笑っていたから、まぁいいだろう。

ストレッチが終わると、想楽は筋トレに戻ったが、なまえはこれ以上は今日は限界、と戦線を離脱した。


「こういうことした後って、水分たくさん取るのがいいって言うよね。はい、どーぞ」
「ありがとうー」

想楽が筋トレを終えると、なまえはスポドリとかはないからお茶で我慢してね、とコップを渡した。
そして自分もコップを抱えながら、想楽に向き直る。

「想楽くんの腹筋が6つに割れる日がくるのかな?」
「さあ、どうだろうねー?」
「私あんまりムキムキなのは好きじゃないんだけど…お姫様抱っこはしてほしいな!夢だよね、夢!」

今でも出来ると思うけど、と出かけて想楽は口をつぐんだ。
なまえが重いというわけではないが、万が一にも出来なかったらカッコ悪い。
ありのままでいたいとは思っているものの、恋人にカッコ悪いところを見せたくない、という男のプライドもあるのだ。

「…そのうちに、ねー」
「うんうん、待ってるよ!…あ、そうだ、ご飯も意識した方がいいよね!ササミだっけ?」
「うーん、たぶんー?」
「じゃあ今度うちでご飯食べるときは、早めに連絡してね。それまでに色々レシピ調べとくよ」
「…ありがとー」

そのままとりとめのないことを話していると、なまえが大きなあくびをした。

「…ふわぁ…今日はもう寝るー…」
「ふふっ、大きなあくびだねー」

そのままベッドに向い、倒れ込むなまえを追って、想楽もベッドにもぐりこむと、なまえは想楽にすり寄る。
想楽が優しくなまえの髪をすくと、なまえは満足そうに笑い、またあくびをした。
すると、そのあくびが想楽にもうつったのだった。
それを見てなまえはまた、嬉しそうに笑った。

「ストレッチのおかげでよく寝れそうだよ…おやすみぃ…」
「おやすみー」


そして翌日。
日頃の運動不足がたたり、なまえは筋肉痛になっていた。
痛みで奇妙な動きをするなまえに、想楽は苦笑した。

「…一緒に運動しようねー?」
「…はい」
「筋肉痛ー、翌朝来るは、セーフかなー?」
「ととのってないんだからねー!?」




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