君の匂いに包まれて



「うううーーさっむ!!」

今日は、四季1人に依頼された仕事の立ち会いだった。
その仕事を終え、現場のビルを出れば、冬の寒さが容赦なく襲ってくる。
慌ててマフラーを巻いて、隣の四季を見ると…

「あれ四季、マフラーは?」

スマホを見ていた四季は、はっとして、ごそごそとリュックを探しはじめた。

「え、あれ…あ〜…事務所に寄った時に、置いてきちゃったかもっす」
「帰り、駅から自転車でしょ?今から事務所に取り戻ってたら遅くなっちゃうから…これ使って!女物で悪いけど」

私は返事を待たず、巻いていたマフラーを強引に四季に巻き直した。
…これでよし、と。
女物だけど、四季なら似合っちゃうなぁ。
むしろ私がするより可愛い。

「え、でもプロデューサーちゃんは」
「私は今から事務所戻るし、髪下ろすと割とあったかいから大丈夫」

四季を安心させるために、コートの襟元を出来るだけ締めて、結んでいた髪をほどいて首元をガードする。
もちろんマフラーの方が暖かいけれど、これはこれで暖かいんだよね。
不格好だけど…まぁ、風邪をひくよりはいいでしょ。

「ボーカルなんだし、首冷やしちゃダメだよ」
「ありがとうっす!」

そしてそのまま、駅まで四季と連れ歩く。
四季はなんだかご機嫌みたい。
今日の仕事、うまくいったもんね。

駅からは別の電車なので、改札でお別れだ。

「それじゃ、四季、今日もお疲れさま。気をつけて帰ってね」
「プロデューサーちゃんも、お仕事頑張ってね!あんまり遅くなっちゃダメだよ!バイバイシュー☆」

ぶんぶんと手を振り、ホームへと降りて行く四季を見送って、私は別のホームに向かい、事務所への帰路に着いた。


×××


――到着っと!

今日のお仕事も楽しかったっすー!
プロデューサーちゃんと別れて電車に乗ると、あっという間に家の近くの駅に着いた。
停めておいた自転車で、冬の夜空を走り出す。

「はぁーっ…さっむいっす〜…」

どうせ寒いなら、雪降って欲しいっす。
愚痴のように思いっきり息を吐けば、蒸気みたいに真っ白になった。

でも、首元はずっとぽかぽかしてる。
あったかいなぁ、このマフラー…プロデューサーちゃんの匂いもするし。へへ。
思わず、マフラーに顔を埋めて、深呼吸をしてしまう。

…って、オレ、変態じゃないっすよ!?
シシュンキの男子なら当然の反応っつーか!
…なんて、誰に責められたわけでもないのに、言い訳を並べてしまう。

でもやっぱり顔がニヤけちゃうっす!
へへへ。


家に帰っても、なんだかもったいなくてマフラーを外せないでいると、プロデューサーちゃんからスマホにメッセージがきた。

『おうち着いた?マフラーあったよ。失くならないように預かっておくね』

わざわざ写真付きで送ってくれたプロデューサーちゃんに『ありがとう』とお気に入りのスタンプを返す。

『ちょうど今帰って来たところっす!』と打ち込んで…
それから…えーっと…

『外寒いから、オレのマフラー使って帰ってね!』っと!
さっきは大丈夫って言ってたけど、きっとプロデューサーちゃんが帰る頃にはもっと寒くなってるだろうし!

『プロデューサーちゃんのマフラーあったかかったっす!いい匂いもしたし!』

調子に乗って、頬を染めたスタンプも送っちゃったりして!
それからもう1回、ありがとうのスタンプを送る。


………あれ。
既読はついたのに、返事が来ない。
勢いで送っちゃったけど…引かれてない…っすよ、ね?
プロデューサーちゃんも、オレのマフラーでオレのこと感じてくれたら、うれしいんだけどなあ…

High×Jokerのみんなでお仕事する方が楽しいし、好きだけど、今日みたいなことがあるなら、1人の仕事も悪くないっすね!


×××


ぶっっっ!!!!

私はスマホを見て噴き出した。
…事務所にはもう誰もいないのが、不幸中の幸いだ。

「な、何を言ってるの、四季は…!」

スマホには、私が噴き出した原因の、四季から来たメッセージ。
思わずスマホを裏返して、私は返事をしないまま、仕事に戻った。


――そして、終電が迫るころ。
仕事をようやく終え、帰る準備をしていると、机の上に預かった、四季のマフラーが目に留まる。
帰るために暖房を切ったので、事務所にはひんやりとした空気が流れていた。
事務所がこんなに冷えるんだから、外はさぞ寒いことだろう。

「………四季のマフラーを借りるのは、寒いから!風邪をひいて仕事に穴あけるわけにはいかないから!」

誰もいない事務所で自分に言い訳をするように大声で宣言して、そっとマフラーを巻く。
…なんでこんなことをめちゃくちゃ恥ずかしがってるんだ、私は…!
うう、情けない…

そのまま事務所に鍵をかけて外に出ると、強い冷気が襲ってくる。さーむーいー…!!
でも首はあったかいし…ていうか、むしろ顔熱いし…意識し過ぎでしょ…!

…だって、マフラーから、四季の匂いがする。
意識せずには、いられないじゃない……!!

――ああもう〜〜〜!!四季のバカバカ!!!
大人らしからぬ八つ当たりをした後、私は大きく息を吐き出し、冷たい空気を思いっきり吸い込んだ。
冷たい空気がきっと、私のこの熱を冷ましてくれるはずだ。

明日、何食わぬ顔で、大人らしい態度で、マフラーを返すためにも、落ち着かなきゃ…!


…………しかし、冷たい空気と同時にマフラーの匂いも盛大に取り込んでしまった私は、眠れぬ夜を過ごすこととなったのだった………




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